日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

『古語短歌物語 花の風』第二巻 戯れ (承前)

2010年10月05日 | 日記
女はその後も、ときおり親しげに話しかけてくることがあった。

ある日女は、「素敵な曲が入っているから聴いてください」と言って、録音された音楽を置いていった。いつものように寝つけない夜、繰り返し聴いていると、ところどころ心にしみる歌声が、男には女の呟きのように聞こえた。

うたたねに こいしきいもに あいけれど おとないわなし いずちあるらん
うたゝ寝に 恋しき妹に 会ひけれど 訪ひはなし いづちあるらむ

(うとうとした眠りの中の夢で、恋い慕うあなたに会いましたが、醒めてみても、あなたの訪れはありません。あなたは今どこにいるのですか)

いもとわれ なをよびかわす ゆめのあと うつつにあえば はずかしきかな
妹と我れ 名を呼び交はす 夢のあと 現つに会へば 恥づかしきかな

(あなたと名を呼び交わす夢をみたあと、現実の世界であなたと会うと、気恥ずかしい思いがします)

うたたねに かさぬとおぼえし いもがての はだのぬくもり いずくにうせし
うたゝ寝に 重ぬと覚えし 妹が手の 肌の温もり 何処に失せし

(うとうとした眠りの中で、あなたと手を重ねる夢をみましたが、醒めてみると、あなたはどこにいったのか、手のぬくもりだけが残って、姿はどこにもありませんでした)

 男の恋心が当然であるかのように、女は驚くほど普通の様子で接しつづけた。

よをしらぬ おさなきこいに あらざれば かさなるひびに こころすみゆく
世を知らぬ 幼なき恋に あらざれば 重なる日々に 心澄みゆく

(世間知らずの若い恋ではないので、日数が重なると、苦しい思いは薄まってきます)
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『古語短歌物語 花の風』第... | トップ | 『古語短歌物語 花の風』第... »

日記」カテゴリの最新記事