英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2020王座戦 挑戦者決定トーナメント 羽生九段-飯島七段 その8

2020-06-20 21:55:05 | 将棋

 飯島七段の△7三歩で後手玉の安全度が高まった第13図。ここでの先手の指し手が難しい。しかも1分将棋。
 後手陣に飛車を打っても響きが弱い(▲4二飛に至っては△2四角があり危険)。▲5二香成や▲6四桂も急所を突いているとは思えない。一番有効そうな▲7四歩も、後手からの△5七歩や△9八飛に比べて速さ厳しさで劣り、先に攻めたのに追い抜かれてしまう。となると、一旦受けに回るのが常道だが、先の△7三歩のような効果的な受けはない。そういう場合は玉を危険地帯から遠ざける早逃げ(▲4九玉)が、“8手の得”程ではないが効果を発揮するのだが、△2六桂と玉が近づいた3八の金に働きかけられると、1手の価値があるかも怪しくなる。
 羽生九段の指し手は▲6四桂。最善手ではないようだが、遠巻きに後手玉を攻めて、相手に攻めてもらうというテクニックで、秒読みの中では妥当な選択だろう。
 以下△5七歩▲同玉△5九飛▲5八歩△7九飛成に▲6三銀と後手玉に迫る。

 ▲6三銀は詰めろだが、直感的には勝てなさそう。
 実際、△6八角▲6六玉△7六と▲6五玉(▲7六同馬だと6三に打った銀がタダ)△7五とと追撃されて、▲7五同馬だとやはり6三の銀がタダとなり、▲5四玉と逃げるのは8五の馬を取られて望みがない……ように思えた。

 実戦も同様に進んだが、実はABEMAの解説では△6八角と打った辺りだっただろうか、
「▲5四玉(第15図)で馬を取ると(△8五と)、▲7二銀成△同玉に▲6二飛と打って後手玉が詰んでしまう。飛車を6二に近づけて打つのがミソで、以下△8三玉▲8二金△8四玉▲6四飛成(▲8三金打でも詰み)△7四合い駒▲8三金打で詰み」

と、嬉しい解説。
 なので、考慮10秒で△7五とが指され、▲5四玉にドキドキしてABEMAの画面を凝視。

 しかし、と言うか、やはりと言うか、1分54秒で指された手は△6二桂。
 以下、▲5三玉△5二歩▲同玉△5一歩▲4一玉と飛車を打たれないようにして△8五とと馬を取り、盤石の態勢を築いた。


 この後、羽生九段は辛いながらも最善の頑張りを見せる。先に入玉された時の難易度の高さ、時間切迫(第13図では14分あったが、小考を重ね8五との直後に1分将棋になった)と疲労もあり、一縷の望みを抱いて画面を見ていたが、飯島七段はあまり間違えない。
 逆に△9七角と打たれた第17図で、

▲3一金と銀を取ってしまったため、△6三龍と金を取られて受けなしになってしまった。

▲6三同成香なら△3一角成までの1手詰。



 ところで、中継やYouTubeを観ていて気になったことがある。
 17図で▲3一金とせず、▲5一玉や▲8六歩△同角成▲5一玉(J図)という変化の評価値が互角かそれ以上を示したこと。(▲8六歩と突き捨てたのは、あとで8筋に歩が利いた方が便利)

 私も一瞬、《おっ、まだ逆転の目があるのか》と期待した。
 実戦は上記の通り、▲3一金△6三龍で一気に投了となってしまったが、▲3一金とせず、▲8六歩△同角成▲5一玉(J図)としていたら、逆転の目があったのか……
 しかし、J図で普通に△4二銀と取られると、▲同香成に△6三龍(K図)で先手の敗勢。

 K図以下を掘り下げてみる。

 △6三龍(K図)に▲同成香と取ると△4二馬右▲6一玉△5一馬▲7一玉△6一金▲8一玉△7一金打(L図)で詰んでしまう。
 そこで、先手も▲9二銀△7四玉と玉を遠ざけてから▲6三成香と龍を取るが

 平凡に△6三同玉と取る手が詰めろになり、▲4三飛と王手を掛けて8六の馬の利きを何とかしようとしても、普通に△5三馬で詰めろ。
 ▲5三同飛に△同玉がやはり詰めろで、角一枚では適当な受けの手がないので、4二の成香を見捨てて、9筋の龍と銀に助けを求めようと▲6一玉と遁走を図るが、△2一飛がぴったりの手となる。

 図で、▲7二玉と逃げるのは手数は掛かるが即詰み。詰みを逃れるには▲5一角と合駒をするしかないが、△4二馬と成香を取られて受けなしとなるので、角を打つ気にはなれない。



 この将棋の一番の敗因は73手目からの▲4四同飛~▲4二角の長考であろう。

 ▲4二角は結果的に敗着であるのだが、それよりも▲4四同飛に費やした時間とエネルギーの消耗が大きい。
 おそらく、ものすごく深く膨大な量を読んだのだろうが、読みが堂々巡りしてしまったのか、選んだ手も良くなかった。
 あそこで熟考に熟考を重ねるのは羽生将棋の素晴らしさである。惚れこんでしまう。

 しかし、図で▲4四同飛はおそらく第一感であろう。
 そこで、ある程度(30分ほど)読みを入れて着手しても良かったのでは?
 もしかしたら、▲6六桂も有力とみて(実際、有力だった)、比較検討したのかもしれないが。

 う~ん,あそこで考えるのが羽生将棋なのだが……
 ……でも、夕食休憩を挟んでの長考はロクなことがないんだよなあ……


【終】
コメント (2)
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