『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   *ありがとうございました。

2013-12-28 09:25:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今年も今日を入れて四日となりました。『トロイからの落人』にアクセスいただき誠にありがとございました。
 明ける2014年も執筆をつづけてまいります。1月2日より投稿いたします。何卒宜しくお願い申し上げます。
 来る2014年があなた様にとって人生最良の年でありますようお祈り申し上げます。

                  山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  177

2013-12-27 08:04:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は、アヱネアスの宿舎へと足を向けた。ハシケに積んできたテカリオンの手土産は数人の者に持たせた。宿舎の前庭にはアヱネアス、イリオネス、オキテス、オロンテスがいる、彼らは、昨日の大漁を話題にして話し合っていた。彼らが二人に気づく、
 『おう、パリヌルス、おはよう』
 四人が一斉に声をかけてくる。
 『おう、客人か。テカリオンじゃないか、元気にしていたか』
 アヱネアスが声をかけた。
 『あっ!統領。おはようございます。お元気ですね、何よりです。皆さんもお揃いで元気な様子、大安心です。私も潮風に吹かれて元気そのものです』
 彼はここで言葉を切り、イリオネスに話しかけた。
 『軍団長殿。些少で恥ずかしいですが、これをご受納ください』
 彼は持参した品々を差し出した。
 『おう、ありがとう!喜んでいただく。いつもながら気配りしてくれてありがとう。お前に何を礼しようかと迷うじゃないか』
 『そんな風に言われると痛み入りますな。礼には及びません、礼はたっぷりといただいております。こちらさまとの交易で充分にいただいております』
 『こいつ!はっきり言うな。軍団長、テカリオンとの取引では、気を許してはいかんぞ』
 『判りました』
 『いやいや、まいりましたな。軍団長との掛け合いはとても厳しいですからな、、、。しかし、この前の取引で頂いた『方角時板』あれは大変な代物です。あれでいい商いができました。ありがとうございました』
 テカリオンの受け答えは堂にいったものであった。
 『皆さんの話し合いは何でしょう?私も入っていいようでしたら入れてください』
 『お~お、テカリオン、お前は商売人だな、こんな話の中に入ってどうするのだ。久しぶりにテカリオンが来た、何を馳走しようかと相談していたところだ』
 『本当にですか?『まさか』ですな』と言って首を傾げた。
 『いやね、私たちが生きていくうえで『さか』があります。その『さか』が三つあります。ひとつ目の『さか』は『のぼりざか』ふたつ目は『くだりざか』みっつ目が、今、言いました『まさか』です。今の話、その『まさか』の幸運ですな、ありがとうございます。喜んで馳走になります』
 これを聞いた一同から笑い声があがった。笑い声が静まると思いきや一同が腹を抱えての大笑いとなった。
 『いやな、テカリオン、その『まさか』が昨日、起きたのだよ。お前、その話を聞くか』
 『聞きますとも、聞きますとも。いい話は幸運を呼び寄せます。お願いします』
 『判った。オキテス、話してやってくれ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  176

2013-12-26 08:14:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、テカリオン!お前、元気だったか。俺は見ての通り、五体満足で達者だ、安心してくれ。お前と達者で会えた、こんなにうれしいことはない』
 パリヌルスは、テカリオンの肩をしっかと抱いた。
 パリヌルスはハシケの漕ぎ手に声をかけた。
 『浜にやってくれ』漕ぎ手は水をかいた。彼の心の中は小躍りしたいくらいに喜びにあふれていた。遠方からの友と会う、友誼の情を交わす、友とはこんなにも筆舌に表わせないくらいに大事なものなのかと心中でひそかに感慨にむせた。
 『おい、テカリオン、どうする?船に残っている者たち。ギアスに舟艇を準備させようか』
 『そうだなそうしてくれるか、すまんな』と言って、彼は同行してきた腹心の者に指示をした。
 パリヌルスは、浜を見まわした。ギアスは陸揚げしている舟艇とともにいた。パリヌルスは、漕ぎ手の一人にギアスを呼びにやらせた。
 『おう、ギアス、ご苦労。舟艇でテカリオンの船まで言ってきてくれ、テカリオンの手のものが同行する。その者の指示に従ってくれ』
 『判りました』
 『それからだが、ギアス。小島の者たちはどうしていた?』
 『嵐の後始末は終わっていました。今日、人員を割いて、魚釣りに出るようなことを言っていました。漁場の確実性の確認をしたいとアレテス隊長が言っていました』
 『そうか、ところで今日のお前の用事は、どのようになっている?久々にテカリオンが来た。今日昼すぎまで、俺の指示で動いてほしい、いいか』
 『判りました。舟艇を海に出します。あ~あ、隊長、余談ですが、舟艇の船尾の三角帆の効果について試行しています。いずれ報告いたします』
 『そうか、判った。話を聞かせてくれ』
 彼はギアスに指示を終えて、テカリオンにその旨を伝えた。
 『ところで、統領は元気か。軍団長、オキテス、オロンテスにも変わりはないか』
 『おう、みんな元気でいる。こちらに移って、何やかんやと忙しい日が続いている』
 『ところでパリヌルス、今夜はこちらで過ごしたい、いいかな。よかったら泊めてくれ。話したいことがある』
 『心得た。そのように手はずを整える。俺も話したいことがある』
 二人は手を握り合った。

『トロイからの落人』  FUGTIVES FROM TROY   第7章  築砦  175

2013-12-25 07:58:27 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~いっ!者ども、朝めしを終えたら行くぞ!海は凪いでいる』
 テカリオンは全員の尻をたたいて、船だまりの浜へと向かった。キドニアの船だまりから、アヱネアスらのいる現在のニューキドニアの浜まで8キロメートル余りである。漕走で1時間くらいの行程距離である。心の中ではいっ時でも早くと急いていた。
 彼は、親しい間柄であるパリヌルスの事を思いやった。
 『奴もやったな。クレタを荒らしまわっていた海賊を一掃したとは。おかげで安全な航海ができるといったところか。重畳、重畳』
 キドニアの海岸一帯を眺め見ながら、風を気持ちよく身に受けていた。
 一方、朝食を終えたパリヌルスは、じい~っとはしておれなかった。彼は、他動的なそわそわに身が動いた。彼は何かにそそのかされるように浜へと駆け下りていく、浜に降り立つ、海を見渡す、波を割ってこちらに向かってくる一隻の交易船を目にした。
 目を見張った、『あれは!』息をのんだ。
 『テカリオンの船だ!』彼が待っていたものであった。彼は、おもわず開いた左の掌を右の拳で打った。
 『これで俺の目が開く。これでチョッピリだが先の未来が見える、足元の未来ではない、また、遠くの未来でもない、チョッピリ先の未来を俺は見たいのだ』
 彼は浜を見まわした。ギアスの姿は見えない。目についたのはソリタンのハシケであった。彼は浜にいる張り番の者にハシケを海に出させた。テカリオンの船が着き次第、即、行けるようにと手筈を整えた。
 船上のテカリオンの姿が見えてきた。彼は手を打ち振った、テカリオンも手を振ってこたえる。二人の邂逅の喜びのひと時であった。テカリオンの船は、浜から60メートルくらい離れた海上に停船した。
 パリヌルスは乗ったハシケを急がせて近づいていく、テカリオンの大声が耳に届いた。
 『おう、パリヌルス、達者か?』
 『おう、この通りだ。お前も元気か』
 言葉を交わしている間にハシケは、テカリオンの船の船べりに接していた。顔を合わせた二人は、『おうっ!』『おうっ!』の掛け合いである。言葉は不要であった。テカリオンは船上の者たちに指示を出している。
 『準備してきた品物をハシケに積み込んでくれ』
 荷がハシケに積み込まれる、テカリオンがハシケに乗り移って、浜を目指した。
 『おいっ、パリッ!達者にしていたか、怪我はしていないようだ。重畳、重畳』
 テカリオンは、パリヌルスの五体をしげしげと眺めて安堵の表情で微笑んだ。

『トロイからの落人』  FUGTIVIVS FROM TROY   第7章  築砦  174

2013-12-24 13:28:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスはとび起きた。本人は寝すぎたと思ってのことであった。外はほの暗い黎明の時である。今様時間でいえば午前6時過ぎといったところである。彼は急いで身支度を整え宿舎を飛び出した、浜へと駆け下りていく。彼を行動に駆り立てたのは、何もない、ただ心中の虫の騒ぎであった。昨晩、眠りにつくときの一言である。『お前、何を待っているのだ』のくだりであった。
 そのころ、彼と彼は思念交信感応、いわゆるテレパシーの到達領域にいたのである。
 浜では何も変わったことはは起きていない。何だったのか彼は首を傾げた。張り番の者に尋ねたが何も変わったことは起きていないという答えであった。彼は明けゆく薄闇の海を注意深く見渡した。
 パリヌルスはがっくりした。『予感のはずれか、俺の予知能力も当てにならんな。少々早いが朝行事でもやるか』と独り言ちて、彼は朝の海に身を浸した。島の内陸から吹きおりてくる、浜の朝風で身体を乾かした。
 明るくなってくる、昇る朝陽の第一射が届いた。『おう、今朝の太陽はでかい、見ごたえがある』朝陽のでかさに感動し、畏敬の念が突き上げてくる。まぶたを閉じて頭を垂れた。『今日もいいことがあるだろう』ポジテブな敬信の気持ちで朝陽に対した。心が洗われた。
 浜は朝行事でざわつき始めてきていた。彼は張り番役の者たちをねぎらって宿舎へと向かった。道中でリナウスと顔を合わせた。
 『おはようございます。隊長、何か?どうされたのですか?』
 『おう、おはよう。ちょっと思案していたことがあったのだ。それで早起きしてのことだ。気にかけてくれたのか、ありがとう』
 『では、朝行事に行ってきます』
 この頃、交易商人のテカリオンがキドニアの街の定宿で目を覚ましたところであった。
 『今、彼らはどうしている?』彼は街で、彼らについての情報を集められるかぎり、情報を収集して、彼らがおかれている状況を推し量っていた。
 『彼らは、俺に何を要請してくるか?』『俺は、彼らに何を要請するか?』『今、彼らは、交易に出す品は持っていないはずだ。どっちにしろ、春になってからの話になる。先ず、互いの壮健を確かめることからだ。それにしてもパリヌルスの奴、元気にしているかな』
 テカリオンは、腹心の者、水夫たちとともに朝食を終えて、彼らを訪ねるべく出航の準備を整えた。嵐の去った海はいつもの平穏な海に戻っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  173

2013-12-23 09:13:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 話を終えた四人は、腰をあげた、静かである、潮騒が耳を打つ。
 『軍団長、私は浜を一巡して宿舎へ向かいます』
 『あ~、俺もつきあう』
 オキテスはパリヌルスに呼応した。
 『オロンテス、行こう。俺たちは先に行く』
 パリヌルスらは二人を見送った。
 『パリヌルス、今日の魚釣りは感動ものだったぜ。興奮がまだおさまっていない。俺の人生でこれまでにしたことのない体験であった。自然と取っ組み合ったわけではないが初めての体験であった』
 パリヌルスは『そうか』と頷きながら、オキテスの心境を思いやった。浜を一巡し終えた二人は、宿舎へと道をたどった。彼らがこれだけの時間を費やしたといっても今様時間の午後8時には至ってはいなかった。朝の訪れの遅いこの時期、たっぷりと夜の休息時間があった。
 宿舎についたパリヌルスは、いつもの寝場所に身体を横たえた、まぶたを閉じるが眠りの訪れは、まだ先であるという自覚があった。
 目を開ける、闇である。彼は眼前の暗黒を見つめた。彼は、闇ではなく何かを見たかった。心気は別の方途を選ばせようとしている。『パリヌルス、何かを描け!』『お前は何を描きたい?』『富国に至るプロセスか』『それとも兵を強くすることか』『どちらも、先に調査ありきだ!』『判っているのか』『いま、構想しても礎なき楼閣の類ではないか』『調査優先の始計だ』
 彼は闇を見張りながら自問していた。
 闇のなかの声が彼に話しかける。
 『お前、何を待っているのだ』『それに遭遇しないと想いがまとまらいのか』
 彼の心の声が叫んだ。
 『そうだ!』この一言には力がこもっていた。
 『待っているものとの遭遇を急いでいるのか』『いや、急いではいない。だが、早いほうがいい』
 この思いに至った時、眠気が訪れた。彼は静かに目を閉じる、眠りの深淵に至るのは早かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  172

2013-12-20 08:25:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お前、釣りの仕掛けの予備を準備していたな、そのわけを聞かせろ』
 『あ~あ、アレですか。その者と一緒に釣りに出た時に知ったのです。魚を四、五匹釣ったら、次にかかった魚が仕掛けから外れて落ちてしまったのです。仕掛けを確かめたところ針がのびてしまっていて、つり落としたことを知ったのです。それで、また新しい仕掛けで釣ったというわけです。青銅でできた針は伸びる、鉄の針は折れやすいことがわかったのです』
 『ほっほう、そうか。お前、いいことを教えてくれた。大いに参考になる。大物釣りにはそれなりの針がいるわけだな』
 『そうです。大物には大きめで太い針でやらねば、釣った魚を取り逃がすことになります。その魚に詳しい者の言うのにはですな、エサが目の前にあれば、必ず食いついてくる、少々の針の大小なんて関係ないといっています』
 『アレテス、よくわかった。いい知恵をくれた。早速、それで対策を立てる、ありがとう。オロンテス、聞いたか、そいうことだ。今度、街に出かけた折に魚釣りの針を物色しよう』
 『え~え、そうしましょう』
 とれたての旨い魚を味わった、夜は更けていく、冷気が肌を包んでくる、散会の時が訪れる、アレテスは全員を連れて小島へ引き上げていく、浜には張り番役の数人を残して彼らは各々の宿舎へと帰っていった。
 パリヌルス、オキテス、オロンテスの三人は、イリオネスを囲んで何事かを話し合っていた。彼らは、明日の会議の事について話し合っているらしい。
 オロンテスには、一人で決めかねる事情がある。イリオネスには、一族を統べていく財務の問題がある。これらをまとめて先へと進まねばならない。また、アヱネアスには、統領としての課題もあるであろう。彼らは、それらを察して事を対処しなければならない。パリヌルスとオキテスは、それらを処する遊星的歯車の役割を果たすポジションに位置している。これらの関係に対して有機的に機能しなければならないのではなかろうかと思案していた。彼らは互いの思案を知って、それへの対処を思考して『一歩前へ』である。その心的姿勢を保持することこそ肝要であると認識していた。
 『、、、、と、まあ~、そういうことだ』と話を結んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  171

2013-12-19 08:53:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、オキテス、ご苦労。釣果はどうだった?』
 『え~え、釣果は目論見の倍の成果です。夕食に魚がたらふくと言えます』
 『そうか、それは、よかった』
 『このようなこと私が生まれて初めての体験です。チョッピリ恥ずかしいですが、心が躍っています』
 『そうか、重畳であった。お前らの喜びが俺の喜びだ』
 浜に残っていた者たちが寄り集まってくる。彼らのやった釣果を目の当たりにして驚き、浜が湧いた。
 パリヌルスは、各船の副長を呼び集め魚の荷卸し作業の指示を出した。オロンテスはあれこれ指示して夕食の場づくりを始めていた。
 アレテスは、魚おろしを済ませると小島に残している者たちを迎えに戻った。
 ほどなく、アヱネアス以下全員が浜に集まった。焚き火をガンガン燃やし、浜焼きスタイルの夕食が始まった。魚は各自が思い思いに串に刺して焼き、塩を適宜ふりかけて魚に噛みつく、彼らは『旨いっ!』『旨いっ!』連発しながら魚を味わった。まさに原始の頃の食事風景である。
 魚釣りの武勇談がとびだす、それを耳にして胸をときめかす浜の留守番役をした者たち、話に花を咲かせての語りに夕食の場は盛り上がった。
 アレテスは今日の魚釣りのヒーローに祭り上げられていた。オキテスが声をかける。
 『おう、アレテス、お前、あの漁場をどうして知った?』
 『あ~あ、あの漁場の事ですか。それはですね、私の部下に海と魚に詳しい者がいて、一昨日の事ですが、暇を見て釣りに出て知ったのです』
 『そうなのか。ここが漁場だと、どうしてわかったのだろうか、不思議だ。俺には解しがたい。海の中を見ることはむつかしい、海の上は俺の世界であるのにだ、俺にとって海の中は迷界である』
 『彼の話では、魚が群れて泳ぐ道があることと、そこを群れて泳ぎ通る時があるそうです。そのタイミングが合致するときが釣れどきだと言っていました。勘に頼ることが多いそうで、釣れる釣れないは時の運の為せるところだと言っていました』
 『まあ~、そんなものかな。ところでだ、アレテス』
 ここまで言って、オキテスは焼けた串刺しの魚に噛みついた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  170

2013-12-18 08:00:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 釣りを終えた四隻が雀躍で浜を目指していた。
 オロンテスから話を耳にした。アヱネアスとイリオネスが浜に立ち彼らの到着を待っている。
 オキテスは、今は遠くに去ってしまっている童心を心の片隅に感じていた。胸ドラム打ちたい、そのような衝動も感じたが何とかそれを抑えた。
 イリオネスがオロンテスに声をかけた。
 『おう、オロンテス、この時間に帰ってくるということはだな、釣果があったということだ。それとも全くの、、、』
 イリオネスは何とかそこで言葉をおさえた。
 『そうですね、釣果がいいようであれば、今日の夕食は浜でということにしませんか』
 二人の会話を耳にしたアヱネアスが会話に割り込んできた。
 『おう、両人、話を聞いたぞ。我らが我らの手で獲った魚を食べる、過ぎたエノスでのことが思い出される。オロンテスの言うように浜風に吹かれて夕食といこう』
 『決まりましたね。今夕の食事は、この浜でやりましょう。それで食事の場を整えることにします』
 四隻が浜についた。といっても浜から少々離れた海上に船はいる。オロンテスは、ギアスの舟艇に乗り、オキテスの船に寄っていった。
 『オキテス隊長、どうでした?』彼は小声で尋ねた。
 『おう、オロンテス、もっと大声で聞いてもかまわん。答えは、大漁だ、喜べ、これこの通りだ。きょうは、旨い魚が食えると思うと心が躍る』
 『うおっ!これはすごい!これはすごい大漁ですね。浜では統領、軍団長が待っています』
 『おっ、そうか。ギアス。1番船のパリヌルスの船に寄ってくれ』と言って舟艇に乗り移った。
 『判りました』
 オロンテスがパリヌルスに声をかけた。
 『パリヌルス隊長、ご苦労様でした。大漁でしたね』
 『おうよ!クレタに来て初めての釣り、そして、大漁だ。オロンテス、一緒にうまい魚を食おう』
 『ギアス、浜にやってくれ』
 『オキテス、この大漁、統領への報告はお前がやってくれ』
 『今の俺は、凱旋将軍の心境だ、心が躍っている。パリヌルス、この釣りをお前とやった。この喜びを抑えられないでいる。俺はうれしい、ありがとう』
 オキテスは、パリヌルスの手を両手で包むようにしてしっかりと握った。舟艇は浜へと乗り上げていった。
 『あっ、統領。只今、釣りから帰りました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  169

2013-12-17 07:51:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、皆っ!見てみろ、お前たちの釣り上げた魚の山だ、目論んだ釣果の倍の釣果をおさめた。結果は上々である。昼めしを中途にしている者は、昼めしを終えてくれ。釣りあげをやっている間に昼は過ぎた、ご苦労であった』
 言い終わってオキテスは各船に目を運んだ。1番船、3番船もすでに釣り作業を終えていた。アレテスの2番船だけが釣りを続けている、それも全員が釣り作業を続けている。
 『2番船の者たちは、仕掛けの針が折れたり、のびてしまって使い物にならなくなることを知っていたのだな。感心、感心、我々の『これから』の教訓だな』
 彼は感嘆を言葉にした。
 『マクロス、1番船のところへ船を向けてくれ。彼らの状況を見て、ひきあげよう』
 『判りました』
 船中の釣り上げた魚は整頓され、一同は漕ぎ座について、船首を1番船に向けて波を割った。1番船の船べりに接するくらいまでに近寄った。
 『おう、パリヌルス、釣果はどんなだ?』
 『おう、オキテス、釣果は予想以上だ、目標の倍近い釣果だ』
 『3番船も作業を終えている。アレテスの2番船は作業を続けているが最盛の時に比べておちてきている』
 オキテスは言葉を継いだ。
 『もうそろそろ、ひきあげようではないか。俺はアレテスの2番船に行く、お前、3番船を頼む』
 『判った』
 オキテスの4番船は2番船に向かった。
 『お~い、アレテス、どんな調子だ?』
 『もの、魚の喰いは落ちてきています。作業止めの指示を出したところです』
 『判った。ひきあげよう。向こうの浜に船をつけてくれ。ところでお前の方の釣果どうであった?』
 『大漁です。目標の3倍はいっています』
 『それは、大したもんだ。ご苦労であったな。皆を大いにねぎらってくれ』
 『判りました。では、船を向こうの浜につけます』
 4番船は、2番船をはなれて浜に向かった。