元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

ラーシュ・ケプレル「催眠」

2012-07-22 06:31:43 | 読書感想文

 本国スウェーデンをはじめ、各国で話題になったという匿名作家(現在は本名が明かされている)のデビュー作。上質のミステリーとして評判になり、早くもラッセ・ハルストレム監督による映画化が決定しているそうだ。

 ストックホルム郊外で起きた一家惨殺事件。父親がまず殺され、母親と幼い娘がメッタ刺しにされる。15歳の長男は大けがをしながらも何とか一命を取り留めるが、捜査にあたった国家警察のリンナ警部は、催眠療法で知られるバルク医師に少年から事件の状況を聞き出すように依頼する。ところが、意外か事実が明らかになって・・・・という話。

 結論から先に述べると、つまらない小説だ。冒頭の惨劇の真相解明が物語の中心プロットになると誰しも思うはずだが、実際にはそうならないのには心底呆れた。何と中盤からバルク医師の息子の誘拐事件がメインになり、一家惨殺事件なんてまるで“放置プレイ”のごとく脇に追いやられる。

 ならば一家惨殺事件が完全に解決するのかというとそうでもなく、何やら“結末らしきもの”が御為ごかし的に示されるだけだ。で、誘拐事件の方は面白いのかというと、これも大したことはない。暗躍するナゾの少年団(?)みたいなのが何か鍵を握っているのかというと、実はあまり関係が無かったりする。

 どうやら犯人像はバルク医師が過去に試みた催眠療法に大きく関与しているらしいことが分かってくるのだが、それを説明するために途中から“バルク医師の一人称小説”が挿入される。これがまた不必要に長い。嫁さんとの確執なんか要領を得ない描写の連続で、正直どうでもいい気分になってくる。

 キャラクターも魅力無し。バルク医師は甲斐性の無いオヤジに過ぎないし、リンナ警部なんかただの“記号”に見えてくる。そもそも、催眠術の持つ妖しく危険な要素を描出していないのが致命的で、読んでいてちっともワクワクしないのだ。映画化を担当するハルストレム監督も旬の作家ではないし、こっちも期待出来ない。上下巻にわたる長編だが、個人的には読む価値は無かったと言える。

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