元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「わが青春のフロレンス」

2020-02-23 06:29:51 | 映画の感想(わ行)
 (原題:Metello )70年イタリア作品。20世紀初頭のフィレンツェ(フロレンス)を舞台に、労働運動に身を投じた青年の、波乱万丈の日々を描いた社会派ドラマ。・・・・というのは表向きで、実相は苦労しながらも世の中を都合よく渡ってゆくプレイボーイ野郎の痛快一代記だ(笑)。当時はアイドル的な人気を集めていた歌手のマッシモ・ラニエリが主役で、彼の色男ぶりがとことん強調される作劇も微笑ましい。

 幼い頃に両親を亡くし、田舎に預けられて育ったメテロは17歳の時、養父母の元を離れて生まれ故郷のフィレンツェに戻ってきた。父の古い友人ベットの紹介で煉瓦工の仕事を始めるが、ベットは実はアナキストで、メテロは社会主義思想を彼から教え込まれる。メテロはやがて仕事上で知り合った未亡人のヴィオラと仲良くなる。彼は真剣に彼女と一緒になることを考え始めたものの、徴兵され3年あまり軍で過ごすことになる。



 兵役を終えてフィレンツェに帰った彼をヴィオラは迎えるが、彼女はすでにメテロの手の届かない立場に置かれていた。仕事に戻った彼の周囲では組合運動が激化し、会社側との間に衝突が繰り返されていた。事故で死んだベテラン社員の葬式に出席したメテロは、その娘エルシリアと出会い、心を奪われる。交際を経て彼女と結婚したメテロだが、やがてアパートの隣に住む人妻イディナと懇ろな中になる。

 20世紀はじめに芸術の都から工業都市へ変わりつつあるフィレンツェで、労働者として階級意識に目覚め、立ちはだかる資本家に戦いを挑む主人公の姿を“真面目に”追っていればそこそこ重量感のある歴史劇になったはずだが、どうにもメテロは下半身がだらしがない。ドラマはそんな彼の所業をネガティヴに扱うどころか、都合のいい時に都合のいい女が助けてくれるという、文字通り御都合主義の権化みたいな展開を大っぴらに提示する。

 ただし、それが全然欠点にはなっておらず、ヘタすると重苦しくなりがちな題材を、いい按配で“中和”してくれるという、怪我の功名みたいな様相を呈しており、けっこう楽しめる。マウロ・ボロニーニの演出は取り立てて上手いとは思えないが、主人公のキャラクターと丁寧な時代描写に助けられてボロを出さない。

 M・ラニエリは快演で、ヘヴィな境遇にあってもノンシャランにトラブルを回避してゆくメテロをうまく表現している。エルシリアに扮するオッタヴィア・ピッコロ、イディナ役のティナ・オーモン、ヴィオラを演じるルチア・ボゼーと女優陣はすべて美しく、この頃のイタリア女優の層の厚さを感じさせる。エンニオ・グァルニエリのカメラがとらえたフィレンツェの奥行きのある町並みは、作品に格調高さを与えている。そしてエンニオ・モリコーネによる映画音楽史上に残る名スコアが全編に渡って鳴り響き、鑑賞後の印象は決して悪いものではない。

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