日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

古語短歌物語『花の風』第1巻より(承前)

2010年09月22日 | 日記
ときおりの雑談の中で、女は物心ついてからの自死願望を、死の美化として、生命力の衰弱として、長い人生への不安として、それぞれ区別して理解し、表現し分けた。

死を想像することに親しんできた女は、生と死の境が低かった。

よをすてん おもいありちょう いもがみぞ いよよかなしく おもおゆるかな
世を捨てむ 思ひありてふ 妹が身ぞ いよゝ愛しく 思ほゆるかな

(この世を捨ててしまいたいという、あなたの切ない思いを知って、ますます愛おしく思われてなりません)

 女は、まだ幼い感傷と、長く辛い運命の影のために、押し潰されそうになっていた。

みをすてん おもいいだきて ありしちょう いものかなしび われこそわしれ
身を捨てむ 思ひ抱きて ありしてふ 妹の悲しび 我れこそは知れ

(死にたいという思いを、ずっと持っていたという、あなたの深い悲しさが、私にはよくわかります)

よよつぎて いもがながせし なみだこそ さかゆくときの なごりとならめ
世々継ぎて 妹が流せし 涙こそ 栄行く時の 名残りとならめ

(繰り返される人生で、あなたが流してきた涙は、いつか永遠の幸せの道をひた歩むときの、よい記念になることでしょう)

過去から現れてきたような女が、こうして身近にいる不思議な成り行きに、男の恋心がつのった。男の心は風に吹かれる木の葉のようだった。

ながきよよ まつべきひとを まちわびて いままみゆるわ うつつにやある
永き世々 待つべき人を 待ちわびて 今まみゆるは 現つにやある

(繰り返される人生で、やがて会うべき人を長く待っていましたが、今その人に会ったのは、夢幻なのでしょうか、現実なのでしょうか?)

会えば心が揺らぎ、会っていないときは心が慄き、別れ際にかけられる年上の女のような優しい言葉に、干からびかけた心が融けそうになった。

いもこうわ われからならず さだめありて かくやわまみゆる ゆえしらざるも
妹恋ふは 我れからならず 定めありて かくやはまみゆる 故知らざるも

(あなたを慕わしく思うのは、私がそうしようと思ってのことではありません。何故かは知りませんが、定められた宿命があって、このように出会ったのでしょうか)
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