元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミックスド・バイ・エリー 俺たちの音楽帝国」

2023-08-06 06:05:18 | 映画の感想(ま行)

 (原題:MIXED BY ERRY )2023年5月よりNetflixより配信。取り上げられた題材は興味深く、各キャラクターは十分“立って”いる。正直、ストーリー自体はそれほどでもないのだが、作品のカラーは捨てがたく、観て損しないレベルに仕上げられていると思う。特に音楽好きにはアピールするところが大きいだろう。

 1980年代のナポリ。フォルチェッラ地区に住むDJ志望の若者エンリコ(通称エリー)は、兄と弟と共に既存の音楽ソースから自身で選曲したカセットテープを作成し、それを大量生産して売りさばくビジネスを始める。これが大当たりして販路を全国規模に広げるが、サンレモ音楽祭の未発表音源を海賊版としてリリースしたことを切っ掛けに警察からマークされるようになる。実話に基づいたシモーナ・フラスカのノンフィクション小説の映画化だ。

 冒頭、くだんの三兄弟が服役する場面が描かれるので結末は分かっている。映画はそれから時制を遡ってエリーたちがこの一件に手を染めた経緯が示されるのだが、DJとして芽が出ないことを思い知らされたエリーがミックステープの作成に行き着いたという話は、いささか強引ながら納得できる。音楽に関わる仕事という意味では同じだし、この時代はそれが許されていたのだ。

 しかも、三兄弟の父親はニセ高級酒の詐欺販売という香ばしい稼業に身をやつしており、それを子供の頃から手伝っていたエリーに罪の意識など最初から無かったと推察される。とはいえ、ストーリー展開は一本調子で捻ったところは見られない。それが不満点ではあるのだが、当時の音楽業界の事情は分かりやすく描かれている。

 著作権という概念が一般的ではなく、音楽雑誌などにもブートレッグ盤の広告が大っぴらに出回っていた時代。それがCDの登場により無断複製が問題視されるようになるプロセスが平易に紹介されている。また、80年代の楽曲が鳴り響くのも楽しい。個人的にはこの頃のポップスを積極的に聴いたことはないが、現時点で接すると懐かしい気分になる。

 シドニー・シビリアの演出は突出したところは見当たらないが、破綻無くドラマを奨めている。ルイジ・ドリアーノにジュゼッペ・アリーナ、エマヌエーレ・パルンボ、フランチェスコ・ディ・レーヴァ、クリスティアーナ・デランナといった顔ぶれも申し分ない。また、劇中で描かれるナポリの下町の風景は、古いイタリア映画を思い起こさせて効果的だ。
コメント
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