虎尾の会

幕末の草莽の志士清河八郎の会の名を盗用しています。主人は猫の尾も踏めません。

小津映画 三作品あれこれ

2009-10-22 | 映画・テレビ
NHKBSで3日連続で小津安二郎の映画をしていたので録画しておいた。
「晩春」「東京暮色」「秋日和」。

小津映画はあまり見てなくて(東京物語もまだ未見)、ただ昭和三十年代の風景、町並み、部屋の中、調度品などが懐かしくて見たのだが、小津映画は、大人の映画、おやじの映画だということがよくわかった。子供はまったく相手にしていない。子供が見たらたいくつでたいくつで眠ってしまうだろう。今まで見る気がしなかったのもゆえなしとしないだ(^^)。

「晩春」(昭和24年)は、父(笠智衆)と娘(原節子)の二人暮らしで、娘は父親の世話のために結婚をしようとしない。で、父親は再婚すると嘘をいって、娘を結婚に決意させる。父は娘にいう。「わたしも56才、もう人生も残り少ない」。父親は杖をついて歩いている。この時代は56才でもう晩年、あとがないのだ!老人と他人ごとに見ていたら、自分もその歳になっているのだ。

「東京暮色」(昭和32年)は、娘(原節子)が結婚しているが、父のもとに娘を連れて帰っている。「晩春」の一つのその後ともいえるかもしれない。結婚しても、幸せとはかぎらず、悩みがある。妹(有馬稲子)も住んでいるが、男にだまされ悲劇におちいる。。父はいう。「子供を育てるのはほんとにたいへんだなあ」。まったく、子供はいくつになっても苦労の種。「晩春」もこの作品もそうだが、父は娘から「おとうさま、おふとんおひきしましょうか」などといわれ、着物も着せてもらい、まあ、身の回りのことは全部してもらう。昔の男(父親)は家ではまったく無能力だったんだよなあ。ちょっとうらやましいけど、今は、自分のことは自分でしなくてはいけない時代。

「秋日和」(昭和35年)は、母(原節子)と娘(司葉子)の二人暮らし。「晩春」とおなじく、娘は結婚したら母がさびしくなると考え、結婚しようとしない。で、三人のおやじたちが画策して、母に再婚話を作り、娘が結婚を決意するという話。

「晩春」「東京暮色」は白黒で、家の照明も電球で、部屋は暗い。そういえば昔はそうだった。「秋日和」になると、カラーで、母娘はアパートに住み、かなり明るい部屋になる。しかし、まだちゃぶ台で座る生活だ。貫禄のある三人のおじんたちが出てくる(佐分利信など)が、まったく自分とは無縁の紳士たちだが、しかし、かれらも現在の自分よりもすでに年下で、あの貫禄はなんなんだ?と思う。あんな安定した歳のとりかたはできない。

この「秋日和」は配役陣がすごい。原節子、司葉子の他に、岡田茉莉子、岩下志麻、桑野みゆき、佐田啓治、高橋貞二も顔を出す。原節子と司葉子が結婚前に二人で旅行するが、宿で司葉子が本を持っていたが、その本は中央公論社版のチェーホフ全集の1冊だった。たぶん、わたしの目にまちがいない。

父と娘、母と娘、しかし、この映画の親子関係もすでに遠い昔の時代のもの、あんな時代があったんだ。

「東京物語」は親が子供たちを訪ねる物語だと聞く。おじいさんの話でわたしには無縁だと思っていたが、無縁ではない、自分のことかもしれない。今度、機会があったら見てみよう。

それにしても、自分が年寄りになってしまうなんて、だれも気がつかない。60になっても、70になっても、きっと自覚がないにちがいない。