-写真の部屋-

奥野和彦

しじみ工場

2015-01-19 21:39:18 | 写真


霞ヶ浦畔の佃煮工場である。
何にも写っていない。何も写っていないと言うのは
写すべき(見せられるべき)理由が見られないということ。
だから、見てもつまらないから伝わらない。
それでは写真は失敗である。

文章で書けばこうなる。
私は車を停めて釣りの準備をしていたがふと土手の下に目をやると
工場は昼休みで、白い作業服を着た男の人がうまそうに
煙草を吹かして煙がたなびいたのでカメラを出して
撮影体勢に入った。煙草の兄さんはすぐに工場の中に消えてしまい
一番遠くの車のドアが開いて違う男の人が動きそうだったので
構えていたが遠すぎて何をしているかも分からない。
他の女性従業員が出て来てそこに一言二言声をかけて引っ込んだ。
そこで、何となく1枚シャッターを切ってしまった。
それがフィルムの最後のコマで、次を撮るにはフイルム交換を
しなければならない。10mほど離れて停めてある自分の車に
フイルムを取りに歩き出したら手前の車からおばちゃん従業員が
3人ゲラゲラ笑いながら出て来て、ゲラゲラと音がしそうに歩いて
3人一度にゲラゲラと背伸びをして、工場に入って行った。
工場で作業開始の時間と思われるチャイムが何だか鳴って
それで終わりである。シャッターチャンスは逃したのだ。

日本のどこでもいいどこかのなんでもないいつもの時間の
何でも無い写真を撮りたいと思っているくせに
何にも無い写真はダメなようだ。
「で」と「に」の違いが大きい。