[用例研究 145] 〈~, or…〉
文のあとに or を「さもないと」の意味で用ゐて條件節のやうなはたらきをさせ、直説法や假定法の歸結節を續けることがあります。今囘の [用例研究 145] は直説法と假定法とが併用されてゐる例になります。
□參考例文: 命令法や直説法が使はれた例です。
145.1 Hurry up, or you'll miss the last bus.
= If you don't hurry up, you'll miss the last bus.
= Unless you hurry up, you'll miss the last bus.
急がないと最終バスに乘り損なひますよ。
□參考例文: must have been sleeping は直説法で、 or の後は假定法過去完了の歸結節です。
145.2 She must have been sleeping, or surely she would have noticed it the smoke.
(※拙譯: 彼女は眠つてゐたにちがひない、さうでなければきつとそれが煙だと氣づいたことだらう。)
= If she hadn't been sleeping, she surely would have noticed it the smoke.
彼女は眠つてゐなければ、きつとその煙に氣がついたらう。
※ notice を第5文型で使ふ場合、Oに名詞、Cに原形不定詞か ―ing form を使ふのがふつうですが、この例文では名詞-名詞になつてゐました。(綿貫陽 and Mark Petersen, 表現のための実践ロイヤル英文法. [旺文社, 2006], p. 574.)
この or の用法は 145.1 のやうに命令文との組み合せで紹介されることが多いのですが、命令文だけでなく、次のやうな用例もあります。
□參考例文
145.3 You had better take a taxi, or you'll miss your train.
タクシーを利用しなさい。さうしないと電車に遲れるよ。
145.4 You must be honest, or you cannot win the confidence of others.
誠實であらねばなりません。さうでないと他人の信用は得られません。
145.5 You should refrain from eating candy before dinner, or you'll kill your appetite.
夕食前にキャンディを食べないやうにしなさい。でないと食慾がなくなつてしまひますよ。
[用例研究 145] 〈~, or…〉
(BLONDIE By Dean Young & Stan Drake)
1 I’m really worried about botching my presentation today.
1 Nonsense, honey, you’ll be fine.
2 Mr. Dithers must have confidence in you or he wouldn’t have given you the assignment.
2 Yeah, of course...you’re absolutely right!
3 Why did I give Bumstead that assignment?! Why?! Why?!
[解説]
1
・botch: ~を(へまなやり方で)だめにする / ~を台無にする
・chomp: champ の變形でおそらくは擬聲語と思はれます。不安や苛立ちで音をたてて噛むこと、またはその音を表はします。馬が(苛立つて)馬銜を噛むことに由來します。
・you’ll be fine: 不安がつてゐる人に、「大丈夫ですよ」「うまくいきますよ」といつた風に勵ますことばです。
2
・wouldn’t have given は假定法過去完了の歸結節です。「假定法の讀み方 8」(2011年6月15日付)では次の諳誦例文を紹介しました。
If you had worked harder, you would have passed your exam.
もつとよく勉強してゐたら、あなたは試驗に受かつただらうに。
この文體は、「もし~してゐたならば、…したであらうに」など、過去の事實とは異なる事態を假定し、その結果を想像するものです。單なる推測のこともあり、後悔や殘念に思ふ氣持、非難などを表はすこともあります。ここでは後半の歸結節から推して or の後を解釋すれば良いわけです。「彼はあなたにその任務を與へなかつたことでせう」と解することができます。
3
・Why did I~?: 自問してゐますが、その答を求めるといふよりは、修辭疑問文として「彼に頼むんではなかつた」といふ後悔を傳へてゐるやうに見えます。
[意味把握チェック]
1 「今日の發表(/プレゼン)を(へまして)台無にするんぢやないかと本當に心配なんだ」
1 「ばかげてるわ、あなた、大丈夫よ(/きつとうまくいくわよ)」
2 「Dithers さんはあなたを信頼してるにちがひないわ。さうでなかつたら、あなたにその仕事を頼まなかつたでせう(/その任務を與へなかつたことでせう)」
2 「ああ、確かにね…全く君の言ふ通りだ!」
3 「どうして Bumstead にあの仕事を頼んだんだらう?!なぜだ?!なぜだ?!」
[笑ひのポイント]
・「信頼」については兩者全く認識を異にしてゐるわけですが、仕事頼んだはうも頼まれたはうも指を咥へて同じ音をたててゐます。そこに可笑しみが生じるのでせう。