(原題:MALIGNANT )開巻しばらくは心霊怪異譚かと思わせて、やがてサイコ・サスペンスからスプラッタ系に移行。後半からはSF仕立てのモンスター映画の様相を呈してくるという、あらゆる要素を詰め込んだ“お得感”の大きいホラー編だ。もちろん諸手を挙げて高評価するようなシャシンではないが、B級と割り切れば最後まで飽きずに楽しめる。
シアトルの下町にある古い屋敷に住むマディソンは、身重の体で仕事に出ているがロクデナシの夫は彼女の苦労には無関心だ。ある晩、夫から暴力を受けて自室に逃れて閉じこもった後、彼女は夫が何者かに殺される夢を見る。すると、翌朝に夫が死体となって発見される。それからマディソンの夢の中で黒装束の殺人鬼が犯行を重ね、現実もその通りになる。妹のシドニーと市警のショウ刑事は彼女を心配するが、実はマディソンには誰にも知られていない出生の秘密があった。
ジェームズ・ワン監督といえば「ワイルド・スピード SKY MISSION」(2015年)や「アクアマン」(2018年)などのアクション大作でお馴染みだが、本来は「ソウ」シリーズなどのホラー路線で世に出た人材。今回私は初めて彼の“本業”に接したわけだが、この“何でもあり”のサービス精神とパワフルな仕事ぶりには呆れつつも感心した。
ヒロインが暮らす古ぼけた屋敷は明らかに夫婦2人で住むには大きすぎるし、敷地も広くて固定資産税も高くつくだろう(笑)。しかし彼女は“ここは自分の家だから”という不合理な理由で離れようとしない。シドニーが訪れる廃病院は、絵に描いたようなホラー仕立て。こういう“いかにも”なエクステリアで雰囲気を盛り上げてしまえば、あとは多少は強引な筋書きでも笑って許せてしまう。
あり得ないほどの素早い動きと超人的なパワーで主人公たちを翻弄するクリーチャーの造形は見事だし、活劇場面もソツなく見せる。マディソンの主観で描かれるシュールな場面展開の仰々しさは特筆ものだ。
熱演が光る主役のアナベル・ウォーリスをはじめ、マディー・ハッソンにジョージ・ヤング、ミコール・ブリアナ・ホワイト、ジャクリーン・マッケンジーなど、出ている面子に有名どころはいないが、皆かなり健闘している。秋から春にかけて曇天の日が続く、シアトルの暗い天候を活かしたゴシック風味の舞台作りも効果的だ。