元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「お母さんが一緒」

2024-08-26 06:38:26 | 映画の感想(あ行)
 舞台劇の映画化であり、いかにも“それらしい”御膳立てが散見されるシャシンだ。ならば全然面白くないのかというと、そう断言も出来ない。映画的興趣も、無いことはない。キャストの頑張りも印象的。ただ、これが実績のある橋口亮輔の9年ぶりの監督作に相応しいかと問われると、意見が分かれるところだろう。

 弥生と愛美、清美の三姉妹は、親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてくる。だがこの母親は峻烈な人物のようで、それが娘たちにも影響を与えて三姉妹は万全な人生を送っているようには見えない。長女の弥生は見栄えが良い妹たちにコンプレックスを持ち、次女の愛美は何かと優等生の姉と比べられてきたルサンチマンを抱えている。三女の清美はそんな姉たちを冷めた目で見ていた。そんな中、清美はこの旅行の場で婚約者を皆に紹介すると言い出す。ペヤンヌマキ主宰の演劇ユニットが上演した同名舞台劇を元にした一編だ。



 娘たち、特に弥生と愛美は話す言葉と振る舞いがまさに新劇調。全編これ絶叫と派手なジェスチャーで、観る側としては疲れてしまう。それはもちろん、母親に対する鬱屈した気持ちの表出なのだが、ならばわざわざ母親を温泉にまで招待する必要も無いとも思える。とはいえ彼女たちには“世間体”という決して無視できない判断基準が備わっており(それも母親の影響)、親孝行の真似事をすることに疑問も持たなかったと思われる。そんな中、清美の思い切った行動は大きな波紋を生じさせる。

 このままドロドロの展開が続くと途中退出したくなったところだろうが、本作には絶妙なモチーフが用意されている。それはこの物語の舞台だ。ロケ地は佐賀県の嬉野温泉である。三姉妹の実家も佐賀であり、飛び交うセリフの大半が佐賀弁だ。このローカル色豊かな御膳立てにより、キツい話がうまい具合に“中和”され、最後まで観客を引っ張ってくれるのだ。ラストは御都合主義的とも言えるが、背景が風情のある温泉町ならば“それで良いじゃないか”という気分にもなってくる。

 主演の江口のりこと内田慈、古川琴音はいずれも好調。特に江口の振り切ったようなパフォーマンスには感心した。清美のフィアンセに扮した“青山フォール勝ち”は初めて見るが、元々はお笑い芸人らしいので、演じることの基礎は出来ている。ただやっぱり気になるのが、この映画が橋口亮輔監督作品として推せるのかどうかだ。これまでの彼の作品はすべて企画からオリジナルであり、本作のような他人の原作を元にしたことが無かっただけに、個人的にはイマイチ承服しがたい。
コメント
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