元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「生きててごめんなさい」

2023-02-20 06:19:56 | 映画の感想(あ行)
 主人公たちが抱える懊悩が痛いほど伝わってきて、観ていて引き込まれるものがある。これは別に彼らのような若年層に限ったことではなく、少しでも周囲の者たちの価値観や行動様式に違和感を覚えている人間ならば、年代問わず共鳴できるはずだ。言い換えれば、もしも本作にまったく感じ入るものが無かったとしたら、それはある意味幸せなことかもしれない。

 出版社の編集部員である園田修一は、ある日偶然に居酒屋のバイトをクビになったばかりの清川莉奈と知り合い、そのまま一緒に住むようになる。修一は激務に追われつつも、いつか小説家になるという夢を捨てきれずにいた。莉奈は恵まれない生い立ちである上、極端に不器用で何をやっても上手くいかない。修一は学生時代の先輩の相澤今日子から彼女が勤務する大手出版社主催の新人作家賞に応募することを奨められ、本格的に執筆に取りかかる。一方、莉奈はふとしたきっかけで修一が担当する売れっ子のコラムニスト西川洋一の目にとまり、修一と同じ会社で働き始める。



 本作の主人公たちは先日観た三浦大輔監督の「そして僕は途方に暮れる」の登場人物みたいな真性のダメ人間ではなく、前向きに生きようと奮闘してはみるものの、要領の悪さからダメっぷりを引き込んでしまう。適切な居場所と役割さえ与えられれば、もう少しマシな人生を送れるはずが、それがどうしても見つからない。絶えず“こんなハズじゃないんだ”という思いを抱きつつ、目の前の不条理な人間関係に神経をすり減らす。

 しかも、修一の勤務先は絵に描いたようなブラック会社で、メンタルやられて退職する者もいる。担当する作家センセイどもは軽佻浮薄で自分勝手な輩ばかり。明らかに彼には相応しい環境ではないのだが、文筆家になることへの儚い思いが先に進むことを妨げる。

 脚本も担当した山口健人の演出は登場人物たちの内面を上手く掬い上げ、彼らが日々味わう失望を平易なレベルで表現する。終盤の急展開と潔い幕切れを含めて、今後も期待できる若手監督だ。

 主演の黒羽麻璃央は初めて見る男優だが、的確な内面描写を含めた熱演で感心した。莉奈に扮する穂志もえかは、これまでのイメージを覆すような超自然体のパフォーマンスで強い印象を残す。松井玲奈に安井順平、冨手麻妙、春海四方、飯島寛騎、長村航希、梅田彩佳など、脇の面子も申し分ない。公開規模が小さいのは残念だが、今年度の日本映画の収穫であることは間違いない。

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