福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

5月誕生会

2007-05-31 06:43:01 | 低温研のことごと

07053001昨日午後3時、お茶の時間に5月誕生会を開催。院生のAさんが誕生月と言うことで、彼女の年齢相当のキャンドルをみんなでケーキの上にセット。ふと、私のときの誕生会のときのキャンドルはどうなるのだろうと心配になる。まあ、気にしない、気にしない!

毎回スウィーツレパートリーを増加させているKさん。今回は、オリジナルレモンハチミツシフォンケーキだそうです。どうして、毎回違うスウィーツを作ってくるのか不思議に思い、彼にその理由をお訊ねいたしました。実はカラクリがあって、院生が「これを作ってください!」07053002と、Kさんへ指令が出るのだそうです。今回は、「シフォンケーキ」で、ネットでレシピを調べて、自宅で創作されるのだそうです。へええ、すげー。なにはともあれ、今回のシフォンケーキ、甘さをひかえながら、しっとりとした仕上げ、良いできですね。感謝。

07053003今回の誕生会のBGMはZARD。『もっと近くで君の横顔見ていたい』が流れながら、ひとふきでキャンドルの灯りを消すAさん。お誕生日おめでとうございます。

幹事さん、私のときのBGMは『乙女座宮』(←古いですね!)でお願いします。


成功と性格

2007-05-30 06:33:55 | 大学院時代をどう過ごすか

ベストセラー『国家の品格』の著者で知られる数学者の藤原正彦さんは、『数学者の休憩時間』でこんなことを綴っています。

Photo_66あるパーティーで、某大学の化学科教授に、「数学者として成功するかどうかは、五割が頭で五割が性格だ」、と言ったことがある。彼は感慨深そうに、「数学は頭が全てだと思っていましたが性格が五割ですか。化学は九割が性格です」、と言った。この話をつい先日、ある遺伝学者に話したら、「それは面白い。我々の分野では性格と体力が十割です」、自信ありげに言った。毎日、朝から夜更けまで、時には泊まり込みで一心不乱に実験に打ち込む、ということを何年も続けないと良い業績が上がらないという。それには先ほどのような性格に加えて頑健な体力が求められるらしい。
    (藤原正彦著『数学者の休憩時間』より)

生物学の中でも、頭を最も使う分野の一つである遺伝学でさえ、「性格と体力が十割」と言い切る遺伝学者(I先生か?)が凄い。

では、いったいどんな性格が必要条件かと言うと、藤原正彦さんは下記の3つをあげています。

1.    野心:未開の領域に挑むには相当の野心が必要
2.    執拗さ:容易でない未解決問題の解決には執拗な攻撃が必要
3.    楽天的:研究とは失敗の連続で、失敗の度に挫折感を味わう。そのどん底から這い上がり、新しい方法で攻撃を開始するためには、楽天的であることが必要

先日のエントリーでご紹介した、3つの「き」に7割程度共通していますね。

と、ここまで書いて気がついたのですが、研究者として成功するための性格の良さを強調する一方で、忘れてはならない前提条件があります。それは、生物学が好きであること、そして、生物学の知識体系を良く身につけていることです。それ以外にも、エッセンシャルな基礎学力が必要です。幾多の厳しいハードルを越え、そして、ようやく「性格の良さ」が求められるフェーズに至るのかもしれません。


朝のテイオンケン

2007-05-29 07:12:23 | 低温研のことごと

オフィスのマグカップやコーヒーサーバーに茶渋等がこびり付いていたので、昨晩からオーバーナイトで漂白剤に浸けることに。

朝一番にテイオンケンにやってくると、院生がオーバーナイトで院生部屋にいる。ゼミの準備でしょうか?

ふと、私が院生だった頃のことを思い出す。実験で徹夜になってしまった早朝のこと。眠気覚ましにコーヒーを飲もうかと思い、実験をしていた無菌室から、研究室のお茶飲みコーナーへ。当時、研究室は理学部の3階のかどに位置。室内は実験装置や人が多かったため、お茶飲みコーナーは廊下にありました。使い古されて汚れた湯のみ等が乱雑におかれているはずのテーブル。ところが、その朝は、湯のみがピカピカになっていたのです。どうしたのだろう? 不思議に思い、通りかかった掃除婦のAさんにおたずねする。すると、「湯のみ茶碗があまりにも汚かったから、漂白剤で洗っておきましたよ」と、Aさんのさりげない返答。

本来ならば、こうしたことは彼女の業務ではないのですが、陰ながら院生たちの活躍を応援してくれていたのでしょうね。

しばらくすると、研究室の先生方がいつものように出勤してきて、いつものようにお茶を飲み始める、きれいになった湯のみで。

さて、オーバーナイト処理していた私のマグカップもすっかりピカピカ。しつこい汚れがすっかり落ちました。もう2時間もすれば、テイオンケン玄関には事務系の職員の皆さんで行き交います。その前には、清掃されてすっかり廊下もきれいになっています。気持ちよく朝のスタートを切れるのも、清掃員のBさんのおかげです。


生態学への一歩

2007-05-25 08:29:20 | 本と雑誌

生態学を学ぶ場合、身近なフィールドで繰り広げられている生き物の生態を具体的にイメージすると、その背後にある法則性を理解しやすい。

私にとっての生態学へのとっかかりは、淡水の小さな池でした。当時から、池や湖の生物学を扱う書籍は多くありました。それぞれ工夫がなされ、ああなるほどな、と思わせるまとめ方に感心したりもしました。

070525先日、ご紹介した、『湖と池の生物学』のまとめ方は秀逸。この本では、湖沼生態学を理解していくうえでの、道筋をきちんと整理して示してくれています。

まず最初に、湖沼の理化学的環境を主題として、生物、生物間相互作用、食物網、そして、環境変化へと主題が階層的に発展していくのです。これは、実にすっきりと生態学的概念の頭脳への定着度が高まる手法です。

また、著者であるBroenmarkとHanssonによる日本語版への序文には、こんなことが記されています。

ヨーロッパの湖沼でも日本の湖沼でも、競争や捕食などの生物間相互作用や栄養塩の循環は同じように機能しているはずです。不幸なことに、汚染や富栄養化、酸性雨など、湖沼生態系に及ぼしている人間活動の深刻な影響さえ同じかもしれません。私たち著者は、誰でも正しい知識が容易に得られ、淡水生態系の構造や機能について理解を深め、さらにそのような理解を通じて少しでも解決されることを願って、本書を執筆いたしました

ふと気づいたのですが、彼らの思いは、かつての手塚泰彦先生の言と共通しています。

現在、東北大学の占部城太郎先生のグループが中心になって、高山湖沼の脆弱性に関する研究を行っていますが、今年度が最終年度です。私たちのグループも、気を引き締めて、取り組んで参ります。

最後に、この本を献本していただき、ありがとうございました。


世界に一つだけの雪片

2007-05-24 07:30:15 | 日記・エッセイ・コラム

天から送られてくる雪片。はかない結晶。その一つ一つ、どれをとっても同じ形のものがない。

昨日のエントリでご紹介したイングラム著『そうだったのか!』には、こんなことが書かれています。

惑星の誕生から今日まで地球上に降ったであろう雪片の数を考えてみてください。ある人の試算によると、その数は10の35乗個となります。これは一の後にゼロが35個並ぶ数です。またそれは、雪片一個が1グラムの100万分の一しかないことしても、合計では地球の重さの50倍に相当する重さです。そんなに数が多いのですから、そのうち二つが同じと言うことがあっても良いのではないのでしょうか?

なるほど、10の35乗個とはとんでもない数ですね。イングラムは、さらに統計学的検討を加えます。

ただここで考えなければならないのは、雪片一個は約1018個の水分子を含んでいるのですから、それらがどのように配置するかについては、やはり膨大な数の可能性があるということです。
 膨大と言うのはどれくらいでしょうか。概算によりますと、落下しながら徐々に成長する一個の結晶に対して、水分子が二つ以上の場所にくっつくことができるとすると、その可能性は100万になるそうです。この計算をさらに進めると、可能な雪片の数は、これまで地球上に降った雪片総数の何百兆倍のさらに何百兆のいう、信じられないほどの大きな数になります

ここまでの検討で十分説得力があるのですが、イングラムはさらに追い討ちをかけてきます。

そのうえ、二つの雪片がまったく同じ歴史をたどることはありえません。同じ場所から同時に放たれた気球でさえ、予測できない微風のため異なった道筋を飛ぶことになります。

うーん、なるほど。こうした統計学的検討から、必然的に一つの結論が導かれます。雪片はどの二つをとっても同一であることはほとんど絶対にあり得ない!説得力がありますね。

低温研の庭に咲く花もどれ一つとっても同一のものがなく、その花々の組み合わせは、偶然と必然が織りなす奇跡的なこと。その花々のどれもが生き生きと鼓舞するような庭を創りましょう。


そうだったのか!

2007-05-23 06:50:37 | 低温研のことごと

時として、思いがけない発見があるから、人生捨てたものではない。

このゴールデンウィーク期間中、自宅の書棚に積んでおいた本が乱雑であったので、整理することに。ふと、ある一冊の本が目に留まりました。

Photo_65ジェイ・イングラム著『そうだったのか! 見慣れたものに隠れた科学』(講談社ブルーバックス)。著者のイングラム(Jay Ingram)は、カナダのサイエンスライターで、CBC放送のサイエンス番組のホストとしても人気があるそうです。

訳者は早稲田大学教育学部の東中川 徹(ひがしなかがわ・とおる)教授。出版当時(1999年8月、還暦祝いの出版か?)、東中川先生から直接いただいた本です。自筆サインまでしていただいた本なのに、書棚に積んでおいたままにしておりました。センセイ、すいません!

で、この本を何気に読み始めたら、ビックリ。そうだったのか!知らなかった。

この本は、身近で、見慣れた現象にも隠された科学があって、そうした現象に好奇心を持って見なおせば、思いがけない世界が広がることを教えてくれます。

24つのトピックスを紹介しているのですが、20番目が、「雪の結晶はなぜあんなに大きくなるのでしょう?」です。この項には、こんな記述があります。

 20世紀最大の雪片の研究者は中谷宇吉郎です。
 本来、彼は核物理学者でしたが、幸か不幸か1930年、日本の北方の島にある北海道大学の物理学助教授に任命され、人生を大きく変えることになりました。その大学は、核物理学を研究する設備がない代わり、雪がふんだんにありました。中谷は現実に即したものの考え方をする人でしたから、研究分野を変え、雪の結晶を作り出した最初の科学者になりました。
  (中略)
 中谷は、雪の結晶が繊細な六つの指を持つ星形から、六辺の盾型、さらにはデカルトが記述したように両端に六角形をとることを初めて示しました。その形はそれぞれの雪片の歴史を表しています。
 「雪は天からの私たちへの手紙です」と中谷は書いています。

   (ジェイ・イングラム著『そうだったのか!』より

幸か不幸か、私も、こうして低温研にいます。伝統や過去にとらわれることなく、現実に即して研究分野を変えていく。「幸」へ転ずるには、まだまだ不断の努力が必要です。

最後に、この本をくださった東中川先生に感謝いたします。


夢と希望

2007-05-22 06:59:34 | 食・レシピ

大学教員は、夢を与える職業である。

月曜は、例によって、JR札幌駅前の高級デパート地下食料品売り場で食材を購入する日。昨夕も何とか、閉店間際に滑り込み完了。さてさて、お魚系統はと、店内をスキャニングする。なかなか適当なものが見つからない。あるコーナーで、若い店員さんにせつなく声をかけられる、「お弁当、半額ですよ!」。

07052101で、そのせつない誘惑に負け、「香豚弁当」(半額で、420円)を購入。ところが、この弁当、先週のものに比べて、メタボ系中年オヤジには良いのです。香豚(焼豚のようなもの)は、酢飯の上にそぼろとともに載せられ、こんにゃく、里芋、カボチャ、大根などの煮物が中心に添えられている。きんぴらごぼう、青菜や茄子の煮浸しもありますし。ただ、山菜(ふき)とちょっと味が濃いめと言うのがたまにキズ。

こうした食生活をブログで綴ることに、低温研のAさんは懐疑的。「大学の先生は、若者に夢を与える商売なのに、なんか貧乏臭くない?」と。

そうかもしれない。ただ、大学の先生にもいろいろいて、いろいろな事情を抱えていると言うもの。昔から言うじゃないですか、「学者貧乏」って。

札幌での食生活に関する情報は、夢を与えないかもしれませんが、親元から遠くはなれて一人暮らしを始める大学院生には希望を与えるのではないかと思っております。420円で、健康に多少配慮した経済的な夕食ができるのなら、大学院の5年間を何とかやって行けそうだと思いませんか? たとえ、自炊が不得意の若者であったとしても。

最後に、我が身への戒めの言葉。またもや、シュフ度の高い若手キョウインEさんにカンパイ。いつの日か、研究漂流生活に光あれ


ええふりこき再考

2007-05-21 01:00:00 | 日記・エッセイ・コラム

アイヌ語は別として、北海道で使われている言葉は、どこかの地方からのそれを起源としていることが多い。

昨日のエントリーでご紹介した「ええふりこき」ですが、ちょっと気になって、その起源を調べてみました。

何と、秋田弁が起源らしい。このところ、秋田の人々と交流が重なっているので、何とも奇遇です。秋田弁を漫画で紹介している「イラストでみる秋田弁の世界」といい、豊島ミホの「底辺女子高生」といい、なんかイグネー?

んだ!


ええふりこき

2007-05-20 09:20:05 | 悩み

先日、K先生と来年度北大で行われるかもしれない「懇親会」についてお話ししている時のこと。その系統の営業のAさん(道産子の方)がいらして、「ええふりこき」と言う言葉を使われました。K先生も私も、意味が分からず、キョトンとしていると、Aさんが「<ええふりこき>って、標準語でしょ?」と。

いえいえ、違います!

訊くところによると、「ええふりこき」とは、「良い格好をしたがる人(イイカッコウシー)」のことだそうです。なるほど、また一つ道産子に近づきました。

「ええふりこき」ならば、高級ホテルの何とかの間で懇親会を開催するに違いない。オシャレな気分も味わえるし、同じ一杯のコーヒーでもリッチな気分に浸れるかもしれない。しかし、院生が多く参加する懇親会では、ともかく、腹を満たしてあげる必要があるのでは、と思ったり。その場合、北大生協の北部食堂が懇親会の会場。お世辞にもオシャレな会場とは言えないが、食事の物足りなさを解消できるし、会費も安くてすむ。とは言うものの、シニアな先生方には「いまひとつ!」の印象を与えてしまう。うーむ。どうしようか?水前寺清子の「いっぽんどっこの唄」が頭をかすめる。

お腹がすいてきたので、コンビニに足を運ぶ。日高昆布のおにぎりを選んで、レジへ移動。店員さんはいつものように、「おにぎり、あたためますか?」と。この言葉にも、違和感なく聞けるようになりました。

やはり、「懇親会」のコンセプトは、院生向けに「ええふりこき」をナゲテ、北海道らしさダベサ。


環境分子生物学・微生物生態学コース新歓コンパ

2007-05-18 07:17:39 | 四季折々

少し分野が離れた研究をしている若者たちと議論をすると、とんでもないアイデアが生まれることがある。

昨夕、JR札幌駅ガード下の居酒屋(「七福神」)にて、大学院環境科学院生物圏科学専攻環境分子生物学・微生物生態学コースの新歓コンパが行われました。

01_84年度始め、いろいろな行事が重なり、ようやくコースの新歓コンパに至った次第です。総勢38名。言わば、1クラス分に相当。各研究室紹介、新人紹介、ちょっとした芸が続き、とても賑やかな会でした。

02_47院生のパワーには圧倒されっぱなしでした。森川専攻長の、「自信を持ってやりましょう!」との言葉も、良かったですね。

コンパも終盤戦に入り、口直しの「ケーキ」を食べている時、同世代のK先生とちょっとした会話。何かのきっかけで、BCL(←若人たちには、ピンとこない言葉でしょうね)の話題。あまりにも懐かしかったので、どこそこの国のベリカードは、というあまりにもレトロでマニアックな会話に発展。うーむ、新歓コンパには、そぐわない話題でしたね。失礼!

なにはともあれ、院生の皆さんのご活躍、期待しております。


初々しさ

2007-05-17 07:18:38 | 南極

昨夕、学部の1、2年生が研究室を訪ねてきてくれました。大学祭の公開講演のポスターとパンフレットが刷り上がったとのこと。

2年生のAさんは、昨年度の全学共通教養科目「寒冷圏の科学」の受講生。今年度の北海道大学の大学祭で一般向けの講演をして欲しいとの依頼を昨年度から受けていました。学部の学生からのこうした依頼は、お引き受けすることにしています。優秀な先生方がたくさんいらっしゃる中で、私に依頼してくれるなんて光栄です。

070516_1と言うことで、第49回北大祭の公開講義の一つとして、来る6月10日(日)13:00~14:00、高等教育機能開発総合センター「N2教室」にて、お話しさせていただきます。

タイトルは、
  メタボ系中年オヤジ、南極大陸を行く
です。

先日、秋田在住の小児科医Mさんから「あるバトン」を受け取りましたので、当初予定していた内容を全て破棄して、新しい内容を検討中です。講演日ギリギリまでかかるかもしれません。

大学祭運営のノウハウを後輩に伝えると言う意味で、新年度に入って1年生が組織委員会に加わりました。当日会場でお世話していただくのは、1年生のBさん。打合せをしている過程で、Bさんが新潟県の長岡の方だと言うことが判明。驚いたことに、高校時代のBさんの担任が、第39次隊で南極観測(生物担当)に参加された経験があるとのこと。偶然に偶然が重なり、人との出会いの妙を感じました。

初々しい学部1、2年生と一緒にお茶をして、私までも初々しい気分に浸りました。Aさん、Bさん、ありがとうございました。


流氷への旅(6)

2007-05-16 06:53:17 | 流氷への旅シリーズ

 それだけに、美砂には大学で見るもの、聞くもの、全てが新鮮に映る。こんな生き生きとした世界があったとは知らなかった。
 その意味で、美砂は札幌まで来てつとめたことを悔いていない。
 (中略)
「北へ来たのは間違っていなかったわ」
 (中略)

 札幌には梅雨がない。その梅雨のない六月の街のあちこちに、ライラックの花が咲いている。ライラックは英名で、フランス語ではリラという。日本語名はムラサキハシドイと名付けられている。せっかく日本名があるのに、リラという言葉の方が似合うのは、この花が外国から移し植えられたせいなのかもしれない。
 美砂のアパートから北大の低温科学研究所へ通う道にも、至る所にリラの花があふれている。美砂はこのリラの花の香りが気に入っている。パステルカラーの淡い紫色の花とともに、その香りも、どこか秘めやかで慎み深い。
 美砂はその花の並木の横を通って研究所に入る。

           (渡辺淳一「流氷への旅」より)

070516もうすぐ、リラの季節を迎えます。その慎み深い香りが、低温研で行われている研究に活力を与えてくれるかもしれません。待ち遠しいですね。


咲き誇る日々が

2007-05-14 21:05:42 | 四季折々

0705140107051402北海道大学の正門からキャンパスに入ってすぐ右手に事務局があります。ここは、構内循環バスの起点。バスに乗り込み、ふと庭に目を向けると、淡いピンクのツツジが咲き誇っていました。思わず、バスを降りて、その美しい花の舞いを写真機におさめる。この花のように、我が研究室の大学院生の皆さんにも、咲き誇る日々がきっと来る。

月曜日は、札幌駅前の高級デパート地下食品売り場でお買い物をする日。今日は07051403ちょっと仕事が立て込んでいたので、無理かと諦めかけていたのですが、なんとか、閉店10分前に滑り込み成功(閉店時間は午後8時)。魚系統のものを夕食にと思っていたのですが、海老フライとヒレカツのミックスフライ弁当(安売りで、420円)に流されてしまう。まあ、松健うどん+焼豚おにぎり(500円)よりは良いかもしれません。が、メタボ対策には最悪です。

今日も、シュフ度の高い雪氷系若手キョウインEさんに完敗です。さてさて、私にもいつか咲き誇る日々がくるでしょうか?


命のリレー

2007-05-13 19:27:49 | 南極

先の金曜日、研究室に宅配便が届く。差出人は、秋田在住の小児科医Mさん。封を開けると、秋田のミニコミ紙2編と一冊の写真集。

ミニコミ紙にMさんが書いたエッセイ『守られて』を読み始める。「娘として」で始まる冒頭には、こんなことが書かれています。

 母が逝った。享年57歳。このことに対する思いは語り尽くせない。医師として少なからず“死”に触れてきた。外科修業時代、逝く人を前に涙を堪えることができなかった。小児外科医を目指していた頃には、幼い命を見送った。母は「先生がそんなに悲しんだら、この子が成仏できない・・・」と慰めた。旧国立療養所あきた病院で、命懸けで呼吸し、命懸けで食べる重症心身障害者、筋ジストロフィーの患者さんに出会った。“病”そして“死”を通して多くの“生”に触れてきたつもりであった。しかし、これが自分の身に起こった時・・・いまだに言葉にできない。
     (Mさん「守られて・・・」より)

昨年2月のこと。ホスピスでお母さんの最後の呼吸、脈圧を確認したのは、娘のMさん。Mさんにとって、このことは医師としてはありがたいことでしたが、本当にお母さんが望んだことは、娘として寄り添うことではなかったかと、自問し続けています。

Mさんは、さらに、こんなことを綴っています。

 父が遺された。61歳。この数年は妻の介護に明け暮れた。
仕事と家族を愛し、お酒が大好きな“秋田衆”。検診ではアルコール性肝障害の指標γGTPは400を超えていた。しかし、母の病状が思わしくなくなり、最期の数ヶ月をホスピスで過ごした頃、父は母に寄り添い暮らし、まだまだ続くと信じていた介護の日々のために、初めて健康に留意した。
 父は母に守られている。現在の父はγGTP正常、娘の行う超音波検査で脂肪肝はない。
    (Mさん「守られて・・・」より)

Mさんとの出会いは偶然で、彼女が小児外科医を目指していた、危なっかしい医学生の頃。その後、小児科医の旦那さんと結婚。第一子の臨月の頃のMさんに再会したのは、私が札幌に赴任する直前でしたね。そして、2児の子育てをしながら、母として、妻として、勤務医として超多忙な毎日を送っている現在のMさん。その成長ぶりは、目を見張るものがあります。日々命と向き合う専門職として、不断の努力の積み重ね。失敗が許されない、緊張が続く医療の現場。そんなMさんの研鑽の日々を想像しただけで、我が身の怠業を恥じ入ります。

生前、Mさんのお母さんは、いとこの写真家藤原幸一氏の活動を応援し続けてきたそうです。彼の近著「南極がこわれる」(ポプラ社)が、Mさんからの宅配便には同封されていたのです。

01_8302_46この写真集のページをめくって行くと、血塗られた羽毛姿の傷ついたペンギンが生々しく紹介されています。なぜ、ペンギンは傷ついているのでしょう?南極探検、南極観測の名のもとに、南極の環境が破壊され、観測基地周辺はゴミの山。破棄された重機の金属刃でペンギンが傷つくのです。

肉眼で見えない汚染もあります。石油漏出は頻繁に起こる。有害化学物質の生態系汚染。

ミクロな汚染だけでなく、化石燃料の大量消費による地球温暖化。後退して行く大陸氷床。

南極観測には、「光と陰」があります。藤原氏は、「陰」の部分を鋭く批判しています。これまであまり語られることのなかった、南極観測の「陰」。観測隊に参加した科学者ならば、その悲惨さを十分認識しているはずです。以前のエントリーでも紹介いたしましたが、極地のような寒冷圏生態系は、微生物分解が遅く、一度破壊されると、回復しにくい特徴があります(「生態系の脆弱性」)

金曜日に届いたMさんからのメッセージは、私にとって、「陰」の部分の視点から日本の南極観測を捉えていく契機となりました。

Mさん。お母さんのおもい(バトン)をMさん経由でしっかり受け取りましたよ。必ず、そのおもいを、私が次世代に伝えますから。

今日は、母の日。新潟に住んでいる70代後半の母には、いつも心配をかけてばかりです。冷たく、不肖の息子ですみません。

院生の皆さん、お母さんに電話をしましたか?


3つの「き」

2007-05-11 07:09:34 | 大学院時代をどう過ごすか

研究者には、「3つのき」が大切で、「こんき」、「ゆうき」、そして「ほんき」です。

先日のエントリー「うなぎのじゅもん」、ローカルで静かなブームを呼び起こしたようで、嬉しく思います。歌だけでなく、踊りも加われば、もっと身に付くのではと思い、「うなぎのじゅもん体操教則ビデオ」を申し込みました。が、締め切りが、2005年10月末日までで、もう過ぎていました。うーん、orz…(←sueさんやconyさんの真似っこです)。

6号館のTさん情報によると、今週12日に北大で講演する毎日新聞科学記者元村有希子さんは、研究の3つの「ん」をあげているそうです。
「運、鈍、根」
ジャーナリストの観点からの科学技術に関する講演も、ひと味違い面白いかもしれません。時間に余裕がある方は、聴きに行ってみてください。別件のため、残念ながら私は参加できませんが。

さて、話を前に戻すと、研究者にとって「ほんき」は、重要な要素なのですが、意外と難しいところ。大学院生の皆さんは、「そんな馬鹿な。好きな研究なんだから、本気になるのは当たり前でしょ」と。ところが、どっこい!

ポストドク、大学の助手(現在、助教)、国立研究所の研究員、民間企業の研究員、博物館の学芸員などなど、給料を頂く身分になると、「やりたい研究」や「やりたい仕事」ばかりで済まされないのです。そんな時、「ほんき」でそうした仕事に取り組めるか否かが、「研究者のわかれみち」だと、私は思っています。では、どうしたら、「ほんき」になれるかと言う課題に関しては、そのうちまたご紹介いたしましょう。

昨晩は、北部食堂で久しぶりに「松健うどん」。長いものをすすりながら、生協書籍で購入した「ラボ・ダイナミックス:理系人間のためのコミュニケーションスキル」(Carl M. Cohen & Suzanne L. Cohen)(メディカル・サイエンス・インターナショナル)を読む。うーん、なるほどね。