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福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

はるかな尾瀬

2025-04-28 14:38:37 | 研究室紹介
残雪期の尾瀬再訪。例年になく残雪が多い。ミズバショウも顔を覗かせていない。

雪が解け出した池塘の水面に映る燧ヶ岳。



他人から見れば「無駄な野外調査」かもしれないが、現場に足を運べば新たな発見が生まれる。予想外の研究展開も! 地味かもしれないが、野外調査を長年続けていくたからこそ、得られることも少なくない。「無駄な野外調査」など無い。自然現象を粘り強く向き合い、そのカラクリを解明しよう若手研究者を応援したい。

ベルリンにて:Winterreise

2025-03-23 09:28:48 | 研究室紹介
真冬のベルリン。積雪はないものの、肌を突き刺す寒さ。時折吹く風が体の芯から凍えさせる。ドイツ語の「icekalt」(アイスカルト)という表現そのもの。

Charité(シャリテ)。ベルリン中央駅から徒歩10分程度で辿り着くベルリン医科大学の病院、教育研究機関。Charitéを題材にしたテレビドラマもあり、そのシーズン1では1888年ごろに活躍したロベルト・コッホ、エミール・フィッシャー、そして北里柴三郎といった近代細菌学の巨頭達も登場する。



ロベルト・コッホ広場には彼の像。結核に関する研究業績でノーベル生理学・医学賞を受賞(1905年)。コッホの弟子であるエミール・ベーリングは「ジフテリアに対する血清療法の研究」で第1回ノーベル生理学・医学賞を受賞(1901年)したが、共同研究者の北里は受賞ならず。



さて、コッホ流の固形培地を用いて微生物の単離培養。低温環境試料からどんな微生物を発見できるのであろう?



カナダからの手紙

2025-01-21 14:57:26 | 研究室紹介
大型研究プロジェクトではなく、大学院生の科学的好奇心に基づく研究をいかに進めていくか? その成功例の一つはJacksonさんの光合成細菌に関する研究で、国際共同研究にも発展しています。その一連のストーリーについては、岩波の「科学」(2024年10月号)をご覧ください:光合成進化の謎に迫る驚異の細菌の培養―革新的な共同研究を通じた予期せぬ発見―

Jacksonさんの大学院生時代の指導教員であるJosh Neufeld教授(ウオータールー大学)からお手紙とJacksonさんの論文が掲載されたNature誌(2024年3月24日号)の冊子を頂きました。



Neufeld教授から手書きのお手紙も公開したいところですが、心温まる内容でした。Jacksonさんを日加の架け橋として、国際共同研究をできたことは大きな喜びです。

切っても切っても終わらないプラナリア

2024-12-24 17:01:06 | 研究室紹介
本日(2024年12月24日)午後6時より、ニコニコ生放送で、「切っても切っても終わらないプラナリア! 聖なる夜に贈る再生研究の永久保存版〜基礎生物学研究所〜」が放送されます。

https://live.nicovideo.jp/watch/lv346452633

生放送に登場するのは、文化功労者に選ばれた阿形清和所長。あの阿形節が聴ける機会です!


阿形所長は来年3月末基礎生物学研究所長を退任するのですが、先生の精力的な活動には脱帽です。

もうすぐ放送開始。ワクワクします。

低温研ニュース最新号(No.58)

2024-12-17 13:51:38 | 研究室紹介
低温研ニュース最新号が発行されました。



求めに応じて、研究トピックスを執筆しております:「赤く染まる雪の謎を探る〜低温環境で活躍する微生物〜」。下記よりダウンロードできます

https://www2.lowtem.hokudai.ac.jp/pdf/news58.pdf

振り返れば、20年前、高野淑識博士(現・JAMSTEC)とともに参加した第47次南極地域観測隊(JARE47)。他の研究観測中に、ラングホブデで発見した「赤雪現象」について急遽研究することになり、試料を採取し、日本へ持ち帰りました。その後の研究展開を紹介したものが、上記です。これもアマゾン型研究から警視庁型研究へ発展した例です。

最新号には、8月末アラスカの永久凍土や氷河地帯での野外観測レポートも掲載されています:海外調査「ポーカーフラット永久凍土とキャスナー氷河調査」。

このところ、札幌は真冬日が続いています。ひらひらと舞う雪を眺めながら、「少年老いやすく学なりがたし」と想う。

再録:「雪国暮らしが初めての学生さんへ」

2024-11-22 13:46:28 | 研究室紹介
寒い日が続く札幌。日常生活には暖房が欠かせません。2006年11月29日にエントリした記事を再掲したします。現在は、エアコンやFF式ストーブが主流になっているかもしれませんが、災害時には役立ちます。



****** ここから *******
それは私が大学2年生の時の冬、後期試験の頃の事故です。その年は例年になく大雪でした。同じサークル(ユースホステル部)のAさんとBさんが試験なのに大学に来ていません。不思議に思い、Aさんのアパートへ様子をうかがいに行ってみると、Aさんはベッドの上で、Bさんはベッドの脇の炬燵でぐったりと横たわっていました。部屋の中のガスストーブはつけっ放し。救急車で2人は搬送されたものの、Aさんは一酸化炭素中毒で死亡、Bさんは意識不明の重体。その後の回復治療のおかげで、Bさんは一命を取り留めましたが、記憶障害が残りました。

ことの発端はAさんが風邪を引いたため、Bさんが見舞いに行き、そのまま寝込んでしまったことです。一晩中ガスストーブが燃え続け、部屋の換気が行われなかったので二人とも一酸化炭素中毒になってしまったのです。

試験期間中でしたが、私たち、サークル仲間は大きなショックを受けました。また、残されたBさんのその後の人生はずいぶんと辛かったでしょう。

雪国暮らしに慣れていたり、登山などのアウトドアの経験がある人は一酸化炭素中毒に対する構えがあるかと言うと、必ずしもそうではありません。

以前、教務委員長を務めていた学部では、冬にこんな事故がありました。Cさんはアウトドア系の部員でしたが、寒いということで、部屋の中にテントを張ることにしました。少しでも暖房代を節約しようとして、密閉したテントの中で七輪を焚いて暖をとろうとしたのです。その結果、不幸にして、Cさんは帰らぬ人となってしまいました。一酸化炭素中毒死です。

若い人たちの命が事故で失われることは残念でなりませんし、親御さんの気持ちを思うと言葉もありません。

一酸化炭素中毒死を防止する策として、最低限下記の3つを守って欲しい。

1.  換気を十分にすること(1時間に1回部屋の窓を開ける等)。
2.  仲間がいつもの時間に研究室あるいは教室に来なかったら、本人に連絡を取ること。連絡がつかなかったら、アパートまで様子を見に行くこと。
 3.    もし大学を休む場合は、誰かにその由を連絡すること。

ペレイラ教授招聘セミナー

2024-10-02 07:51:19 | 研究室紹介
ポルトガル・リスボン新大学ITQBのペレイラ教授が来所され、下記の通り招聘セミナーを開催いたします。2019年2月、ITQBと低温科学研究所とは国際連携協定を締結し、生物系を中心に共同研究を実施しています。

講演タイトル:New insights into dissimilatory sulfate reduction
演者:Ines Pereira教授
日時:2024年10月2日(水)14:00~15:00
場所:低温科学研究所 新棟3階 講堂

内容:地球上で最も古い生命体の一部を祖先とする嫌気性細菌の一部は、硫黄化合物を呼吸することでエネルギーを得ている(異化的硫酸還元、酸素の代わりに硫酸を用いることから「硫酸呼吸」とも呼ばれる)。こうした硫酸還元バクテリアは、海洋堆積物、メタンハイドレート、南境の氷床下湖やテイラー氷河末端の「血の滝」などの自然環境に広く分布し、硫黄と炭素の生物地球化学サイクルにおいて重要な役割を果たしている。また、硫酸還元バクテリアは、ヒトの腸内を含む嫌気性微生物群集の主要メンバーでもあり、その柔軟なエネルギー代謝によって他の細菌との協働的相互作用を形成するが、大量の硫化物を生成するため有害な影響を及ぼす可能性がある。Pereira教授らは、異化的硫酸還元のユニークなエネルギー代謝を研究し、有用な生体触媒としての酵素を探索しており、本セミナーでは最近の知見を含めてご紹介して頂く。

参考文献:
  1. Santos A, Venceslau SS, Grein F, Leavitt WD, Dahl C, Johnston DT and Pereira IAC* (2015) A protein trisulfide couples dissimilatory sulfate reduction to energy conservation . Science 350, 1541
  2. Marques MC, Tapia C, Gutiérrez-Sanz O, Ramos AR, Keller KL, Wall JD, De Lacey AL, Matias PM*, Pereira IAC* (2017) The direct role of selenocysteine in [NiFeSe] hydrogenase maturation and catalysis. Nature Chem. Biol., 13, 544-550
  3. Martins M, Toste C, Pereira IAC* (2021) Enhanced Light‐Driven Hydrogen Production by Self‐Photosensitized Biohybrid Systems. Angew. Chemie, 60, doi: 10.1002/anie.202016960
  4. Barbosa ACC, Venceslau SS, Pereira IAC* (2024) DsrMKJOP is the terminal reductase complex in anaerobic sulfate respiration. Proc. Nat. Acad. Sci., 121 (6) e2313650121, DOI: 10.1073/pnas.2313650121
  5. Oliveira AR, Mota C, Vilela-Alves G, Manuel RR, Pedrosa N, Fourmond V, Klymanska K, Léger C, Guigliarelli B, Romão MJ, Pereira IAC* (2023) An allosteric redox switch involved in oxygen protection in a CO2 reductase. Nature Chem. Biol. 2024 20(1):111-119. doi: 10.1038/s41589-023-01484-2.

岩波「科学」最新号:Jacksonさんの成果解説

2024-09-28 11:29:49 | 研究室紹介
予期せぬ発見はいかになされたのか? 

過日、Jackson Tsujiさんの研究成果がNatureに発表されたのですが、その解説エッセーが岩波の「科学」最新号(2024年10月号)に掲載されました。



光合成進化の謎に迫る驚異の細菌の培養
―革新的な共同研究を通じた予期せぬ発見―
ジャックソン マコト ツジ・福井 学 (科学94巻10号, 877-881)

基礎生物学の重要性、若手研究者をエンカレッジする環境作りの大切さについても言及しています。主著者はJacksonさんであり、私はほんのちょっぴりお手伝いをしただけです。

また、同最新号の巻頭エッセー「過去を未来へ」(東京都立大学牧野標本館・村上哲明教授)もおすすめしたい。

痕跡

2024-08-01 01:06:22 | 研究室紹介
立つ鳥跡を濁さず。10週間弱、海外の研究機関で研究に集中。とうとう帰国の日がやって来た。使用してきた実験台も愛着深い。不要になったものを廃棄、器具等の洗浄等のあと片付けを行う。最後に実験台をアルコールで拭いて、クリーンアップ。



引き出しの中も再確認。一番上の引き出しの奥をチェックすると、使い込んだ木製の定規を確認。私が使ったものではなく、以前から放置されていた。どうしたものか? 



文具をしまう場所に片付けようと思い、その定規を手に取る。裏返してみると、手書きで名前がアルファベットで記されている。その名前をみた瞬間、種々の記憶がよみがえる。そうか、前職研究室卒業生のAさんが使っていたものだ。彼は、20年以上前、博士学位取得後、この研究所にて博士研究員として働いていたのだ。感慨深いものがある。この研究所でAさんは数報の論文を発表しており、引用数も多い。



今回の私の滞在では、Aさんの研究成果を基にしたプロトコル(実験の手順)を用いており、期待以上に実り大きな結果が得られた。帰国目前でAさんが愛用していた定規を発見するなんて。研究者人生として残り僅かな私を勇気づけてくれる出来事であった。

実験を重ねれば重ねるほど新たな発見の連続。キリがない。後ろ髪をひかれつつも、区切りをつける。さあ札幌へ戻ろう!

と、研究所の玄関で技術職員のBさんから、「道中で食べてね」と旅のお供をいただく。彼とは30年来の友人。ありがたい。多くの方々に支援されて、私の「プチ・サバチカル」を無事終える。感謝しかない。





アガロースあたためますか

2024-07-30 15:35:47 | 研究室紹介
先日の停電時でのこと。アガロース(おおまかに言うと分子生物学研究用の寒天)を加熱して融解させた溶液を用いる実験の最中であった。おおよそ40~50℃が適温。しかし、停電により実験が中断し、アガロースが固まってしまった。

復電後、アガロースを電子レンジで再加熱融解。この後の実験が上手くいきますように!



ふと、北海道でのローカルTV深夜番組「おにぎりあたためますか」を思い出してしまった停電ハプニング。