福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

若き微生物生態学徒へ

2008-02-28 07:12:27 | 学問

札幌から東京へ船出する動物生態学者Aさんの惜別お茶会で、チャールズ・エルトンの『動物の生態学』が話題となりました。この本は古典なのですが、黎明期の生態学を知る上で興味深い。エルトンは、生物にとっての環境をどう捉えるのか、と言う問いかけに対して、「種が自然の食物連鎖の中で占める位置をもって餌と天敵に対する関係」(栄養的ニッチ)と答えています。これは、微生物生態学を解明していく上でも、考慮すべき点です。

動物生態学での原理と微生物生態学での原理。共通性と異質性を洗いだしていくのも、今後の微生物生態学の課題。動物や植物の世界で見られない微生物世界の特徴を発見していくことも学問の進展には欠かせません。

と言うことで、一般生態学の入門書も読んでみましょう。

日本生態学会編. 生態学入門. 東京化学同人. 2004
ISBN4-8079-0598-8

Photo
(←オックスフォード大動物学教室にて)


船出

2008-02-27 22:11:03 | 低温研のことごと

08022601_2昨夜から激しく降り続けた雪も、今朝は小休止でしょうか。陽が差し込めています。


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08022602そんな日の午後、A夫妻が東京転勤の挨拶にみえました。前の勤務先で助教授をしていた間、A夫妻は学部生・大学院生でした。Aさんの専門は動物生態学で、学部卒業研究の頃から学術雑誌にオリジナルの研究成果を発表してきた優秀な研究者。その世界では第一人者なのですが、一度も海外へ行ったことのないというから驚きです。

2005年4月、北大農学部の助手に採用されたAさん。3年も経ずに東京の大学へ転出です。もっと長くいて、北大農学部の研究レベルを高めて欲しかったのですが、とても残念です。

彼らの船出を祝い、低温研のリフレッシュラウンジで惜別のお茶会です。憩いのお店のシフォンケーキやバターサンドなどでおもてなし。

シフォンケーキを頬張りながら思う、「研究者たるもの、常に自らに試練を与え続けるべし」と。Aさんを見習おう!

そして、マルセイバターサンドを噛み締め、ふと、日吉ミミの唄が脳裏をかすめる。
 ♪恋人に ふられたの 
  よくある話じゃないか~
  世の中かわって いるんだよ
  人の心も かわるのさ♪

口に残ったバタクリームをほろ苦いコーヒーの味で置き換え終えると、研究棟西側の改修工事のけたたましい音が聴こえてきました、トントントン、トントントン。

行かなくっちゃ!
新しく出来上がる実験室のレイアウトの打ち合わせに、行かなくっちゃ!


剥がされたベール

2008-02-26 08:42:00 | 低温研のことごと

低温研改修工事も大詰め。3月14日完成を目指して、作業が続いています。

0802250108022502今週、外壁を覆うベールが剥がされました。また、研究棟の西側と東側を遮断する壁が一部解放され、改修工事中の西側の様子を垣間見ることができます。

完成まで3週間弱、無事故であって欲しいものです。


流氷への旅(7)

2008-02-22 08:58:49 | 流氷への旅シリーズ

01_2札幌から都市間バスに乗って5時間半。
そして辿り着いた場所が、オホーツクの町・紋別

ここは、渡辺淳一の『流氷への旅』の舞台です。肌を突き刺す、凍てつく寒さの中での巡り旅には、エネルギーの補給が欠かせません。

0201と言うことで、紋別名物『オホーツク紋別ホワイトカレー』をいただくことに。オホーツクの海の幸にクリームベースのカレー。菱形の赤ピーマンは、ガリンコ号をイメージ。流氷を砕氷しながら突き進むガリンコ号の様子が表現されています。

例年になく流氷の多い今年、ようやく念願かなって流氷への旅に出かけることができました。詳細については、後ほどご紹介いたしましょう。


論文を書くと言うこと

2008-02-20 08:40:50 | 大学院時代をどう過ごすか

研究環境と言う観点からすると、北海道大学低温科学研究所は日本の中でもかなり恵まれている(と思う)。

そうであるからこそ、考えてみたいことがある。研究環境が整っていない場所や時代で研究活動をいかに行うか?

発生生物学者の白上謙一氏は、戦前、戦中そして戦後と四半世紀にわたり地方の教員養成系の学部で発生細胞学の研究と生物学の教育に携わり、後に京大動物学教室教授となった方である。その四半世紀の間で培われた研究法(白上謙一著『生物学と方法』河出書房新社、1971)は、今でも新鮮であるし、低温研で研究している私にも刺激的。その書の中で、彼は、「なにを探求すべきか」という自分自身の目的を持つことの重要性を教示している。

さらに、巻末の付録『研究法雑則』は、私の学部生だった頃からの座右の銘としている。少しだけその内容を紹介しよう。

一○五、研究を全部おわってから論文や報告書を書きはじめるよりも、初心者の場合は研究をはじめた日からでも論文を書きはじめることをすすめる。論文を早く書き上げることが目的ではなく、これによって研究の計画が定まり、データの不充分さや不備が早くから検出される可能性がある。

さらに、こんなことも。

一○六、学会に出席せよ。そこで諸君は新しい知見を学び、尊敬すべき多くの先輩、てごわいライバルたちをみつけるだろう。

どんな状況に陥っても、研究をやり遂げる力を身につけて欲しい。


雪国の賑わい

2008-02-06 07:56:41 | 四季折々

環境科学院生物圏科学専攻の修士論文発表会は、下記の通りです。

 日時:2008年2月12日(火)9:00~18:00
        2月13日(水)9:00~18:00
 場所:百年記念会館 大会議室

と言うことで、修士修了予定の大学院生の皆さんは、発表会に向けて大詰めです。

0802050108020602そんな中、大通公園では、さっぽろ雪祭りが開催中。観光客で大賑わいです。

私も帰宅途中にちょっとだけ覗いてみました。

08020503『北極探検隊』の雪像は、とても立派な作りです。「北極を探検中に、地球温暖化の影響によって融雪した場所でマンモスを発見!」と言うストーリーだそうです。それを見ていたアザラシも困惑した様子です。

とは言え、肌を突き刺す寒さの中で雪像を見物していると、体が冷えて08020504きます。こんなものを発見いたしました。最北の温泉である『豊富温泉』の足湯コーナーです。この温泉は、原油を含むことで知られています。私たちの研究室の調査でも訪れたことがあります。温泉水は、原油の香りがしますし、湯の表面には油膜が浮いています。ほら、ほら、もやしもんみたいに、あなたにも足湯の中で原油分解バクテリアの泳いでいる姿が見えますか? 


今日から札幌雪祭り

2008-02-05 07:10:53 | 四季折々

今朝の札幌の気温は、マイナス11℃。
しかし、確実に日が長くなっています。

今日から、雪祭り
昨年は南極をテーマにした雪像がありましたが、今年は「北極探検隊」だそうです。

北極か。

犬ぞりで北極圏横断を志す山崎哲秀さんから絵はがきが届きました。夢とロマンにあふれる探検であり、また、北極圏環境調査を兼ねています。現場調査ですので、貴重な科学的データが集積されることが期待されます。


願はくは

2008-02-04 20:48:00 | 大学院時代をどう過ごすか

願はくは花の下にて春死なむ
        そのきさらぎの望月の頃
                   (西行)

微生物生態学の野外調査の後は、実験室に戻ってからがハードな仕事が始まります。採取した試料が変質しないうちに、速やかに処理をしなければならないからです。私も大学院生の頃は、調査後実験室で何度も徹夜で実験していましたね。しかし、野外調査は体力を消耗するので、深夜の実験はヘトヘトになることがあります。ある日のこと、無菌室で高圧滅菌後の培養液を早く冷まそうとして、培養液を含んだフラスコを水道水で流しながら放置。冷えるまで、研究室で待つことにしました。ところが、睡魔が襲いかかり、寝込んでしまったのです。

「おい、起きろ!無菌室の床が水浸しだぞ!」と、守衛さんの怒声。

事の重大さにオロオロしていると、「ちりとりで水をすくって、流しに捨てろ!」と守衛さん。二人で必死に漏れた水をすくいとって、事なきを得ました。もし、そのまま放置していたら、下の階の研究室に水が漏れ、それこそ大問題に発展。この件ばかりでなく、いろいろと守衛さんには助けられました。大学院生にとっては、守衛さんは頼もしい存在でした。

2004年8月低温研に赴任した頃、低温研の事や札幌暮らしのイロハを守衛のHさんからいろいろ教えていただきました。その後、10月に東京から2人の大学院生が札幌に引っ越してきましたが、彼らもHさんには大変お世話になりました。いろいろと気にかけてくれて、とてもありがたかったですね。

このところHさんを見かけないと思っていた矢先、Hさんの訃報を別の守衛さんからお聞きしました。肝臓がんがだったそうです。享年72歳。あんなに元気で、明るい笑顔を見せてくれたHさん。

とても悲しい知らせでした。ご冥福をお祈りいたします。

願はくは 花の園の 穏やかな頃
    さんさんと 千の風になって 
         夫々の想いを 届けてほしい


蒔いた種を育む

2008-02-03 18:44:16 | 教育

「随分と大きくなったねえ」

これは、14ヶ月ぶりに小学生Y君に再会した時に思わず発した私の言葉です。

1月28日夕方、ラジオ番組「かがく探検隊コーズテップ」(北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットのプログラム)でインタビューアーを務めてくれたY君が低温研を訪ねてくれました。新棟3階交流ラウンジに現れたY君(小6)、身長が伸び、声も幾分低くなっていましたね。

番組では、南極の氷の中に含まれている微生物や雪の中で活躍する微生物(雪氷藻類)に関して、楽しいキャッチボールをしましたね。

そのことがY君に定着しているのか、確かめることにいたしました。微生物を前にして、Y君との掛け合いを始めると、科学的に考える力がより身に付いていることが容易に伺えました。よりパワーアップした、鋭く、本質的なY君の質問力にドキドキいたしました。

私たちが蒔いた科学の種が小学生に着実に育まれている。そんなことに喜びを覚えたひとときとなりました。

別れ際、低温研玄関で彼と固く握手。Y君、未来の科学を支えてくださいね。

この模様の一部は、昨日(2/2)のNHKラジオ第一「ラジオあさいちばん」の「サイエンス&カルチャー」のコーナーで紹介されました。佐治真規子キャスターが「ネットで発信!大学発科学子供番組」と題して巧みな構成で伝えていたと思います。その構成力は、私たちも見習うべき点が多々ありました。