元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「π(パイ)」

2024-04-06 06:09:26 | 映画の感想(英数)
 (原題:Π PI )98年作品。鬼才として知られるダーレン・アロノフスキー監督作品はけっこう観ていると思っていたが、長編デビューになる本作は未見だった。今回デジタルリマスター版として再上映されたので、鑑賞してみた。率直な感想だが、外観のエキセントリックさに比べれば中身は意外と薄味である。最初の作品ということで好き勝手やっている先入観があったものの、肩透かしを食らった感じだ。

 マンハッタンのチャイナタウンに住むマックス・コーエンは突出したIQの持ち主で、特に数学に関しては他の追随を許さないレベルに達していた。彼はこの世の全ての現象は数式で説明できると確信し、自作のコンピューターで株式市場の予測などに没頭していた。ある日、コンピューターが正体不明の216桁の数字をはじき出す。彼の師匠であったソルもかつて研究していたその謎の数字に、マックスはのめり込んでいく。



 全編モノクロのざらついた画面、手持ちカメラの多用による不安定な構図、耳をつんざくクリント・マンセルの音楽と、エクステリアは結構キレている。しかし、主人公の行動は大したことはない。株価予想は実益を兼ねるために仕方がないのかもしれないが、深い考察もなく宗教関係に興味を持つのは安易だ。おかげでマックスは正体不明の組織から狙われるようになるが、話が単純化するのは否めない。

 ドリルを持ち出して自傷行為に走るのかと思ったら、決定的な破局には至らず何となく済まされてしまう。そもそも、舞台をチャイナタウンに設定したメリットがあまり見出せない。人種間の確執などが織り込まれるわけでもなく、単なる“背景”としか扱われていないのだ。やりようによっては高度な異常性を伴うカルト映画にも仕上げられたかもしれないが、いささか不十分である。やっぱりこの監督の異能ぶりが真価を発揮するのは、「レクイエム・フォー・ドリーム」(2000年)あたりからなのだと思う。

 とはいえ主演のショーン・ガレットはよくやっていると思うし、マーク・マーゴリスにスティーヴン・パールマン、ベン・シェンクマン、サミア・ショアイブという顔ぶれもマイナーながら印象は強い。そして上映時間が85分と短めなのも良い。こういうタッチで長時間引っ張ってもらうと、かなりキツかったところだ。
コメント
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