福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

越冬隊員の健康管理

2006-10-25 15:46:18 | 南極

今、文部科学省の科学研究費の申請時期です。申請書類の作成にはエネルギーを消耗します。昨晩は、研究室に泊まり込みでした。南極観測以来、初めて寝袋のお世話になりました。今朝起きてみると、首から肩にかけて痛みが出てきました。日本の都市部にいれば、病気になっても適切な病院で治療を受けることができます。

1_2しかし、南極昭和基地では2人のお医者さんしかいません。JARE47医療隊員は2人とも外科が専門です。越冬中、心身の病全般にわたり、2人のみで対応しなければなりません。氷床コア掘削現場であるドームふじへ1人の医療隊員を派遣してしまうと、残った1人で昭和基地全員の病への対応をしなくてはなりません。彼らの苦労を思うと、頭が下がる思いです。

01_3本日、越冬中の医療隊員が誕生日を迎えました。おめでとうございます。JARE47の高野さんとJARE48の星野さんを含めて、生物隊員からバースデーカードをメールで昭和基地にお送りいたしました。元気な姿で、日本に戻ってきてください。


シンジラレナイ

2006-10-23 22:14:53 | インポート

Jal中部国際空港9:30発札幌行きJAL3105便は満席。なぜか外国人客が多い。予定通り新千歳空港に着陸。いち早くボーディングブリッジを出て、到着ロビーに向かう。出口の扉が開くと、50名以上だろうか、若い女性が群がりながらカメラをこちらに向けている。裏返った声で、「マイケル~!」。

私:「何事ですか?」

一人のカメラを持った若い女性:「えっ? 飛行機の中に日ハムの選手が乗っていませんでしたか?」

そうだったのか! 昨晩はナゴヤドームで中日ドラゴンズとの日本シリーズ2戦目だったのだ。明日からの札幌ドームでの3戦目のため、チームは名古屋からホームへ帰って来たのだ。

後で、日本ハムファイターズのHPを調べたところ、私の隣の席に座っていた方はヒルマン監督であった。通路を隔てた隣は昨晩の試合で2ランホームランを打ったセギノール選手。

それにしても搭乗中、日ハムの選手に全く気がつかなかった私は、相当に浮世離れしている。と言うか、まだ北海道人になっていないな。シンジラレナイ。

機内で気がついていればなあ、ああ、モッタイナイ!


流氷への旅(4)

2006-10-20 08:47:22 | 流氷への旅シリーズ

美砂:「仁科さんは立派な秘書だったと、先生は口癖のように仰言っています」
杏子:「先生は退屈しのぎに、ご冗談を仰言ったのでしょう」
美砂:「いえ、本当です。昨夜もあのあときかされたのです」
杏子がそっと紅茶を飲む。

美砂:「秘書の仕事というと、どんなことをするのでしょう」
杏子:「わたくしのときは、先生への電話を取り次いだり、文献を揃えたり、タイプを打ったり、大体そんなことでした」
美砂:「わたし、タイプは苦手なのです」
杏子:「簡単な文献をうつだけですから、そんなに上手にできなくても平気です」
美砂:「時間は?」
杏子:「一応、朝9時から夕方5時までということになっていますが、先生はあの通り暢気な方ですから、とても気楽です」

    (渡辺淳一・「流氷への旅」より)

30年前は時間がゆっくりと流れていたのですね。

Photo_28
時代は過ぎ、現在は?

4つの研究グループを一手に引き受けている秘書さんは、大忙し。


フェルメールの「地理学者」

2006-10-18 00:26:10 | 旅行記

Photo_23オランダの画家フェルメールが描いた地理学者のモデルは、微生物学者レーウェンフックであった。



そんな話を土壌微生物学者の服部 勉先生からお聞きしたことがあります。「デルフトの眺望」で知られるフェルメールは1632年10月24日オランダのデルフトで誕生いたしました。同日、レーウェンフックもデルフトで誕生しています。フェルメールは1675年12月15日に43歳の若さで死亡しますが、多額の借金を残しました。その管財人を務めたのがレーウェンフックでした。

Photo_24レーウェンフック(~1723.8.26)は呉服商人でした。特に科学者としてのトレーニングを受けた訳でなく、趣味としてレンズ磨きに精を出し、シングルレンズの顕微鏡を作り続けました。その顕微鏡で様々な自然界の微生物をマニアックに観察し、記録したものをロンドンの王立協会に送りました。あの時代に微生物の大きさも測定しています。言わば、微生物生態学の父とも呼べる人です。詳しくは、「微生物ってなに?」のなかで、笠原康裕さんが書かれた「微生物学の歴史」を参照してください。

Photo_25さて、地理学者とレーウェンフックの肖像画を比べてみると類似点が多いことに気付きます。特に、コンパスを持つ手の辺りは、「なるほどなあ」と思わせます。


フェルメールは生前、レーウェンフックと親交があったと言うことですので、いつも顕微鏡を丹念にのぞいているレーウェンフックをモデルにしても不思議ではありません。しかし、フェルメールはなぜ微生物学者を描かなかったのでしょうか?

Photo_26現物が観たくなって、昨年ドイツ・フランクフルトにあるシュテーデル美術館に行って参りました。予想と反して小さなキャンバスに描かれた「地理学者」でした。美術館はフランクフルト中央駅から徒歩圏内ですので、ドイツに行く機会がありましたらどうぞ!


流氷への旅(3)

2006-10-14 00:54:44 | 流氷への旅シリーズ

明峯教授の部屋は、3階の右手にあった。入り口に「明峯教授室」と書かれ、ドアの行先掲示板に「在室」と出ている。

美砂は一瞬ためらい、それからそっとドアをノックした。
内側から返事がきこえ、美砂は自分からドアを開けた。
すぐに衝立(ついたて)があり、奥は見えない。

「竹内美砂です」
「おうっ、いらっしゃい」
教授の声がして立ち上がる気配がする。美砂はコートを脱ぎ、衝立の前に出た。
(渡辺淳一・「流氷への旅」より)


Photo_21これが現在の3階の右手の研究室です。海洋学教室ではなく、気候変動グループの部屋になっています。



Photo_22しかし、教授室の入り口は、33年前と同じ行先掲示板があり、「在室」マークも同じです。色あせてはいますが、、、


流氷への旅(2)

2006-10-13 00:41:44 | 流氷への旅シリーズ

左手は裸木が続き、右手はポプラ並木の果てに雪をかぶった山並みが午後の光に輝いている。

「広いな」
美砂(みさご)は溜息をつき、改めて北海道へ来たことを実感する。

研究所には特に受付はない。入口の左手に研究所内の講座名と、所員の名札だけが掲示されている。「海洋学教室」という名札の左に、教授・明峯隆太郎、助教授・今井正浩、となり、以下、講師、助手と続く。藤野の名前は助手の三番目に並んでいる。

だが紙谷の名はない。美砂が探すとその次の、「紋別流氷研究所」という表示のすぐあとに、紙谷誠吾と言う名札が下がっている。
(渡辺淳一・「流氷への旅」より)

現在でも入口の左手に所員全員の名札がかかっていて、在所の場合は黒色、不在のImg_1113場合は朱色の文字で記しています。一目で全所員の名と所在が確認できます。とてもシンプルですが、30年上も続いている巧みなシステムであると思います。

Img_1114渡辺淳一はしっかりと取材して、小説を書いているのですね。


流氷への旅(1)

2006-10-12 23:40:15 | 流氷への旅シリーズ

明峯教授の勤めている低温科学研究所は、その北大の一隅にあった。かつて雪の研究で有名だった中谷宇吉郎先生がいたころは、構内のほぼ中心に、赤い煉瓦の建物であったが、その後手狭になって、いまの白い四階建ての、瀟洒(しょうしゃ)な建物に移ったのである。  (渡辺淳一・「流氷への旅」より)

Photo_19バンクーバーの会議に出席していたJAMSTECのOさんから、低温研を舞台にした渡辺淳一の小説があることをお聞きいたしました。渡辺淳一といえば、野口英世を題材にした「遠き落日」などで有名ですが、帰国後、早速上記小説を読んでみました。

Photo_20その瀟洒な低温研の研究本館は、実際は4階建てではなく3階建てです。小説が書かれた当時から既に33年が過ぎ、建物は老朽化が進んでいます。

話は変わりますが、今晩日本ハムファイターズが25年ぶりにリーグ優勝しました!


微生物ってなに?

2006-10-05 22:02:16 | 本と雑誌

Photo_18いよいよ、「微生物ってなに? ~もっと知ろう!身近な生命~」(日本微生物生態学会 微生物生態教育研究部会 編著)が日科技連出版より刊行されます(2006年10月11日発売)。

本日見本が出来上がりました。各執筆者が工夫を凝らしながら一般の方向けに微生物の世界を平易に紹介しています。

内容は、下記の通りです。一読していただけると幸いです。

      <目次>
口 絵-写真と解説
まえがき

1.    地球の生い立ちと生命の歴史

2.    微生物学の歴史

3.    微生物の種類

4.    地球環境の微生物たち
 1)    炭素の循環
 2)    窒素の循環
 3)    極限環境の微生物(高温)
        (低温)

5.    役に立つ微生物たち(食品,医薬品,農水産業,工業など)
 1)    食品
 2)    医薬品
 3)    農業
 4)    水産業
 5)    工業・環境

6.    バイオ研究の動向と問題点(生態系への影響と世界での対応)

豆知識
コラム-微生物トリビア


地下生物圏

2006-10-05 15:44:47 | 学問

1_110月3日より5日まで、カナダ・バンクーバーにてIODP Subseafloor Life Workshop(統合海洋掘削計画海洋底下の生命に関するワークショップ)が開催されています。日米欧の関連する研究者が集まり、ホテルに缶詰にされて朝から晩までこれからの研究戦略を練っています。海底下にはどんな微生物がいて、どのような活動をしているのでしょうか?海底下の生命活動を研究することによりどのようなことが分かってくるのでしょうか?そして、得られた結果はどのような波及効果をもたらすのでしょうか?

80名余の研究者が議論を白熱させているところです。この分野の日本人研究者は多くはありませんが、JAMSTECを中心として質の高い研究を行っています。できれば若手研究者がさらに増えてくれることを期待しています。

個人的なことですが、ブレーメンの研究所で一緒に研究したAndreas Teskeに何年かぶりに再会することができて、胸が熱くなりました。彼の奥さん、Carol Arnostiも海洋研究者です。10年以上も前のことですが、彼女の家にAndreasと私が夕食に招待されたことを今でも良く覚えています。3人でチーズフォンデュをいただきました。その時、3人ともAndreasとCarolが結婚するとは思っていませんでした。


牛皮流氷白玉あずき

2006-10-04 22:05:14 | 南極

かつて紋別に低温研附属流氷研究施設がありました。オホーツク海から押し寄せる流氷を観測する施設でしたが、現在は廃止されています。北海道にいるからには是非とも一度は紋別を訪れ、流氷を観たいと思っています。

Photo_15良く行く喫茶店のメニューに「牛皮流氷白玉あずき」があります。バニラアイスが牛皮に包まれてあずきの上に浮かんでいます。流氷と言うよりは氷山と言った感じでしょうか?

Photo_16フリーマントルから砕氷艦しらせに乗船してから、楽しみの一つは氷山を視認することです。この写真に写っている氷山が私にとって南極海で初めてものでした。

Photo_17氷山が見え始めた頃から、飛行甲板に上がると頬を突き刺すような寒さになって来ます。そんなとき、白玉あずきが食べたくなるのですが、それは叶わぬ願い。正月に振る舞われる「あんころ餅」まで我慢です。