ストロマトライトと言えば、オーストラリア西海岸シャークベイのハメリンプールが有名で、しばしば生物進化を扱う教養テレビ番組でも紹介されています。例えば、ストロマトライト中のシアノバクテリア(酸素発生型光合成微生物)が光合成により酸素を発生し、海水中に泡を放出している映像が印象的です。
光合成の結果、シアノバクテリアからの分泌物等で構造物が形成され、一定の形態的特徴を備えた炭酸塩岩石に発達します。こうしたストロマトライトは先カンブリア紀に多く見いだされ、大気中の酸素の発生源の一つだと考えられています。
これらのことから、ストロマトライトを構成している微生物はシアノバクテリアが中心であるかの印象を与えてきました。ところが、生きたストロマトライトの微生物群集を調べてみると、シアノバクテリアの他に多様な微生物種で構成されていることが米国のNorman Paceらのグループによって明らかにされました。
Papineau, Walker, Mojzsis and Pace.
Composition and structure of microbial communities from stromatolites of Hamelin pool in Shark Bay, Western Australia.
Appl.Environm.Micrcobiol.,71:4822-4832 (2005)
生きたストロマトライトのDNA解析の結果、シアノバクテリアの割合は僅か3%で、最も優占している微生物は新規のプロテオバクテリア(~28%)でした。意外だったのが、アーキアが10%程度も含まれていること。
と言うことは、ストロマトライトに含まれているシアノバクテリア以外の微生物を詳細に解析することにより、過去の環境や微生物間相互作用をダイナミックに復元できるかもしれません。
写真1:2005 年12月2日、パースから150km離れた北部で偶然にもストロマトライトを観察する機会に恵まれました。
写真2:海水から干出したストロマトライト。手前のストロマトライトは割れているので、内部構造を観察することができます。
写真3:海水中のストロマトライト。全体が黒みがかった緑色はシアノバクテリアが生息している証拠。岸辺がピンク色を呈しているのは紅色硫黄光合成細菌がブルームしているためであろうか?
写真4:ストロマトライトに出会う機会を与えてくださった片岡さん(在パース)に感謝いたします。
最後に、Paceの論文を紹介してくれた大学院生にも感謝!
2005年12月19日から24日まで南極宗谷海岸ルンドボークスヘッタへ調査に出かけました。昭和基地や停泊中のしらせから南西方向に約100km離れた場所です。こうした場所と昭和基地との連絡は短波(HF)帯(4MHz帯)の無線機で行います(出力10W)。
4MHzと言うことは電磁波の波長が75m。使用するアンテナは簡易型タブレットアンテナで、ポールを立て、その先端から両端へとアンテナを張り、地面に固定します。給電点から同軸ケーブルでJRCの無線機(2波のみの年代物)に接続します。
HF帯ですので、そのときの電離層の状態等で了解度や感度が変化します。SSB波ですので、ピーヒャーという雑音も多く、聴き取れないこともしばしば。毎日20時の定時交信では、観測隊員が無線機の周りに集まり、昭和基地からの情報を鳩首して聴いています。翌日の気象予報やフライトプランなど重要な情報をキャッチしなければならないからです。
メタンは温室効果ガスの一つで、二酸化炭素に比べて温室効果が高いことでしられています。自然生態系では淡水の堆積物や湿地などの嫌気的な環境でメタン生成細菌によって作られるガスです。一方でメタンを餌として利用する微生物もいます。その代表が好気的メタン酸化細菌です。つまり、メタンの酸化の際に酸素を用いることによって、エネルギーを獲得しています。これまで嫌気的な条件下でメタンを酸化する細菌の分離培養に成功していません。2000年にマックスプランク海洋微生物学研究所のグループは硫酸還元を伴うメタン生成の微生物協同体(コンソーシア)を海洋底のメタンハードレートで発見いたしました。今回、脱窒を伴うメタン酸化がオランダのStrousのグループによって発表されました。
Raghoebarsing, A. et al.
A microbial consortium couples anaerobic methane oxidation to denitrification. Nature 440,918-921(2006).
反応を担うのはやはりコンソーシアで2種類の微生物で構成されています。一つはメタン生成細菌で、メタン生成反応を逆に回すことによりメタンを酸化。この時水素が生成されるため、熱力学的に反応が進みません。しかし、この水素を脱窒細菌が取り除く(硝酸を窒素ガスに変換するときのエネルギー源として利用する)ことにより、全体として脱窒メタン酸化反応が進行します。この細菌は新規のバクテリアで、系統的に最も近いのは琵琶湖北湖(早崎沖水深90m地点)の脱窒層堆積物に生息する菌だそうです。この発見の意義は、人為的な富栄養化(農業起源の窒素負荷)に対して脱窒メタン酸化微生物コンソーシアが淡水環境から窒素を系外へ除去し、さらにメタンの大気中への放出を抑制している点です。
写真1:滋賀県琵琶湖の北湖(早崎沖90m地点)で採取された堆積物コア。赤茶けた酸化鉄の層の下に脱窒層(硝酸塩を窒素ガスに変換する微生物反応)が発達しています。さらに、脱窒層の下部にメタン生成層(酢酸塩あるいは二酸化炭素と水素からメタンを生成する微生物反応)が発達。
写真2:琵琶湖での調査風景(2001年1月29日、滋賀県立琵琶湖研究所はっけん号にて)、と言うより調査の合間の休み時間。
Yoshikazu Koizumi, Hisaya Kojima and Manabu Fukui. Characterization of depth-related microbial community structure in lake sediment by denaturing gradient gel electrophoresis of amplified 16S rDNA and reversely transcribed 16S rRNA fragments. FEMS Microbiology Ecology 46:147-157.2003.
演題: 「細菌、土、鉱物の関係を見直す」
演者: 服部 勉 (東北大学名誉教授)
日時: 6月26日(月) 午後3時から
場所: 北海道大学 低温科学研究所、講堂(3階)
要旨:
鉱物化した細菌が、土に多数存在していると考えられる。これを裏づける事実を紹介し、つぎの三つの疑問とのかかわりを検討する。
1.どの土にも、多様な細菌がすんでいる。好アルカリ性細菌のように普通のでは好適と思われない細菌も多数存在する。どのようにして多様な細菌が土にやってきたのか、またその生存が支えられているのか。
2.土の主要構成成分は、粘土、シルト、砂である。細菌との関係が注目されるのは粘土だけで、シルト、砂は溶解による無機栄養の供給以外、ほとんど関心がもたれていない。果して、シルトや砂は細菌とその程度の関係しかないのであろうか。
3.細菌は単なる土の居住者なのか、それとも土のミクロな構造形成に密接にかかわる存在なのか。
連絡先:低温科学研究所 福井
E-mail: my-fukui@pop.lowtem.hokudai.ac.jp