[用例研究 154] 〈假定法由來のていねい表現〉
假定法の文やその一部を用ゐて、ていねいな表現をすることがあります。假定法は話し手の頭の中にある思ひ・考へを述べるための動詞の使ひ方であり文體ですから、自分の思ひや考へを「自分としてはかう考へてゐるんですが」と相手に提示するかたちとなり、その結果、斷定的・直接的なニュアンスを避けることができると考へられます。例へば、相手に何かの依頼をする場合に、I would appreciate it if you would answer my question.(私の質問に答へていただけるとありがたいのですが)といふとていねいな依頼になります。
上で擧げた例のほかにも、Would you be quiet for a miniure?(少しの間靜かにしていただけませんか)と言ふと、「よろしければ」「さしつかへなければ」「もしできましたら」など話し手による條件の含みが感じられ、依頼なり勸誘なりを遠慮がち・ていねい・控へめに述べることができると考へられます。
□參考例文: ていねいに希望を傳へる例です。
154.1 I'd like to send this parcel to Japan. ( I’d は I would の短縮形です)
この小包を日本に送りたいのですが。
154.2 I'd like you to write me just as soon as possible.
あなたにはできるだけ早く私に手紙を書いてほしいんですが。
□參考例文: ていねいに依頼する例です。please をつけるとていねいさが増します。
154.3 Would you call me back later?
あとで折返し電話をくださいませんか。
154.4 Would you please keep the answer to this question a secret between you and me?
この問ひの對する返答を私たちふたりの間の祕密にしておいていただけないでせうか。
□參考例文: ていねいに相手の意嚮を訊ねたり勸誘する例です。
154.5 Would you like something to drink now?
何か飮物はいかがですか。
154.6 Would you like to come to dinner tonight?
今夜晩ごはんに來ませんか。
□參考例文: ていねいに許可を求める例です。
154.7 Would you mind if I smoked here?
ここで煙草を吸つてもよろしいでせうか。
154.8 Would you mind my (/me) smoking here?
※mind は「いやだと思ふ」「氣にする」の意味ですから、許可をする場合はNo. / Not at all. / Of course not. / Go right ahead. などの應答。許可しない場合は I'd rather you didn't. などと應答します。
154.9 Would it be all right if I sat here?
ここに座つてもよろしいでせうか。
[用例研究 154] 〈假定法由來のていねい表現〉
(BLONDIE By Dean Young & Stan Drake)
1 Would you please stay and work late tonight?
1 Not a chance.
2 Then let me put that a different way.
3 Would you please stay and work late tonight?
3 Ugh-gasp..Okay-okay.
4 It’s not what you say, it's the way that you say it.
[解説]
1
・Would you please~?: ていねいに依頼する文體です。
・Not a chance: (略式表現で)「いやです」
2
・let me put~: put は「述べる」「表現する」の意味で用ゐてゐます。〈let+O+原形不定詞〉の使役表現です。letは強制の意味はなく「(Oが~したがつてゐるのを許して)Oに~させる)といふ意味です。(※ 2014年5月28日付の拙稿に解説や例文があります)
・a different way: a の前に in が省略されてゐます。
3
・ugh: [u:x / ʌx / ʌɡ] 擬聲語で「うーっ」「うっ」(※[x]は外國音で、口の奥で出す[k]に近い音)
・gasp: [ɡæsp] 擬聲語で喘ぐやうな音聲を表はします。
4
・It’s not what you say, it's the way that you say it: , の位置に but を補ふと解し易いでせう。〈not~but…〉で「~ではなく…」つまり「ことばの内容(/何を言ふか)ではなく言ひ方(/それを言ふ方法)なんだ」の意味です。
・that: the way that のthatは關係副詞のはたらきをしてゐます。in which に置き換へることが可能です。(※私見ですが、この that には次に文が置かれるといふ符牒のやうなものといふ印象があります)
□參考例文: 「さういふ風にして日本は世界で一流の製造國になつたのです」といふ意味を英文で表現するとしたら、次のやうな言ひ方が可能です。
① That is how Japan became a world class manufacturer.
② That is the way Japan became a world class manufacturer.
③ That is the way that Japan became a world class manufacturer.
④ That is the way in which Japan became a world class manufacturer.
(※ ③④は、主として書きことばとして使はれる表現だとされますが、この漫畫では③ が使はれてゐます)
[意味把握チェック]
1 「今夜は居殘り殘業してくれないかなあ」
1 「いやです」
2 「それぢやあ違ふやり方で言はせてくれ」
3 「今夜は居殘り殘業してくれないかなあ」
3 「ウガーッ、ハァハァ、やります、やります」
4 「ことばぢやないんだ、言ひ方なんだよ」