自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

ジャコウアゲハ観察記(その296)

2014-05-05 | ジャコウアゲハ

ジャコウアゲハ(メス)と食草ウマノスズクサとの関係は,切っても切れぬ縁で成り立っています。もっとも,持ちつ持たれつのつながりではなく,アゲハが一方的に依存,あるいは利用している関係です。

ジャコウアゲハは,長い生命史をとおしてウマノスズクサを巧みに選び抜くしくみを発達させてきました。より正確に言えば,ウマノスズクサを利用するに至ったジャコウアゲハのみが,たまたま環境に適応して生き続けているというべきでしょう。

ウマノスズクサを探知する能力がどこにあるのか,その謎が解けないままでしたが,ほんの数年前に,やっと我が国の科学者がその真相を解明しました。大発見です。それまでは,「なぜか,なぜか」と疑問符が投げかけられるだけで,わからないままだったわけです。自然を解明するしごとはなんと困難に満ち,なんと息の長い話なのでしょうか。そうでありながらも真理を探る営みは,人間のこころをくすぐり続けます。

こうした話については,すでに取り上げた経緯がありますので,詳細は省きます。

一言で言うと,アゲハは視覚ではなく,前脚先端に仕組まれた機能(触覚)が巧妙に食草かどうかを感知していきます。今回は,その精度の程はそう大きくはないという話をしましょう。観察していると,草をどんどん調べている様子が手に取るようにわかります。低空飛翔を繰り返しながら,次々に判別していきます。

ところが,ウマノスズクサであることが確かであり,産卵するだろうと思っていても,あっさり離れる例がじつはかなり多いのです。それは,卵がすでに産み付けられているとか,葉が痛んでいるとか,草の高さが低いとか,そんな理由によるものではなさそうです。わたしの感じでは,どうも脚先が葉に接触する際のファジーさによるのではないか,と思われるのです。

おもしろいことに,葉が極端に小さくても,感知機能がはたらけばどんな小さな葉でもちゃんと産卵します。わたしたちの感覚なら,「そんな狭いところにどうして?」「そんなところが感知できるとは大したものだ」と感じるように思います。だって,このままではここで生存する確率は小さいのですから。ということは,メスは子孫を残すことを最大の使命にしているので,なんとか産卵場所を探し出したい,なんとか早く産み終えたいと思っているでしょう。それは,もちろん本能によって導かれるままの行動なのです。 

植木鉢に植えているウマノスズクサの先端に卵が付いていました。芽を出してから日が経っていなかったので,茎高は10cmといったところです。こんな場所にだって産み付けます。メスは産卵行動には種の保存をかけ,最大のエネルギーを注ぎます。どんな格好で産卵したのかと想像すると,またジャコウアゲハの魅力が深まります。「そういう場面を写真に撮りたいなあ」という衝動にかられます。

 


探しても産卵場所が見つからなければ,どうでしょう。もちろん,解決策はただ一つ。これまでの生活エリアを離れ,旅に出なくてはなりません。飛翔能力の小さなこのアゲハが旅に出ます。それも種族維持のためです。確かな見通しがないままの旅です。運がよい個体は,産卵場所にたどり着けます。結果,種として分布を拡大していくのです。