英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2020王座戦 挑戦者決定トーナメント 羽生九段-飯島七段 その6

2020-06-14 09:15:18 | 将棋

 ▲4二角(第8図)は詰めろ(▲5三金の一手詰)。

 詰めろを受けるには4手段。①危険地帯から玉を逃げる(△6三玉)、②玉の脱出口を作る(△4五歩や△6五歩)、③5三の地点に守りを利かせる(△5二歩や△5二金)、④金を打たせないよう5三の地点を埋める。

①危険地帯から玉を逃げる(△6三玉)
 この手は持駒を使わずに済むし、危険地帯から遠ざかると同時に、味方の金銀に近づく玉捌きで、第一感の手。
 ただし、第8図での△6三玉には▲7四香が厳しい一着。挟撃態勢を築く詰めろなので、うっかり、銀取りを受けて△7三歩などとすると、▲5三金と打たれて、飛び上がることになる。▲7四香には△5三歩と受けるぐらいだが、以下▲5五桂△6二玉▲5四歩で後手難局であろう

②玉の脱出口を作る(△4五歩や△6五歩)
 これは見るからに危なげである。特に△6五歩などは現状では玉の逃げ道を広げておらず(6四の地点は4二の角の利きがある)、▲5三金と打たれた時に、その金が角の利きを遮って6四に逃げることができるというアクロバット的受け。
 危なげな受けではあるが、意外に難しい。おそらく、△4五歩や△6五歩のどちらに対しても正着は▲5五香。以下△6三玉に▲8五桂が追撃の好手。△8五同飛なら▲6四角成の必殺技が炸裂する(△6四同玉なら▲7四金で詰み)。

 △8五同飛とせず△6七とと紛れを求める手はある。▲6七同銀なら△8五同飛と桂を取り、▲6四角成△同玉▲7四金(E図)に今度は△5五玉と香を取れるという狙い(▲6四角成では正着は▲6四金で、先手が優勢)。

 しかし、△6七とには▲6七同銀とせず、▲6七同玉または▲4九玉で先手が勝勢

③5三の地点に守りを利かせる(△5二歩や△5二金)
 ▲5三金を防ぐ一番順当な受け。
 △5二金は5三に利かせつつ、先手の4二の角取りにもなる積極的な受けだが、この場合は平凡に▲5五香△6三玉に▲5二香成と金を取られてダメ。
 なので、打つなら取られても良い△5二歩が妥当。

 △5二歩に対しても▲5五香が考えられるが、△4三玉で余しているようだ。以下▲3五桂△4二玉▲4三金△5一玉▲5四桂(詰めろ)と迫っても、合駒がなくなったタイミングで△9八飛を利かすのが絶好となり、▲5九玉なら△6二金、▲5七玉なら△2四角と一旦受けておけばよい。
 ちなみに、後述する④△5三歩の場合は△4三玉の時▲5三香成があるので成立しない。また、▲5五香に対しては△6三玉でもよさそう(△4三玉より若干劣る)。

 △5二歩に対しては▲5五桂が最善。
 ▲4六桂または▲6六桂の詰めろだが、思いのほか受けが難しい。この桂打ちを一度に受ける手はなく(一瞬受けるだけなら△5七角だが、当然▲同玉と取られてしまう)、玉を逃げることもできない。よって、逃げ道を作るしかないが、△4五歩(4四への逃走路を確保)としても、▲4六桂(F図)が絶好手となる。

 △同歩なら▲4五金で詰み。また、▲4六桂に△4四玉なら▲4三金(▲5四金)△3五玉▲3六歩以下詰み。

 では、△5二歩に▲5五桂で先手必勝かというとそうではない。
 ▲5五桂には△6七とと捨て、▲6七同銀に△4五歩で詰めろがほどける。▲4六桂には銀を引かせているので△4六同桂とできる。
 とは言え、大事なと金を捨てただけでは詰めろを解消できず(▲4六桂△4五玉▲5六金△3五玉▲3六歩以下詰み)、もう1手△4五歩と手を入れなければならないのが辛い。
 ▲5五桂△6七と▲同銀△4五歩の局面は先手が優勢だろう
 
④金を打たせないよう5三の地点を埋める(△5三歩や△5三金)
 この手は指しにくい。

 なぜなら、5三に打った駒は、▲5五香△6三玉▲5三角成と手順に取られてしまうからだ(しかも、▲5三角成は王手の“先”)。1手と1歩を献上するようなものだ。
 しかし、ABEMA(旧名称はAbemaTV)の解説者によると「指しにくいが△5三歩が最善手のようだ」。画面が示す最善手も△5三歩で、評価勝率も63%と高い。
 これはなぜか?
 上記の手順で進んだとすると、確かに手順に打った歩を取られているが、歩を犠牲に手順に玉を逃がしたとも見られる。しかも、先手は香車を使っている。いや、馬と香車で強固な足掛かりとも見られるし、7五の歩の拠点も大きい。どちらの利が大きいか、判断が難しいところだが……
 48分の熟考で指された手は△5三歩。
 …………△5三歩に羽生九段の手が動かない。どうやら、△5三歩以下の展開に見落としか判断ミスがあったようだ。
 
 まず、③△5二歩では有効だった▲5五桂はどうか?
 ▲5五桂には△6五歩で受かるのが△5二歩の時との違い、5三の歩で4二の角の利きが遮られているのが大きい
 以下、攻めるとしたら、▲6六桂(△同歩なら▲6五金で詰み)だが、△6四玉▲7四金△同飛▲同歩△6六歩▲6五飛△7四玉▲7五香△8三玉▲7二香成△同金で届かない。また、△6五歩に対して▲8六香△8五歩▲同香(△同飛なら▲6六桂以下詰み)と迫る手もあるが、△9八飛▲4九玉△2六桂と攻め合われて一手負け。以下▲6六桂△6四玉▲5四金△7三玉▲7四歩(G図)と迫っても、△同飛で敗勢(▲7四同桂が王手にならず、△3八桂成で負け)。


 他にも変化はあるが、置き去りにされているように見える後手陣の美濃囲いが潜在的に後手玉の防御を果たしているのに対して、先手玉は詰めろを掛けられるとほぼ受けなしになってしまう。△5三歩▲5五桂△6五桂は先手敗勢


 21分考慮後の羽生九段の指し手は▲5五香だった。
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