元・副会長のCinema Days

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「ワンダーウォール 劇場版」

2020-09-27 06:11:33 | 映画の感想(わ行)
 元ネタは2018年にNHK BSプレミアムで放映された“京都発地域ドラマ”で、未公開カットなどを追加して2020年に劇場公開されている。上映時間は68分と短いが、モチーフ自体は興味深く、面白く鑑賞出来た。とはいえ、観る側が昔の学生気質のようなものを少しは理解していないと受け付けないかもしれない。

 京都にある京宮大学の学生寄宿舎・近衛寮は、建てられてから百年以上が経過しているが、歴代の学生たちによって守り続けられてきた。寮は自治会によって運営され、時には学校当局とも対立することもある。折しも学校側は寮の老朽化による建て替えを提案してきたが、当然ながら自治会は反発する。両者の膠着状態は数年間続き、学生部長の判断により寮の解体は一応棚上げになった。しかし、突然部長は大学を辞め、後任の者は自治会との交渉過程を全て反故にして寮生に立ち退きを通告してくる。



 前半、狂言回し役の学生“キューピー”が近衛寮に入るためこの大学を受験したことが示されるが、ハッキリ言って今どきこういう寮生活にあこがれる学生というのはかなりの少数派だろう。劇中で“近衛寮は変人ばかり”と言われているが、たぶん実際の古い学生寮というのは変人しか入居したいとは思わない。

 しかしながら、近衛寮の内実を見ると雑然とした独特の魅力があることが分かる。ここにしか住めない変わり者の学生も、確実に存在する。だが、本作のテーマは古い寮の再発見みたいなノスタルジックなものではない。後半、どうして学校側が寮の建て替えを画策したのか、その理由が示される。



 早い話が、大学当局は学生のことなど考えておらず、すべては打算なのだ。背景には、教育にカネを出さない国と緊縮指向の世間の風潮がある。そういう目先の経済優先の空気が大学教育を蔑ろにしてゆく、その構図を本作は批判している。前田悠希の演出は丁寧だが、終盤に“合奏シーン”を2回も挿入するのは余計だった。1回に絞って、残った時間は別のエピソードでも入れて欲しかった。

 須藤蓮に岡山天音、三村和敬、中崎敏、若葉竜也などの若手、そして山村紅葉や二口大学、成海璃子など、キャストは万全。なお、近衛寮のモデルになっているのは京都大学の吉田寮である。学生側と大学側との対立は長期にわたっており、ついには裁判沙汰にまで発展した。穏便な解決を望みたいところだ。

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