願はくは花の下にて春死なむ
そのきさらぎの望月の頃
(西行)
微生物生態学の野外調査の後は、実験室に戻ってからがハードな仕事が始まります。採取した試料が変質しないうちに、速やかに処理をしなければならないからです。私も大学院生の頃は、調査後実験室で何度も徹夜で実験していましたね。しかし、野外調査は体力を消耗するので、深夜の実験はヘトヘトになることがあります。ある日のこと、無菌室で高圧滅菌後の培養液を早く冷まそうとして、培養液を含んだフラスコを水道水で流しながら放置。冷えるまで、研究室で待つことにしました。ところが、睡魔が襲いかかり、寝込んでしまったのです。
「おい、起きろ!無菌室の床が水浸しだぞ!」と、守衛さんの怒声。
事の重大さにオロオロしていると、「ちりとりで水をすくって、流しに捨てろ!」と守衛さん。二人で必死に漏れた水をすくいとって、事なきを得ました。もし、そのまま放置していたら、下の階の研究室に水が漏れ、それこそ大問題に発展。この件ばかりでなく、いろいろと守衛さんには助けられました。大学院生にとっては、守衛さんは頼もしい存在でした。
2004年8月低温研に赴任した頃、低温研の事や札幌暮らしのイロハを守衛のHさんからいろいろ教えていただきました。その後、10月に東京から2人の大学院生が札幌に引っ越してきましたが、彼らもHさんには大変お世話になりました。いろいろと気にかけてくれて、とてもありがたかったですね。
このところHさんを見かけないと思っていた矢先、Hさんの訃報を別の守衛さんからお聞きしました。肝臓がんがだったそうです。享年72歳。あんなに元気で、明るい笑顔を見せてくれたHさん。
とても悲しい知らせでした。ご冥福をお祈りいたします。
願はくは 花の園の 穏やかな頃
さんさんと 千の風になって
夫々の想いを 届けてほしい