デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

「挫折」の昭和史

2008-02-28 16:05:13 | 買った本・読んだ本
書名 「『挫折』の昭和史」 著者 山口昌男
出版社 岩波書店  出版年 1995年  定価 4200円(税込み)

いまから10年以上も前に出版されていた本なのかと、あらためて思う。その時も大変な話題になっていたことは知っていた。山口昌男ものは道化論を中心に読んだものだが、この昭和を舞台にした社会文化史ともいうべきこの本に触手は伸びなかった。それが先日図書館で、「挫折」という言葉に惹かれ、思わず手にとり目次を見たら、これこそいま自分が読まなくてはいけない本であることがわかった。いま書いている長谷川濬が青春時代をおくっていた昭和初期からが舞台、しかもこの中で並び評されることになる甘粕も石原莞爾も満洲つながり、長谷川濬が満洲に渡る目的となった大同学院についてもびっちり書いてある。ということで早速読み始めたのだが、最初にパリで甘粕とレビューの神様白井が同じ時にいたという出だしから、すっかり山口節に騙されるというか、引きつけられる。昭和モダニズムという括りのなかで、山口の得意技ともいえる周縁から知識人たちのネットワークをたぐり寄せなていく手法は、まさに名人技といっていいだろう。スポーツ、挿絵、写真、レビューと周縁から知のネットワークを系統づけながら、圧巻なのはまさに「挫折」の昭和史を体現する石原莞爾に執拗に迫っていくところである。石原を真正面からだけでなく、知のネットワークをほじくりだすようにして、読書家であった石原を浮かび出しながら、ダダ的将軍としての挫折の過程を描くのは見事であった。甘粕と石原を対極に置くことで、挫折の昭和史をダイナミックに描ききった。
自分が圧倒されたのは、補遺1の「知のダンディズム再考」で取り上げられている梅原北明である。トリックスター山口だから初めて掘り出された、そして評価されたのだろう。
「大学という枠と無関係に、何らの正統性も見返りも要求せず、厖大なエネルギーを投入した蒐集作業の結果を、軽いノリで、殆どスラップスティック喜劇調で放出することによって、支配のための学問をコケにするという」北明の姿勢を、山口は知的ダンディズムと呼ぶのである。
実にかっこいいのである。こうした知的ダンディズムとでもいうものでつながっていく昭和モダニズムの可能性を、「挫折」ということばでまとめようとするところに、トリックスター山口昌男の真骨頂があった。
満足度 ★★★★


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