英文讀解自修室

  - in the historical Japanese kana/kanji orthography

・用例研究 155 <假定法-條件節省略>

2018-12-03 | 用例研究

[用例研究 155] 〈假定法-條件節省略〉

  假定法の表現では、その含意の廣汎さと直説法と同じかたちの動詞・助動詞が使はれること等により、しばしば惱まされることがあります。筆者も假定法については勉強途上です。拙ブログでも問題文に即して假定法を解説し、また「英文法ミニ解説」で「假定法の讀み方」として連載しつつ學んできました。用例に多く接して馴れることも對策として有效だと考へ、「用例研究」でも假定法を扱つてきたところです。今後もうしばらくこの[用例研究]カテゴリーで假定法を採り上げたいと思つてゐます。

 

  今囘は假定法過去の條件節がなく、歸結節のみが出現する例を扱ひます。「もし~したら」「~しようと思へば」「たとへ~しても」「ひょつしたら」など、條件が裏にかくされたり省略されてゐるケースです。[用例研究 154]で採り上げた〈假定法由來のていねい表現〉もこのかたちからくるものであり、助動詞の過去形はこのケースで多用されます。

  以下の例で、下の偶數番號の例文は假定法過去完了の條件節がかくれて或は省略されてゐます。

□參考例文: 「もし~したら」の例です。

155.1     "Do they really come to you?"  "You'd be surprised."

        (※ you’d be = you would be)

                 「みなさん本當にいらつしゃるの」「(本當よ、來れば)驚くでせう」

155.2     There was a dead silence, during which a pin might have been heard to drop.

                 水をうつたやうばな靜けさで、その間針一本でも落ちれば聞こえさうだつた。

□參考例文: 「~しようと思へば」の例です。

155.3     You could meet her when you go to England.

                 イギリスに行かれるときに、彼女に(會はうと思へば/會ひたいなら)會へますよ。

155.4     He wasted his money on sweets when he could have bought fruit.

                 彼は(買はうと思へば)果物が買へたのに、お菓子にお金をつかつてしまつた。

□參考例文: 「たとへ~しても」の例です。

155.5     The town has changed a lot - you wouldn't recognise it now.

      (※ recognise は英國式のつづり)

                 その町は隨分變はりました。今では(訪ねても)その町だとわからないでせう。

155.6     No one was to blame. The accident could not have been prevented.

                 誰の責任でもない。事故は(防がうとしたとしても)防げなかつただらう。

□參考例文: 「ひょつとしたら」の例です。

155.7     Do you think you could help me move this weekend?

                 今週末、私の引越を手傳つてもらへませんか。

155.8     They discussed what they could have done.

                 彼らはひょつとしたらできたかもしれないことを論議した。

 

[用例研究 155] 〈假定法過去の歸結節〉

 

  (BLONDIE  By Dean Young & Stan Drake)

 

1  There is a rumor that the boss is going to announce his retirement today!

1  I heard!

2  I could retire today with no worries about my company’s future...

3  But you’re all so wonderful to work with, I’m staying on forever!

 

[解説]

1

・a rumor that ~: 「~といふ噂」。名詞にthat節を並べて、名詞の説明を補足・追加してゐます。文法書では「同格」の項に説明があります。

2

・could retire: 直説法の過去形とみると「けふ引退することができた 」と解され、退任の挨拶のやうになつてしまつて3コマめとつながりません。ここは假定法過去の歸結節であると推定されます。條件節はありませんが、例へば「(話者に引退する氣はないものの)引退しようと思へば」が考へられます。それを承けて「今日にでも引退することができるだらう」と續きます。「けふ」といふ極端な表現にしたことにより、「けふにでも」といふ讓歩めいたニュアンスが釀し出されてゐます。

3

・〈so~that〉で「とても~なので」。ここでは that が省略され、コンマが置かれてゐます。

・to work with は不定詞の副詞的用法で、直前の形容詞 wonderful を修飾してゐます。「~するといふ點でである」といつた意味になります。ここでは「共に働くのに(/共に働く上で)とてもすばらしいので」としてみました。

□參考例文: 「讀むのに易しい」→「讀み易い」

155.9     I want a book that is easy to read.

                 私は讀み易い本が欲しいんです。

・on: 副詞で「續けて」「どんどん」「ずつと」などの意味を持ちます。

・I’m staying: 現在進行形は「現在進行中の動作や出來事」や「確定的な未來・豫定」を表はします。ここは後者です。

 

[意味把握チェック]

1 「社長が今日引退を發表しようとしてゐるつて噂があるんだ」

1 「聞いたよ」

2 「わしは會社の將來についての心配なしに、けふにでも引退できるだらう…」

3 「が、君たちみんなは、一緒に仕事をするのに(/共に働く上で)とつてもすばらしいんで、わしはこの先(/ずつと)永久に(社長職に)とどまることになるだらうな」

 

[笑ひのポイント]

・おそらく「退任の噂」はDithers 社長の耳にも入つてゐたのでせう。その噂を否定すべく Dithers 社長らしく皮肉たつぷりに切りかへしたのかと思ひます。