福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

2014年を振り返る(2)

2014-12-28 17:41:02 | 日記
2014年。研究においては実り多き年であったと思います。

何と言っても、1994年から手がけてきた巨大硫黄酸化細菌チオプローカの研究において、大きく飛躍することができました(論文1)。小島さん曰く、「ゲノム解読は研究の新しい出発点ある。硝酸イオン蓄積硫黄酸化細菌は海底に大量に生息し、海洋の窒素などの循環に大きく寄与している。地球上の元素循環を解明するためにも、この巨大硫黄酸化細菌のゲノムを深く読み込みたい」と。本研究の解説等は下記から。
北海道大学プレスリリース
サイエンスポータル
ハフポスト
科学新聞

私たちは、淡水湖沼で優占する浮遊性硫黄酸化細菌研究においてもトップランナーです(研究論文8)。今年も新たに新種を発見いたしました(研究論文9)。そして、丁寧に完全長ゲノム配列を決定しながら、新しい目の提案もいたしました(研究論文6)。

戦前、湖沼学者吉村信吉博士は、春採湖(北海道釧路市)の湖水中の硫化水素濃度が世界一高いと記載しています。その原因を探るべく、近代的かつ本格的な微生物生態学調査を行った成果も発表いたしました(研究論文7)。冬期、凍結した春採湖において、低温科学研究所の事務職員と技術職員の協力を得て調査。彼らの協力なしでは遂行できませんでした。今なおも春採湖水の最大硫化水素濃度は1 mM以上で、驚異の湖です。



新規微生物ハンターとして不断の努力を重ね、新属新種の発見も続々(研究論文2、3)。

マックスプランク陸生微生物学研究所の嶋盛吾先生(低温科学研究所客員教授)との国際共同研究も着々と進んでいます(研究論文4)。

海外研究者との共同研究で、全く予期していなかった結果が得られました。台湾のダム湖(翡翠水庫)の深層水で脱窒メタン酸化細菌が優占していることを世界で初めて発見いたしました。これは陸水生態学の教科書を塗り替える知見(湖沼生態系の炭素及び窒素循環おける新知見)です。JST(科学技術振興機構)より取材を受けた際の私のコメントは下記の通りです。

「湖の深層水に脱窒メタン酸化細菌がこれほど多かったのには驚いた。この細菌の群集が湖沼の環境保全に重要な役割をしているのは間違いない。湖水の生態系研究の新しい突破口になる。亜熱帯だけでなく、温帯や寒帯の深い湖沼にも、この細菌の群集がいるかどうか、調査したい」

また、脱窒メタン酸化細菌に関する解説等は下記よりご覧頂けます。
北海道大学プレスリリース
サイエンスポータル
ハフポスト
環境展望台
財経新聞

以上のように、2014年の研究成果をまとめてみましたが、来年も楽しみながら不断の努力をして参ります。これからもよろしくお願いいたします。

<2014年発表論文>
1. Kojima,H., Ogura,Y., Yamamoto,N., Togashi,T., Mori,H., Watanabe,T., Nemoto,F., Kurokawa,K., Hayashi,T., and Fukui,M. Ecophysiology of Thioploca ingrica as revealed by the complete genome sequence supplemented with proteomic evidence. The ISME Journal : in press.
2. Kojima,H., Tokizawa, R. and Fukui,M. Mizugakiibacter sediminis gen. nov., sp. nov., isolated from a freshwater lake. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology : in press.
3. Watanabe,M., Kojima,H. and Fukui,M. Proposal of Effusibacillus lacus gen. nov., sp. nov. and reclassification of Alicyclobacillus pohliae as Effusibacillus pohliae comb. nov. and Alicyclobacillus consociatus as Effusibacillus consociatus comb. nov.. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 64: in press.
4. Kojima,H., Moll,J., Kahnt,J., Fukui,M. and Shima,S. A reversed genetic approach reveals the coenzyme specificity and the catalytic properties of three enzymes putatively involved in anaerobic oxidation of methane with sulfate. Environmental Microbiology: in press.
5. Kojima,H., Tokizawa,R., Kogure,K., Kobayashi,Y., Itoh,M., Shiah,F-K., Okuda,N. and Fukui,M. Community structure of planktonic methane-oxidizing bacteria in a subtropical reservoir characterized by dominance of phylotype closely related to nitrite reducer. Scientific Reports 4: 5728. DOI: 10.1038/srep05728.
6. Watanabe,T., Kojima,H., and Fukui,M. Complete genomes of freshwater sulfur oxidizers Sulfuricella denitrificans skB26 and Sulfuritalea hydrogenivorans sk43H: Genetic insights into the sulfur oxidation pathway of betaproteobacteria. Systematic and Applied Microbiology 37:387-395.2014.
7. Kubo,K., Kojima,H., and Fukui,M. Vertical distribution of major sulfate-reducing bacteria in a eutrophic shallow meromictic lake. Systematic and Applied Microbiology 37:510-519.2014.
8. Kojima,H., Watanabe,T., Iwata,T. and Fukui,M. Identification of major planktonic sulfur oxidizers in stratified freshwater lake. PLoS ONE : e93877. 2014.
9. Kojima,H. and Fukui,M. Sulfurisoma sediminicola gen. nov., sp. nov., a novel facultative autotroph isolated from a freshwater lake. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 64: 1587-1592. 2014.

2014年を振り返る(1)

2014-12-27 22:16:05 | 日記
年末、この一年を振り返る。過ぎてしまえば、あっという間なのですが、やはりいろいろとありました。

私たちの研究室は少人数精鋭であることが特徴です。これからも大学院生や博士研究員一人一人を大切にしながら、寒冷圏微生物生理生態学研究を行って参ります。

さて、この一年の出来事を簡潔に列記してみました。国内外からたくさんの研究者に来て頂き、感謝しております。6月のメタン栄養研究集会では、台湾から夏復國博士(中央研究院:アカデミアシニカ)に来て頂き、翡翠水庫での研究を加速させることができました。

特筆すべきことは、今年も嶋盛吾先生に客員教授をお願いして、共同研究を実施していることです。嶋先生との共同研究は、大学院生にとっても有意義です。来年も引き続き客員教授をお願いすることになりました。これからの研究の展開が楽しみです。

<2014年の主な出来事>
1月
・ 宮武哲郎博士(ブレーメン大学)来所(セミナー)
・ 渡邉友浩さん博士学位論文発表会
2月
・ 小暮耕平さん修士学位論文発表会
・ マックスプランク陸生微生物学研究所、ゲッチンゲン大学、ブレーメン大学、アルフレッドウェゲナー極地海洋研究所及びZARM訪問
・ 水環境微生物研究集会開催
3月
・ 春採湖(北海道釧路市)調査
・ ゲノム微生物学会東京大会
・ 日本生態学会広島大会
・ 修了式(友浩さん、小暮さん)
4月
・ 地球惑星科学連合横浜大会
5月
・ 国際水圏科学会議(米国ポートランド)
・ 嶋盛吾客員教授(マックスプランク陸生微生物学研究所)来所(共同研究)
6月
・ 発酵研究所研究助成講演会
・ みずかぎ湖(山梨県)調査
・ 生物環境部門バーベキューパーティー
・ メタン栄養研究集会開催
7月
・ 古代ゲノム研究集会開催
・ 厚岸湖(北海道厚岸町)調査
・ 国際微生物学連合会議(カナダ•モントリオール)
8月
・ 大学院入試
・ 国際微生物生態学シンポジウム(韓国ソウル)
9月
・ Marc Mussmann博士(マックスプランク海洋微生物学研究所)来所(共同研究)
・ 日本陸水学会つくば大会
・ 田村浩一郎教授(首都大学東京)の集中講義
・ 久保響子特任助教異動(任期なし助教として鶴岡工業高等専門学校へ赴任)
10月
・ Hagen教授(ブレーメン大学)来所(南極学特別講義II)
・ 嶋盛吾客員教授(マックスプランク陸生微生物学研究所)来所(共同研究)
・ 環境微生物系合同大会(静岡県浜松)
11月
・ みずかぎ湖(山梨県)調査
・ アルフレッドウェゲナー極地海洋研究所訪問
12月
・ ブレーメン大学にて北海道大学交流デー
・ 生物環境部門忘年会


<12月1日ブレーメン大学でのプレゼンテーションに用いたポワーポイントスライドの1枚>


12月誕生会

2014-12-25 15:24:01 | 日記
12月はAさんの誕生月。おめでとうございます。

午後の休憩時間でお茶会です。ケーキに加え、南極越冬隊員だったBさんから頂いた青森リンゴで談笑。

共同研究で当研究室に滞在している東岡さん(高知高専)も参加して頂きました。なにげない議論の中から、研究のアイデアが生まれてくるかもしれませんね。







寒冷圏科学最前線:ブレーメン大学セミナー

2014-12-09 12:27:53 | 日記
ドイツのブレーメンにて、ブレーメン大学と北海道大学の交流デーが開催され、低温科学研究所は寒冷圏科学に関するパラレルセミナーを主催いたしました。

会場は、ヨーロッパにおける統合国際深海掘削計画(IODP)の研究拠点であるMARUM(海洋環境科学研究センター)。



セッション名は、“New Frontiers in Cryosphere Science: Biology, Oceanography and Glaciology”で3部構成。最初の生物学関連セクションでは、嶋盛吾先生の基調講演の後、大学院生の渡邊美穂さんが講演。熱意溢れる発表で、質疑応答も活発に行なわれました。



美穂さんに続いて、低温科学研究所の大学院生(榊原さん、大藪さん)及び若手研究者(野村さん、柏瀬さん)が講演。みなさんの講演から学ぶ点が多く、とても有意義でした。嬉しいことに、ブレーメン大学の学生もたくさん参加していただき、若手を中心とした学術交流の一里塚になったことは確かです。



北ドイツ風のおもてなしをしていただいたブレーメン大学の皆さんに感謝。