福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

流氷への旅(6)

2007-05-16 06:53:17 | 流氷への旅シリーズ

 それだけに、美砂には大学で見るもの、聞くもの、全てが新鮮に映る。こんな生き生きとした世界があったとは知らなかった。
 その意味で、美砂は札幌まで来てつとめたことを悔いていない。
 (中略)
「北へ来たのは間違っていなかったわ」
 (中略)

 札幌には梅雨がない。その梅雨のない六月の街のあちこちに、ライラックの花が咲いている。ライラックは英名で、フランス語ではリラという。日本語名はムラサキハシドイと名付けられている。せっかく日本名があるのに、リラという言葉の方が似合うのは、この花が外国から移し植えられたせいなのかもしれない。
 美砂のアパートから北大の低温科学研究所へ通う道にも、至る所にリラの花があふれている。美砂はこのリラの花の香りが気に入っている。パステルカラーの淡い紫色の花とともに、その香りも、どこか秘めやかで慎み深い。
 美砂はその花の並木の横を通って研究所に入る。

           (渡辺淳一「流氷への旅」より)

070516もうすぐ、リラの季節を迎えます。その慎み深い香りが、低温研で行われている研究に活力を与えてくれるかもしれません。待ち遠しいですね。