元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「インポッシブル」

2013-07-02 06:26:33 | 映画の感想(あ行)

 (原題:The Impossible)ハードな場面の連続だが、実録映画らしい切迫感と力強い演出、そしてキャストの頑張りにより見応えのある映画に仕上がっている。

 2004年、ベネット夫妻と3人の子供たちは、クリスマス休暇を利用してタイのリゾートホテルにやって来る。ところが12月26日に大地震が起き、ホテルも津波の直撃を受ける。母マリアと長男のルーカスは水に呑まれながらも何とか生き延びるが、マリアは重傷で歩くこともままならない状態だ。それでも生き残った現地の人たちに助けられ病院に運ばれた二人だが、当然のことながらそこはケガ人の山で、いつ治療してもらえるのか分からない。

 マリアとルーカスはヘンリーとあと二人の子供達の安否は絶望的だと考えいていたが、実はヘンリーと幼い子供達は無事であった。ヘンリーは行方不明になっているマリアとルーカスを見つけるため、各地の避難所や病院を探し回っているのだった。

 スマトラ沖大地震の津波を生き延びた家族の話を元にしており、主人公達の国籍がスペインからイギリスに変わっていることを除けば、ほぼ事実を追っているという。もちろん実際は映画では描けないほど悲惨な光景が繰り広げられており、映画化にあたってはそのあたりの“手加減”はあるのだが、次から次へと提示されるショッキングなモチーフの数々は、観ていて息苦しくなってくる。

 日本人としてはどうしても東日本大震災を重ねずにはいられないが、あの惨事の中で助け合いの精神を発揮した人々が大勢いたように、この映画でもそれが描かれる。マリアを助ける村人達の献身的な努力を見せる場面や、マリア自身がルーカスに対して他の人たちの手助けをするように指示したり、居合わせた被災者がヘンリーに携帯電話を渡して本国の父に電話をするように言うシーン等には、思わず目頭が熱くなった。

 この一家が助かることは最初から分かっており、ラストもそうなるのだが、決してハッピーエンドではない。ルーカスが病院の中で大勢の患者達に人捜しを頼まれるのだが、ごく数人を除いて結局それに報いることが出来なかったように、生き残った者はこの悲劇に対する無力感を覚えたままこれからも生きていくことになる。しかし、自分が多くの他人によって生かされていることを強く認識したのも、また彼らである。これからの彼らの人生に幸多からんことを願わずにはいられない。

 フアン・アントニオ・バヨナの演出は終盤に“映像派的ケレン”が挿入されている点は気に入らないものの、骨太の求心力は発揮出来ている。夫婦を演じたナオミ・ワッツとユアン・マクレガーの演技は素晴らしく、特にワッツのパフォーマンスには圧倒された。アカデミー賞候補になったのも当然だろう。そしてルーカス役のトム・ホランドはナイーヴな力演を見せ、今後に期待を抱かせる。

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