『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  497

2015-03-31 08:14:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスは、アヱネアスらを伴って浜小屋へと歩いていく。 
 『統領、こちらへの海路はいかがでしたか?』
 『おう、風の具合は、幸運と言えたな』
 『そうですか、それは何よりでした。しかし、あれですな、真っ新のカッコイイ船ですな』
 『あの船の事か』
 『そうです』
 『あの船は試作した船だ。このたびの山行の船旅で試乗といったところだ』
 『そうですか。是非、乗せてください』
 『判ったぞ!浜頭の評価も聞きたい』
 『それはそれは、ありがとうございます』
 一同は浜小屋に着いた。そこには昼食の準備が整っていた。スダヌスがクリテスに話しかけた。
 『おう、クリテス、お前、統領の山行の随行か、それはよかった。元気そうでなによりと、俺はうれしい』
 父が息子に掛ける言葉であった。スダヌスは戸口から浜を見やった。
 『おい、クリテス、船の浜揚げ作業が終わったらしい。ギアスたちを呼んできてくれ』
 『判りました』
 クリテスは浜へと向かった。ギアスと漕ぎかた一同が来る。浜衆たちも加わって全員が席に着いた。
 浜小屋は、炉のつくりのある浜小屋である。浜小屋の中は、煙はもうもう、昼食の肉、魚、具材の焼ける臭いが充満している。
 スダヌスは立ちあがり、統領らの歓迎の口上を述べた。
 『統領に軍団長、そして、一同!俺が浜、スオダの浜へようこそおいでくださった。大歓迎です。我らが心づくしの昼めしです。召し上がってください』
 一同から拍手があがる、うなずくスダヌス。歓迎の昼食が始まった。
 一同は酒杯を手にして、『旨い!旨い!』で昼めしを腹に収めた。
 頃合いをみて、スダヌスはイリオネスに話しかけた。
 『おう、イリオネス、今日の手配は済ませている。今日は日暮れまでにパノルモスに行く。昼めしを終えたら出航だ。いいな。パノルモスからイデー山の麓まで歩いて半日の行程だ。明朝ははや立ちでイデー山に向かおう』
 『判った。それは統領に伝える』
 『そこで次の日の予定を話し合おう。統領には、腹づもりの予定もあると推察している』
 『判った。そのあたりは、お前任せだ。宜しく頼む。山麓に着いたところで、クリテスからも事情を聴いて、山行三日間の予定を話す』
 『判りました。では、その様な予定で行きます。クリテスもいることです、ここからは、私一人が船に乗ります。以上です』
 『そうか、よく判った。了解した』
 『イデー山山頂付近には雪があります。山行の旅装についてはパノルモスに着き次第整えます』
 『そうか、浜頭。世話をかける。心から礼を言う、ありがとう』
 『軍団長、こちらこそです。イリオネス、ありがとう』
 二人はうなずき合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  496

2015-03-30 06:41:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスはイリオネスの目を見つめた。
 『なあ~、軍団長。この旅の間だがどうだろう。お前と俺、互いに名前で呼び合おう。そのようにしたい』
 『判りました。統領がそのようにしたいと言われるのならばそのようにしましょう。しかしですな、チョッピリ呼びづらい』
 アヱネアスが話を続けた。
 『それから先ほどの艇の名前の事だ。意味合いからいって<ヘルメス>はいい呼び名だ。語呂は慣れてくればそのようになる。決定だ』
 『判りました。一同に伝えます』
 彼はギアスに声をかけた。
 『お~い、ギアス!艇の名前を決めたぞ!<ヘルメス>これでいく!いいな』
 『判りました。一同に伝えます』
 『おう、そうしてくれ』
 ギアスが一同に声をかける。
 『おう、諸君!よく聞けっ!新艇に名前が付いた。<ヘルメス>だ!統領の名づけだ』
 『おう、<ヘルメス>か。これはいい名だ!』
 漕ぎかたの連中は手を休めることなく話し合った。
 <ヘルメス>が南へと方向を転じて1時間半、スオダの浜への入り江口辺りまでに来た。
 『おう、カジテス、これを見ろ!じきにこの地点にさしかかる、ヘルメスが目指すスオダ浜はここだ。ここから入り江へ入って左手の奥だ。距離は約40スタジオン(8キロ)、判ったな』
 『了解しました』
 『入り江のど真ん中を進め!岩礁はない。気を配って操舵しろ!』
 『はいっ!判りました』
 <ヘルメス>は、転進地点に到達して、入り江へと入った。入り江の海には風がない。穏やかである、ヘルメスは海面を泡立てて進む。30分余り、西方向へと進んだ。浜に立って手を振る人影を見とめた。
 『統領、あ~、アヱネアス、スオダの浜です。手を振る者の姿が見えます』
 アヱネアスが立ちあがる、二人は手を振って応える。顔の輪郭が見えてくる。スダヌスである。時を要せず<ヘルメス>は、スダヌスのいる浜に乗り上げた。
 スダヌスが駆け寄ってくる、艇から降り立つアヱネアスとイリオネス、三人は顔を合わせた。
 『ようこそ!統領!スオダの浜へ。お元気そうで何よりです、お待ちいたしておりました。軍団長もようこそおいで下さった。大歓迎です。さあ~さ、こちらへ』と声をかけて、彼らが乗ってきた新艇を眺めた。
 『おう、ギアス、ご苦労。新しい船ではないか。船を浜へあげたら、一同をつれて浜小屋の方へ来い!いいな』
 スダヌスは、一拍をおいて話を継いだ。
 『それにしても真っ新のカッコイイ船ではないか。あとから船の話を聞かせてくれ。歓迎の昼飯を皆で食べる。いいな!』
 『ありがとうございます』
 『待っているぞ!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  495

2015-03-27 07:08:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
『統領、軍団長、艇はいい追い風をはらんで走っています』
 『らしいな。幸運と言える』
 イリオネスが答える。
 艇は三枚の帆に風をはらんで航走していた。
 『軍団長、この艇の船速は、舟艇に比べて速い、驚きの速さです』
 『そうか、そうか。この速さは俺も初めての速さだ。驚きだ』
 『軍団長、ちょっと話してもいいですか』
 『おう、いいぞ、何だ?』
 『ドックス棟梁とも話したのですが、艇に名前をという話です』
 『艇に名前を?』語尾があがった。
 『何か思いついた名前でもあるのか?あるなら言ってみろ』
 『ドックスの言い分では、統領と軍団長に考えてもらえと言っています』
 『そう言って、ほう、そうかとすぐ思いつくものでもない』
 『ドックスと私で考えた名前は<ヘルメス>はどうだろうかと、、、』
 『ほう、<ヘルメス>か。意味は解らんでもない。呼ぶ語呂の問題がある』
 『そうですね』
 『統領と話して考える』
 『判りました。宜しくお願いします。あの小船に付けた<ニケ>はいい呼び名ですね。あの船にぴったりです』
 軍団長と統領は、何かを話し合っている。ギアスは艇の名づけは急ぐことではないと艇の進行方向右手に見える半島の景色に目を向けた。
 半島の北東端が見えてきた。カジテスに指示を出す。
 『カジテス、ここは半島の岸に沿って進むのだ、いいな。転進の指示を出すまではな、判ったな』
 『判りました』
 航走は順調である。朝、浜を出て一刻(2時間)、スオダの浜への中間地点に到ろうとしていた。半島の北東端に到った。
 『もうそろそろだな、南に転進するのは、、、、』
 ギアスは、半島の北東端の崖を目にした。彼は木板に描いた図をカジテスに見せて、
 『おう、カジテス、この方向に転進してくれ、艇は中央の帆をおろし、漕走する』
 『了解しました』
 ギアスは風の具合を呼んだ。指示を発した。
 『中央帆柱、降帆!漕ぎかた開始!』
 櫂が泡立てる。艇は艇速を落とすことなく波を割った。
 イリオネスは、方角時板を取り出して、時の進み具合を測った。その結果をアヱネアスに伝えた。
 『統領、この艇速で進めば、スオダの浜に就くのは、昼少し前くらいではないかと思われます。この艇の走りが考えていた速さより速い。その一言です』
 『そうか、速い。その一言だな』
 アヱネアスもイリオネスも少しばかり興奮気味であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  494

2015-03-26 08:22:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オキテス、ガリダがここに来るのはいつ頃かな?その前に主だった者たちを集めて、留守中の事について、彼らに伝えようと考えている』
 『よし、、それはすぐやろう!ガリダが来るのは、いずれにしても昼少し前くらいとと思っている』
 『オロンテスの方はどうだ?』
 『俺の方は、時間的都合は、これといってない。オキテスの言うように、すぐやろう』
 『判った。場所は浜でいいな。班長格の者たちを招集して、指示打ち合わせをやる』
 三人は即刻手配に取り掛かった。アレテス、ドックス、マクロス、リナウスら10人が集まった。オキテスはガリダ来訪の事もあり、打ち合わせの一切をパリヌルスに任せた。
 パリヌルスは、統領の山行の事、軍団長が随行していること、二人が5~6日留守になることを伝えた。そして、本日より造船事業がスタートすることと、その事業進行の概要を説明して打ち合わせを終えた。
 『オロンテス、二人の留守の間は、キドニア行はセレストスに任せて、ここを離れないでいてくれると助かる』
 『その件は、承知している。この季節だ、農事の事もある。判った』
 『有難い、よろしく頼む』
 『パリヌルス、打ち合わせは終わったな、俺はガリダとの打ち合わせに集中する。ガリダが海路を来るか、陸路を来るか判らん。ドックス、マクロスと一緒に広場にいる。彼が来たらよろしく頼む』
 『判った』
 彼ら三人も各人の持ち場へと散った。

 ギアスは、東に位置するでっかい半島岬の西北端を目指して、風を読んだうえで進路を北へととった。陸から吹いてくる風を効果的に帆にはらんで、航走しようと考えての事であった。進むにしたがって風向きが変わる。南からの風が西南の風に変わってくる。彼は風ハラミを帆に直角にとらえるようにして艇を航走させた。半島岬の北端が右手真横に見える地点までに来ていた。
 彼は、風を読んだ。
 『よしっ!この風なら、帆走で行ける』
 彼は指示を発した。
 『漕ぎかた止め!舳先帆柱展帆!カジテス、進路変更右へ、半島岬の北へだ!岸に沿って東へだ!』
 『了解!』
 艇は、東へ舳先を向けて快走する。いい西風が艇を東へと押した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  493

2015-03-25 08:17:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスがギアスに声をかけてきた。
 『おう、ギアス!もういいだろう、艇を海へだそう』
 ギアスが新艇の周りにいる漕ぎかたの一同に声をかける。
 『艇を海へ出す!一同、位置につけ!』
 ギアスが舳先の位置に就く、続けて指示を出す。
 『カジテス!艇尾に就け!』
 『はい!位置に就きました!』
 彼が見渡す。
 『よし!いくぞ!』
 一同から声があがる。艇の前部に手をかけている者たちが第一声をあげる。『エンヤサッ!』
 後部の者たちが呼応する『エンヤサッ!』
 艇が浜から海に向かいはじめる、艇は海に浮かんだ。彼らは海に身を浸して、出航条件に合わせて位置と方向を保持した。
 『おう、カジテス、舵を整えろ!』
 『はい!』
 ギアスは艇上にあって、出航の準備を整えていく、荷を艇に積む、操船についての諸点を点検する、彼は渚に立つドックスにOKサインを送った。
 軍団長を先頭に浜を歩んでくる統領、クリテスらの姿を見とめた。パリヌルス、オキテス、オロンテスが合流して近づいてくる。浜の見送る人たちも彼らに歩を合わせて歩んでくる。統領ら三人が乗船にほど近い渚に立った。身体を見送り人たちに向ける。統領が一同に向かって声をかけた。
 『諸君!見送りありがとう。俺たちは、このクレタ島の中央にあるイデー山まで行ってくる。留守する間、よろしく頼む』
 見送りの者たちから一斉に拍手が沸いた。統領と軍団長が手を振ってこれに答えて艇上の人となった。
 ギアスから指示が飛ぶ、
 『漕ぎかた一同!乗船!位置に着け!』
 見て確かめたギアスが、陸からの風を読む、指示を出す、
 『中央帆柱、艇尾帆柱、展帆!』
 続いて軍団長に声をかけた。
 『軍団長、出航します』
 『オウ!』
 帆のハラミ具合をチエックして矢継ぎ早に指示を出す、
 『漕ぎかたはじめ!』
 櫂が海面を泡立てる、艇は波を割り始めた。浜に居並ぶ者たちから一斉に歓声があがった。
 アヱネアスらは、艇上から手を振って彼らに答えた。艇は、白く航跡を残して浜から遠ざかっていった。
 
 パリヌルスがつぶやく、『今日から、統領、軍団長がいない』
 彼は、オキテスに声をかけた。
 『オキテス、オロンテス、ちょっと三人で打ち合わせておこう。統領、軍団長の留守の間の事を、、、、』
 『そうだな』二人は相槌を打った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  492

2015-03-24 08:43:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスとドックス、二人の胸の内では新艇の名前が浮かびつ沈みつしていた。太陽が水平線を焼いて身を沈めていった。星が目覚める、月が夜の海を照らした。
 夜が明けてくる、星が眠りに就く、浜が日輪の第一射を待ち受けている。目覚めた者たちが姿を現し始める、渚がざわつく、太陽の第一射が今日の幕を切って落とした。それを待ちかねていたのか、浜に賑わいが沸きあがってきた。
 今日のキドニア行の担当はセレストスである、オロンテスが出航手配の指図をしている、舟艇に荷が積まれていく、出発の時が来る。セレストスが声をあげた。
 『オロンテス棟梁、出発します。統領、山行のパンの件、よろしくお願いします』
 『おう、判っている。今日のキドニア、頼むぞ!』
 『判りました』
 潮騒にかき消されないようなセレストスの大声であった。舟艇は白く航跡を残して浜を離れていった。
 オロンテスは、浜に姿を見せたパリヌルスとオキテスと話し合っている。ドックスとギアスの二人は、新艇を海に出すタイミングを計っている。
 『なあ~、ギアス、こんな時待ちのときは胸ドキだな』
 『私も一緒です』
 オロンテスの計らいで焼かれたパンが運ばれてくる。①~⑥まで番号が付されている大袋が新艇の傍らに置かれた。
 『ギアス、お前に言っておく、番号順に手を付けるのだ。①は第一日目の分だ。②は第二日目の分だ。三日目までの分については、ささやかではあるが副菜を入れてある。四日目以降の分からには副菜は入っていない。その旨、。軍団長に伝えてくれ。以上だ、よろしくな』
 『判りました。ありがとうございます。腹をすかして艇上で食べる昼は格別です』
 パリヌルスが近づいてきて声をかけてくる。
 『ギアス、今日もいい空模様だ。風の具合をどう読んでいる?』
 『風具合ですか、そうですね。半島の突端までは、陸風を受けての漕走ですが、東へ転進して、程よい西からの追い風になるかならないかを気にしています』
 『お前の操船には、安心している。航走にいい風が吹いてくれるように祈っている。望むより祈りには力がある。謙虚に祈る、これが物事解決の道を拓いてくれる。まあ~、そういうところだ。それを忘れるでないぞ』
 パリヌルスとギアスは、旅の前途を思いやって目を合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  491

2015-03-23 08:00:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、クリテス』アヱネアスが声をかけた。
 『俺がイデーの山に登って、頂に立つ、このクレタ全島をこの目で見る。それもあるが、もう一つの用件は、ゼウスの神殿に用事がある。お前がいたデロス島、アポロの神殿において受け取った神託の事もある』
 アヱネアスはクリテスと目を合わせた。
 『クリテス、こういうことだ。神託はだな、神託の言葉は、あまりにも曖昧模糊だ、伝えるべきことを神託を受ける者に判りやすく伝えてはいない。俺を補佐して、神託の真意を正しく解説してほしい。判ったな』
 『判りました』
 『ここでお前に言いたいことは、神託の内容を絶対に他言してはならんということだ。判るな。如何なることがあっても秘密は守ってもらう。いいな』
 アヱネアスは語尾に力を込めて、守秘義務であることをクリテスに告げた。
 『心得ました。如何なることがあろうとも、守るべき秘密は、この命にかけて守り抜きます。私が約束をたがえることのある事態になった時は、自分自身の手でこの命を絶つことを約束します』
 『おう、同道せよ』
 『ありがとうございます』
 クリテスは、山行に同道する命令を受け取った。
 
 オキテスは、ガリダの許に交渉に行ってきたマクロスとソリタンをを呼んで交渉次第の詳細を聞き取った。マクロスは話の成り行きを詳しく話した。
 『ほう、そうかそうか。二人ともなかなか交渉上手になったな。よしっ!よかろう。お前らの交渉次第で交渉の筋書きをつくらねばならんからのう。おい、二人とも撃剣の訓練に行かないか。統領の山行の旅たちを明日に控えての忙中の閑だ。物事の交渉も撃剣の気合い、呼吸で決まる、それが俺の持論だ』
 『判りました。一緒します』
 三人は腰をあげた。季節は春、身体は動を求めていた。オキテスらは気持ちよく汗を流した。
 統領の旅たちという大事を明朝に控えた時の流れは早かった。時は急いで過ぎていく。
 キドニアから帰ってきたギアスは、漕ぎかた一同を引き連れて新艇のところへと向かった。ドックスとその配下の者たちが彼らを迎えた。
 ドックスが新艇の主要仕様を説明し、納得を確かめて、話を進める。ドックスの説明は的をはずさず解りやすくよどみがなかった。ギアスが声をかけた。
 『お前ら、解ったのか?心もとないな』
 『解りました』
 『ここは聞いておきたいといった質問があれば聞いていい。説明する』
 ドックスの説明が要領よく解りやすかったらしい。一同は、あらためて『解りました』と答えた。
 『ドックス、ありがとう。一同、理解したらしい。重ねて言う、ありがとう。ドックス、海旅の道中、艇を大切に扱ってくる』
 『ギアス、道中の無事を祈っている。統領の乗る船だ、何かいい名前を思いつかないか』
 『そうだな、<ヘルメス>という名はどうだ?』
 『おう、<ヘルメス>か、いいじゃないか。それにするかしないかは、軍団長と相談して決めてくれ』
 『解りました。ドックス棟梁。私らはこれで引きあげます』
 『おう、ご苦労。明朝は、新艇のところで待っている』
 二人は打ち合わせを終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  490

2015-03-20 08:17:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスは、父アンキセスとの対話の時を持った。アンキセスの日々の苦言を耳にしているアカテスを同席させた。
 『父上、ちょっと話したい。いいかな?』
 『おう、何だ?』
 『明日から5~6日の予定でイデー山に出かける。イデー山の登頂とゼウスの神殿に詣でる。父上、貴方の心の内を聞いておきたい。いいかな』
 アヱネアスが父に話しかけた。
 『それはいいことだ。クレタに着いた時から、お前がそれを言いだすのを待っていた。俺としては大歓迎だ。何も気にせずに、おおらかな気持ちで行ってくることだ』
 そのように言ったかと思うと続けて口を開いた。
 彼は、このクレタにおいて、日々を過ごす中での募る思いを口にした、トロイをあのようにした者どもへ復讐せよと言う。また、、我々が寄る辺の地とするところが西にあると言う。父がトロイ時代には、一軍を統べる将であった。その思考領域から脱し切れていない考えを口にした。そうかと思うとこうも言う、俺の終の住むところへ行きたいと。アヱネアスは父の言うところを咀嚼して腹に収めた。
 アカテスがアヱネアスに声をかけた。
 『統領、貴方の好きなようにされることが一番です。二番はありません』
 父はこの対話で思いの丈のありったけを語った。
 『息子よ。ゼウスの想いを質してくるのだ。ゼウスを我が家の人と思って対峙せよ。以上だ』
 対話を終えるひと言であった。
 アヱネアスは、宿舎を出てイリオネスの宿舎に足を向けた。
 『おう、イリオネス、何をしている?』
 『あっ、統領、どうされました?いま、山行に同道するクリテスから話を聞いているところです。彼はこれまでに二度ゼウスの神殿に足を運んだといっています。イデー山の山頂には一度だけ登ったとも言っています。これを聞いて、イデーの山は、我々にとって不明の地ではなくなりました。安心の山行です。やはり上陸地点は、パノルモスだといっています。安心してください』
 『ほう、それはよかった、安心の山行になる。今日は、朝から父と話し合った。父の思いを俺なりに聞きとめた。まあ~、気を負わずに行って来よう。デロスの神殿に行った時のような緊張もなければ、気負いもない、己の先祖に会いに行くような気持ちだ』
 『それはいいですね。楽しい山行の旅としていただければ幸いです』
 『イリオネス、気軽に行って来よう』
 イリオネスは、アヱネアスが座をとった前にカップをおいてぶどう酒を注いだ。
 『どうぞ、渇きをいやしてください』
 『おう、クリテス、話はどこまでだった?統領もおられる話を続けてくれ』
 アヱネアスとイリオネスは、クリテスの話に耳を傾けた。半刻くらい話が続いた。イデー山頂上に到る道中の風景についてもクリテスは話した。
 『たどたどしい話しぶりでした。解られたでしょうか』
 『おう、解った。ありがとう。明日、山行の旅に出発する。お前の父の案内で行く。クリテス、お前もつれていく。以上だ』
 イリオネスは、クリテスに同道を指示した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  489

2015-03-19 07:33:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 東の空から夜が消えていく、星のまたたく漆黒の空が藍色に、水平線に接する辺りから星の光が消えていく、青ずんでくる、朝の光が昇りくる、空の一角が黄金色に輝く、陽光の第一射が浜を照らした。
 浜に朝が来た。各所に朝の声がけが飛ぶ。オロンテスとギアスが指示、叱咤を飛ばしている。活性の満ちた朝の風景であった。
 今朝のアヱネアスは、常であるユールスを伴っての朝行事である。彼は朝の浜の風景がたまらなく好きであった。そこには生きとし生ける者たちの命の燃焼の姿があるからである。
 彼はユールスと身体を密着させて海に身を浸す、互いの心臓の鼓動が通い合う、アヱネアスは、鼓動のリズムに合わせて、愛しき我が子に伝えるべきを事を伝える親と子の大切な時であった。
 彼はそれをやりながら今日を考えた。父アンキセスに伝える<ゼウス神殿>詣での思案である。彼は聴きに徹すると決めた。互いが心中に持している未来への志向を闘わせることを避けると決めた。父も己もクレタの地が建国の地であるか、ないかについての疑心を抱いている。この認識は、父と子の考えが一致している<アポロの神託>を信じたわけではないが、自分たちが誤って受け取っているであろうと思う節がある。<アポロの神託>の言葉は、それくらいに曖昧模糊とした言葉なのである。それを誤って解釈した己を責めるか、それに信を置いた己を悔いるかであると考えた。いずれにしても、クレタの地について断を下す時が近い明日にあることを心と体に感じていた。アヱネアスは、この決断の重さを身に感じていたのである。民族を統べる頂点の位置にある己をアヱネアスは直視した。
 『決するところを為して、確かな一歩』と決断した。そこには、ユールスの手を引いた晴れ晴れとしたアヱネアスの姿があった。
 イリオネスが、オキテスが、パリヌルスが朝の挨拶言葉をかけて、すれ違い行きかった。
 アヱネアスの自信、自覚が確かなものに昇華していく、浜の砂地に力強く歩を印して起つ自分自身を認めた。
 彼は、朝行事の海を振り返って見た。
 『Let's go!一歩、前へ!』と大声で叫びたい衝動にかられた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  488

2015-03-18 07:15:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスが漕ぎかたの一同に声をかけた。
 『おう、諸君!今日もご苦労であった。キドニアで話した通りだ、明後日の事心得たな。頼むぞ!今日の業務はこれにて終了!』
 『おう!』一同から声が返った。
 ギアスは、イリオネス、パリヌルスの姿を見とめて歩を向けた。
 『軍団長、パリヌルス隊長、待たせました、報告いたします。用件をスダヌス浜頭に伝えました。彼は跳びあがって喜びました。スオダの浜には、当日、昼頃には着くと伝えました』
 『そうか、ご苦労であった』
 『浜頭からの伝言は、『待っています』とそれだけです』
 『おう、それだけで充分だ。ギアス、お前の方は、事の次第を一同に伝えてあるな』
 『その件については、今日、キドニアで一同に伝えました』
 『よし、あがってくれていい』
 イリオネスは身体をオロンテスの方へと向けた。
 『オロンテス隊長、待たせたな、お前に伝えるのが遅くなった、許せ。明後日の事だが朝食を終えたら、統領のイデー山行きに出航する。用船は新艇を使用する、そういうことだ。出入り予定は5~6日としている。その間、ギアスとその漕ぎかた一同を同行させる。キドニア行きには舟艇で漕ぎかたは、、、パリヌルスかオキテスに言って手配してくれ。それからだが、山行一行の食料の事だが、総員16~17人の5日分のパンを焼いてくれるようにセレストスと打ち合わせた、よろしく頼む』
 『判りました。任せておいてください。今日、キドニアへ向かう道中でギアスから聞いています』
 『統領のイデー山行きは、昨日、急に決めたことであり、一同を集めて伝えることができなかった。オロンテス、そういうことだ、よろしく頼む』
 『判りました』
 イリオネスはオロンテスに伝えたことで肩の荷を下ろした。
 『あ~あ、オロンテス、それからクリテスの事だが、山行にクリテスを連れていく、よろしく頼む。それでだが彼に聞きたいことがある。明日、朝から俺の方に来るようにしてくれ』
 『了解しました』
 イリオネスは、周りにいるパリヌルスらに声をかけた。
 『諸君、ご苦労であった。山行に関する諸事万事の手配方が終わった。ギアス、明日、キドニアから帰ったら、新艇を明後日の出航に備えて整えてくれ。ドックスとの打ち合わせも抜かりないようにな』
 『判りました』
 用件を終えたイリオネスは浜をあとにした。