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福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

プレスリリース:北海道最高峰の旭岳に染まる彩雪の謎を探る〜

2017-09-01 11:33:38 | 研究
本日、研究成果のプレスリリースを行いました。
詳細はここからご確認いただけます。

9月4日、全学停電のため、9月1日16時より9月4日12時まで北海道大学のホームページが停止いたしますので、上記からプレスリリース原稿をダウンロードできなくなります。ご容赦ください。

Mia Terashima, Kazuhiro Umezawa, Shoichi Mori, Hisaya Kojima and Manabu Fukui. Microbial community structure analysis of colored snow from alpine snowfield in northern Japan reveals the prevalence of Betaproteobacteria with snow algae. Frontiers in Microbiology. doi:10.3389/fmicb.2017.01481










南極大陸ラングホブデ:極域生態系における微生物進化適応

2017-06-29 13:41:01 | 研究
今朝、久しぶりにJAMSTECの高野博士にお会いいたしました。低温科学研究所で開催されている研究集会に参加されているとのこと。本当に懐かしい限りです。

つい先日、南極大陸ラングホブデから単離した微生物のゲノムに関する論文が受理されたばかりでしたので、彼との再会は一層嬉しく感じられました。

2006年1月末、昭和基地からおよそ37km離れた露岩地帯ラングホブデで研究観測を行いました。メンバーは総勢3名で、高野さんと環境省の桝厚生さん。約2週間、彼らと楽しく、かつ充実した日々。



ラングホブデは、南極特別保護地区に指定され、立ち入りが制限されています。許可を得て研究観測を進めていたところ、思わぬ発見が多々ありました。



その一つが、赤雪現象です。帰国後、高野さんの窒素安定同位体比の解析結果は驚くものでありました。微生物群衆構造解析、赤雪藻類の色素分析等の結果を含めて、発表した論文は下記の通り。

*. Masanaori Fujii, Yoshinori Takano, Hisaya Kojima, Tamotsu Hoshino, Ryoichi Tanaka and Manabu Fukui. Microbial community structure, pigment composition, and nitrogen source of red snow in Antarctica. Microbial Ecology 59: 466-4775.2010.

今回、ラングホブデの観測小屋近くで採取した海洋沿岸堆積物から発見した新規微生物ですが、まだ未記載です。ゲノム解析が進み、先に発表することになりました。きっと、この菌のゲノム情報は、南極海洋生態系において微生物の進化・環境適応を解明する上で重要になると思われます。



*. Miho Watanabe , Hisaya Kojima and Manabu Fukui. Complete genome sequence of Marinifilacea bacterium strain SPP2, isolated from Antarctic marine sediment. Marine Genomics: in press

厚岸湖より新規の硫黄酸化細菌を発見:Sulfuriflexus mobilis

2016-06-17 21:52:57 | 研究
大学4年生の夏休みのこと。北海道の厚岸町にある北海道大学臨海実験所を訪れ、調査船に乗船し、堆積物試料を採取したことがあります。あれから34年の年月が経ちました。

ここ5年くらい、毎年のように厚岸に足を運び、厚岸湖で調査を行っています。札幌から特急スーパーおおぞらで4時間半かけて釧路へ。根室本線に乗り換えて、1時間弱で厚岸。厚岸牡蠣祭りが催されるほどに牡蠣が名産。

昨年、小島久弥さんとともに厚岸湖調査。彼にとっては初めての厚岸です。試料を採取し、その後硫黄酸化細菌を集積培養し、とうとう新属新種の硫黄酸化細菌を発見! さすが小島さん、凄腕です。



* Hisaya Kojima and Manabu Fukui. Sulfuriflexus mobilis gen. nov., sp. nov., a sulfur-oxidizing bacterium isolated from a brackish lake sediment. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology: in press. doi: 10.1099/ijsem.0.001227

高山・亜高山帯生態系の理解へ

2016-05-10 16:00:55 | 研究
高山・亜高山帯生態系は気候変動に対して脆弱であると考えられおり、生態系保存の観点から重要な研究課題です。しかし、その脆弱性の評価は困難であるため、研究が進んでいませんでした。そこで、平成17年度から19年度まで環境省地球環境総合推進費『大雪山系・阿寒山系における高山生態系・亜高山針葉樹林生態系の研究』(研究代表:占部城太郎 東北大教授)で様々なアプローチで研究を行うことになりました。私たちのグループは、湖沼の微生物群集動態解析を担当。

その後、工藤岳さん(北海道大学地球環境科学研究院)が後継研究プロジェクトを実施。貴重な成果が得られましたので、一冊の本にまとめることとなり、この度発刊されました

Structure and Function of Mountain Ecosystems in Japan. Edited by Gaku Kudo. Springer. 2016.




私たちの担当チャプターは下記の通り。

Masanori Fujii, Toshihide Hirao, Hisaya Kojima and Manabu Fukui. Planktonic bacterial communities in mountain lake ecosystems. In: Structure and function of mountain ecosystems in Japan.145-169. Springer. 2016.


下記裏表紙に掲載されている右の写真は、秋田県の駒池(標高1,340 m)で2006年7月に撮影したものです。まだまだ体力があった頃ですが。





さて、いよいよ山岳地帯での調査が来週から始まります!

チェコ水界生物学研究所

2016-02-14 23:11:05 | 研究
ご縁あって、チェコ共和国チェスケー ブジェヨヴィツェ市にある水界生物学研究所に滞在。ホストのKarel Simek博士は、淡水微生物食物網に関して独創的な研究を行っています。



チェスケー ブジェヨヴィツェ。私にとってはあまり馴染みの無い街ですが、チェコのボヘミア地方の南部に位置し、人口9.5万人の都市で、13世紀からビール醸造の長い歴史を持つとのこと。

ここに滞在中はみっちりと予定が組まれており、街を散策する時間がありませんでした。夜、ホテルに戻る途中、バロック様式の市庁舎の前でパチリ。



水界生物学研究所でセミナー講演をさせて頂きました。質問もたくさんして頂き、とても参考になりました。Jan Kubecka所長ともゆっくりとお話しさせて頂き、また、55年余の歴史を有する水界生物学研究所の変遷についても教えて頂きました。



滞在最終日、マルシェ川河畔のレストランに連れて行って頂きました。クロアチア人3名、インド人1名、オーストリア人1名、ロシア人1名、チェコ人1名、日本人1名と言う、滅多に無い国際的なメンバーでした。





今回の滞在で歓待して頂いたKarel Simek博士はじめ、水界微生物生態学部門の皆さんに感謝。

高次分類群を提唱した細菌の完全長ゲノムを決定

2016-01-09 16:50:44 | 研究
釧路の市街地にある春採湖(はるとりこ)この部分循環湖からは高濃度の硫化水素が検出されているのですが、新規の微生物も発見されています。なかでも大学院生•渡邊美穂さんが発見した Limnochorda pilosa は、昨年『新たな綱Limnochordia』 として提唱しています。

この菌はグラム陰性菌で、胞子を形成することが特徴的です。この度Limnochorda pilosa の完全長ゲノムと細胞構造に関する論文が受理されました。美穂さんの粘り強い努力の成果です。

Miho Watanabe, Hisaya Kojima and Manabu Fukui. Complete genome sequence and cell structure of Limnochorda pilosa, a Gram negative spore former whithin the phylum Firmicutes. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology : in press. Doi:10.1099/ijsem.0.000881.



臺灣で微生物生態學

2015-12-25 15:24:00 | 研究
冬の台北。最高気温が26℃をこえることも。しかし、朝晩は冷え込むが、室内には暖房が無い。

3年間に及んだ台湾の中央研究院との共同研究は終了です。夏復國博士には大変お世話になりました。

国際共同研究を実施する上で重要なことは何か? 人生の先輩でもある夏博士からは色々と教えて頂きました。多謝!


泥の居住者Sulfuricaulis limicola: 春採湖(はるとりこ)から新属の硫黄酸化細菌を発見

2015-10-27 00:48:33 | 研究
♫ ごろー⤴ ごろー⤴ ごろー⤴ は•る•と•り•こ ♫


中年独身男性•井之頭五郎があちこちの街でディープなグルメ三昧をする『孤独のグルメ』。松重豊演じる井之頭五郎は、いわゆる「結婚しない都市生活者」(an unmarried city dweller)の典型なのかもしれないが、孤独の中にも人生哲学がある。

その番組エンディングテーマ曲(『五郎の12PM』)は、なぜか記憶の中にいつまでも残ってしまう。たとえば、北大病院で治療を受けた後、ちょっとくたびれながら北12条の和食屋へ。店のカウンターで席に着けば、条件反射のように「あのメロディー」が蘇る。

冗談はさておき、小島久弥さんが春採湖(北海道釧路市)から、またまた新属の硫黄酸化細菌を発見し、単離に成功。その名は、Sulfuricaulis limicolaで、無機硫黄化合物の酸化によってエネルギーを獲得して増殖することのできるバクテリアだ。種名limicolaは「泥の居住者」(mud-dweller)、属名Sulfuricaulisは「硫黄を酸化する柄」(sulfur-oxidizing stalk)の意。正式な学名を付けるまでは、「春採五郎(はるとりごろう)」と呼ばれていた(もちろん小島さんによる命名)。

「泥の居住者」。我が身を数ミクロンにサイズダウンして、春採湖の泥の中に住み着いて探検してみれば、未知の微生物や微生物間相互作用をさらに発見できるのかもしれない。

Hisaya Kojima, Tomohiro Watanabe and Manabu Fukui. Sulfuricaulis limicola gen. nov., sp. nov., a novel sulfur oxidizer from a lake. International Journal of Systematics and Evolutionary Microbiology. In press.





新規化学無機独立栄養細菌の発見と新しい「目」の提案:Sulfurifustis variabilis

2015-07-28 17:52:14 | 研究
またまた、小島さんが新属の硫黄酸化細菌を発見いたしました。その名は、Sulfurifustis variabilis。無機の硫黄化合物の酸化で化学無機独立栄養により増殖するガンマプロテオバクテリア綱の新しい属のバクテリアです。

このバクテリアは山梨県のみずがき湖から分離され、培養温度により細胞形態が著しく変化する特徴を有しています。

系統学的な解析結果から、既存のAcidiferrobacter thiooxyydansと合わせて、新しい「目」Acidiferrobacteralesを提案することといたしました。

Hisaya Kojima, Arisa Shinohara and Manabu Fukui. Sulfurifustis variabilis gen. nov., sp. nov., a novel sulfur oxidizer isolated from a lake, and proposal of Acidiferrobacteraceae fam. nov. and Acidiferrobacterales ord. nov. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology. in press. Doi:10.1099/ijs.0.000270



プレスリリース:夏の湖底メタン生成増大の要因

2015-06-25 15:41:13 | 研究
地球環境の温暖化は貧酸素水塊(別の言い方では『デッドゾーン』)を増大させることが指摘されています。

台湾の翡翠水庫の嫌気水層で脱窒メタン酸化細菌(NC10)が優占することを発見し、昨年7月末に北海道大学からプレスリリースをいたしました

今般、京都大学東南アジア研究所の伊藤雅之さんが上記の発展研究として卓越した知見を得ました。そこで、京大と北大は共同でプレスリリースすることにいたしました。

詳細は、ここから

真夏の翡翠水庫。



炎天下、翡翠水庫湖上で採水する伊藤さん。





湖にて動きまわる:新属硫酸還元細菌の発見

2015-03-23 11:09:50 | 研究
ときどき木立をすかして見える海の面も、ぎらぎらとまぶしく僕の眼を射た。ぼくはすがすがしい空気を胸いっぱいに吸いながら、ゆっくりと歩をはこんだ。散歩時間にはまだ間のあることとて、ときたま、知らぬ人に行き会うだけだった。
 (シュトルム『散歩』より)


春採湖は北海道釧路市の市街地にある部分循環湖。隣接して海底炭坑もある。そんな湖から新属の硫酸還元菌Desulfoplanes formicivoransを発見。大学院生・渡邊美穂さんによる素晴らしい成果である。蟻酸を食べて動きまわる硫酸還元細菌だべさ。

Miho Watanabe, Hisaya Kojima, Manabu Fukui. Desulfoplanes formicivorans gen. nov., sp. nov., a novel sulfate-reducing bacterium isolated from a brackish meromictic lake, and emended description of the family Desulfomicrobiaceae. International Journal of Systematic and Evolutionaly Microbiology. in press.





新しい目、再び:Sulfuricellales目

2015-02-18 13:20:29 | 研究
自然界には未知の微生物で溢れている。その探索の旅に出かけ、新たな目で俯瞰し、不断の努力をすれば、新規の微生物をハンティングできる。

オコタンペ湖に生息する巨大硫黄酸化細菌チオプローカ試料から新属の硫黄酸化細菌を発見。以前発見した新規微生物を含めて新たな目Sulfuricellalesを提唱。それを成し遂げた友浩さんの努力は素晴らしい!

Tomohiro Watanabe, Hisaya Kojima and Manabu Fukui. Sulfuriferula multivorans gen. nov., sp. nov., isolated from a freshwater lake, reclassification of 'Thiobacillus plumbophilus' as Sulfuriferula plumbophilus sp. nov., and description of Sulfuricellaceae fam. nov. and Sulfuricellales ord. nov. International Journal of Sysytematic and Evolutionary Microbiology. In press.

成果の内容詳細は後ほど。



真冬の春採湖

2015-02-11 22:14:06 | 研究
北海道釧路市の市街地に所在する春採湖。海水の入り込む部分循環湖であるが、戦前湖沼学者吉村信吉博士の調査によれば、湖水中の硫化水素濃度が世界最大と記録されている。その後80年経た今日でも、高濃度硫化水素が検出されている(Kubo, Kojima and Fukui, 2014)。そのメカニズムを解明すべく、研究を続けている。研究を進めれば進めるほど、謎が深まっている。

冬期間、湖表面は完全凍結。真冬の氷厚は60cm以上。この日の最低気温はマイナス17℃。例年に比べ、雪が多いかもしれない。



ここ春採湖にはヒブナが生息していおり、国の天然記念物に指定されている。そのため、春採湖での調査には、文化庁の許可が必要であり、湖内への立ち入りが制限されている。



それにしても完全凍結した春採湖で、ヒブナはいかにして生活しているのであろうか。そんな疑問を抱きつつも、視線を湖岸に移すと海底炭坑へ向かうシャトルトレインがサイレンを鳴らして走り抜ける。





海底炭坑に隣接する春採湖。科学上のお宝もきっと!



Kyoko Kubo, Hisaya Kojima, and Manabu Fukui. Vertical distribution of major sulfate-reducing bacteria in a eutrophic shallow meromictic lake. Systematic and Applied Microbiology 37:510-519.2014.