『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  75

2009-10-30 08:05:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、戦いの経過を想起し、変化を考え描いた。戦場に沸く喊声、逃げ惑う敵の多くの兵たちの命が絶たれいく声が耳中に渦巻いた。彼は、この戦いの勝ちを信じ、それを証明せねばならない。それは戦闘状態の時間的な推移にあると、戦端を開くタイミングについて、意識を集中して考えた。
 その頃、ポリメストルは、援軍の船団を迎えるべく、上陸予定地点の砂浜に側近を引き連れて立っていた。海上をこちらに向けて近づいて来る三隻の軍船、時をおかず船団が眼前に迫り来て着岸した。援軍要請にトロイに出向いていたテラキスが、降りてきてポリメストルに取り次いだ。巨躯をゆらしながら尊大に下船してくる軍団長のラミドトス。ポリメストルは、歩み寄り、堅く相手の手を握り、歓迎の言葉を熱く述べた。
 『私は、この浜及び、この地一帯を治めている領主のポリメストルです。このたびは、我々の要請をお受けいただき誠にありがたい。お礼を申し上げるとともに心から歓迎いたします。何卒宜しく。』 と結んだ。
 『このたびの要請をお受けした。ギリシアは、ラミアレの領主ラミドトスです。宜しく。テラキスから聞きましたが、それにしても長大な浜ですな。』
 ラミドトスは、故国の浜を思い出していた。

第2章  トラキアへ  74

2009-10-29 06:37:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『統領。これは私の思いですが、このあと小一時間内に、上陸の状況を見たあと、偵察に出ていた者たちが帰ります。また、戦場偵察に出ている、アレテスとカピユスと同伴の2名が帰ってきます。彼らの報告を受けたあと、隊長たちを集めて打ち合わせを行われては如何がでしょう。統領の思い通りに軍団を動かす指令を発してください。』 パリヌルスの言葉に力があった。
 『よし、判った。アレテス、カピュスに同伴しているのは、誰だ。』
 『部隊を指揮する隊長2名です。彼らには、我々が見た予定戦場の状態を詳しく説明してあります。それと敵の野営地点と敵が布陣するだろうと考えられる地点を予想して、我々の布陣する地点を考えるように言ってあります。彼らの目利きの確かさには信頼が置けます。これで都合八人が戦場の地を見たことになります。』
 『では、報告を聞く。これで作戦に沿って部隊を動かすことが出来る。これで用兵に不安がなくなった。あとは、先端を開くタイミングだな。パリヌルス、ありがとう。』
 アエネアスは、瞼裏に干戈を激しく交える戦いの様子を描いた。

第2章  トラキアへ  73

2009-10-28 07:37:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが実行した情報伝達手段は、第一船が上陸地点の3キロくらいエノスよりの地点に魚釣り漁船を装って海上に浮かんでいる。第二船、第三船も魚釣り漁船を装って3キロ余りの距離間隔で浮かんでおり、その周辺には、漁船の群れを浮かべて目的を偽装していた。役務を負っている船は、釣り上げた魚を船上で焼いて、煙をあげることによって、情報を伝えるようにした魚焼きのろし方法である。
 アエネアスは、適当な木の根方を選んで腰を下ろした。
 太陽が、目安にした木の枝の位置に差し掛かった。パリヌルスの顔が緊張した表情に変わった。
 『敵船、見ゆ!』 第一報であった。ついで、煙が六つに途切れながら上がる。敵船の船数である。軍船で3隻であることが判った。そのあと魚焼きののろし煙が乱れた。魚の焼きあがる、うまそうな匂いが思い浮かぶ風景であった。この第一報のあと、小一時間くらいで上陸が完了するであろう事が予想された。
 風の走る林間の空気が緊張で凍った。
 パリヌルスが、敵船の到着を報告すると同時に、考えられるその後の状況についての私見を述べた。

第2章  トラキアへ  72

2009-10-27 07:07:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、心中に渦巻く苦衷に耐えていた。用件を終えたアエネアスは、オロンテスをその場にとどめて、浜頭の小屋を辞した。
 太陽は、中天を大きく過ぎていたが、夕陽となるには、まだ間がある。彼は、浜際の林の中に設けた作戦のための集合地に足を向けた。彼の決断が強さを増していく。『これで軍事に専念できる。負けてはいかん。しかし、生き残るには、敵を全滅させねばならない。一人たりとも生き残さないことだ。』 と足の運びの速度を速めた。その歩調に合わせて、心の中の刃は、研ぎ澄まされていった。
 『おうっ!諸君、ご苦労!』
 彼らは、真剣な目つきで、はるかの海上の一点を見ている。そこには、一艘の漁船が釣り糸をたれている風景があった。
 『パリヌルス、第一報はまだか。』
 『まだです。私の考えでは、第一報の届く時点は、ここから見た太陽の高さが、あの高さに来たときだと思っています。』 と、林の中を横切っている一本の木の枝を手で指し示した。

第2章  トラキアへ  71

2009-10-26 06:49:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 話し合いの会合を終えたアエネアスは、オロンテスを引き連れて浜頭の小屋に足を運んだ。小屋には、浜頭たちが集まっていた。
 『統領。大変なことになりましたね。』
 『うん。これは、上陸戦を終えた時点で覚悟したことではあったが、軍団と同胞、我が民族の存亡をかけなければならない。戦闘は、浜の東端、荒野の真ん中で展開する。この戦いで我らの軍団が壊滅したときーーー』 話が途切れた。アエネアスの心の中に払っても付きまとう恐れが渦巻いていた。彼の心身の神経が引きつった。
 『浜頭の皆さんにお願いしたい。それは、、、、』 言葉が詰まった。アエネアスは、決断を強いられる過酷さにおののいている自分を見た。
 『それは、我々が敗北したときのことです。何卒お願いしたい。このオロンテスと善後策を講じていただきたいことなのです。この件、何卒宜しく、取り計らってください。』 アエネアスは、深々と頭を下げた。浜頭たちは、無言で肯いた。
 『オロンテス、頼むぞ。市民の者たちの今後のことは、お前の両肩に乗っている。いいな。』
 アエネアスの両目は、心なしか、潤んでいた。

第2章  トラキアへ  70     *文章の訂正

2009-10-24 09:08:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昨日の投稿で文章の記述に不足がありました。訂正いたします。
 深くお詫びいたします。

 訂正する行は、最終行です。下記の通りです。

 彼の心身も、思考も、予想されるあらゆる事態に対して、針の一突きで破裂の寸前までに膨らんでいた。

第2章  トラキアへ  70

2009-10-23 13:22:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オロンテス、もう始めてもいいかな。』
 『え~え、よろしいでしょう。』オロンテスは、集まった市民たちを見渡して答えた。
 『お~お、皆、良く集まってくれました。日頃のご苦労に深く礼を言います。本当にありがとう。』 と述べて、アエネアスは、一同を見渡した。
 『今日、市民の皆さんに伝えておきたい事は、今、我々がどうしても避けることの出来ない事態を迎えたことです。上陸のときに一戦を交えたポリメストルの軍とポリメストルがアガメムノンに派遣を要請した援軍と、明朝、このエノスの浜の東端、この地からは、12~3キロ離れている、その荒野の真ん中を戦場として戦います。生存を賭けた戦いです。生き残れるか、全滅かです。中途半端はありません。我々の部隊が敗北した場合のことについては、オロンテスに託しておきます。いいですね。』 アエネアスは、話をきって、オロンテスに向かい声をかけた。
 『オロンテス、頼むぞ。』 と短く言った。アエネアスの話は続いた。
 『市民の皆さん。このことについて心を決めておいていただきたい。我々の部隊は、今夜、深更に至れば、戦場に向かって、この地を離れます。以上です。あ~あ、それから、もうひとつ、建国のこと、今後のことについては、この戦いを終えてから話したいと思っています。』
 場は、緊張でしわぶきひとつなかった。一同の表情は引きつりを起こす寸前までに締まっていた。話し合いと言っても、アエネアスからの一方的な通告であった。彼の心身も、この期に及んで針の一突きで破裂の寸前までに膨らんでいた。

第2章  トラキアへ  69 *欠字しました。お詫びいたします。

2009-10-22 08:21:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 欠字の訂正
 4行目。 ーーー戦闘を控えていると雰囲気はーーー
 この箇所を下記のように訂正いたします。

      ---戦闘を控えているといった雰囲気はーーー     

第2章  トラキアへ  69

2009-10-22 07:32:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは多忙であった。
 戦仕度を整えつつある現場を見て廻った。イリオネス、アレテス、パリヌルスたち幹部連は、隊長たちに作戦の要諦と各隊長たちへの役務を説明し終えていた。兵たちは、小屋の建設に手を貸している。市民たちは、日常の些事に動き回っている。明日に熾烈な戦闘を控えていると雰囲気は感じられなかった。
 アエネアスは、オロンテスの姿を探した。彼は、小屋の建設現場であれこれと動き回っていた。アエネアスは、オロンテスを呼び、市民たちとの話し合いについて打ち合わせた。
 ユールスは、建設現場から拾い集めてきた木切れで、祖父と楽しく遊んでいる、この風景がアエネアスの網膜にやきついた。しばしの間である、ユールスとこの遊びのときを過ごした。猛き心のなかの優しさがこみ上げた。
 話し合いのときが訪れた。オロンテスが前列の真ん中に座している。涼しい風の通る林の中の空間である。市民たちの表情には、どことなく不安が漂っては入るものの目の輝きは澄んでいた。彼らの思いは、如何なる困難も貴方とともにならと言った互いの信頼感の絆が強く感じられた。頼る者、頼られる者、アエネアスは、この市民たちに我が命を捧げても、是とすることの出来る自分であることを思った。

第2章  トラキアへ  68

2009-10-21 07:26:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アエネアス殿。そのような用件で、ここに参られたのか。話は、お受けした。私は、いずれにも加担はしない。干戈を交えて、戦う以上、勝たねばなりません。貴方を頼っている者たちを悲しみのどん底に追いやってはいけません。勝ちなさい!それだけ言い添えます。』
 エノゼリアスとアエネアスは、初対面でありながら、互いに民の頂点に立つ者として、心の通じ合うものがあった。
 用件は終わった。アエネアスは、丁重に礼を述べ、砦を後にした。帰路エノスの集落の中を通った。集落は、おちつきのある景色と雰囲気をかもしていた。彼の頭の中には、トロイの街が、人々のたたずむ街角が、人情の紡ぐ風情が思い出された。集落を通り過ぎた二人は、帰途を急ぎはじめた。太陽は、中天にかかろうとしていた。
 この頃、トロイを出航していたラミドトスの船団は、南からの風を受け、泡立つ航跡を残し、順調な航海を続けている。船団は、イムロス島の東を通過していた。船上には、トロイで得た戦利品が夏の陽に焼かれていた。
 太陽が中天を過ぎる頃、進行して行く右にチエロネシタの岬を見て、航程の半分を終えたことを知った。船団は太陽の方向をチェックしながら順調に北上して行った。