元・副会長のCinema Days

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「仁義なき戦い 頂上作戦」

2023-08-11 06:08:25 | 映画の感想(さ行)
 74年東映作品。シリーズ第四作目だが、第一作(73年)にいくらかは感じられた主要登場人物たちのヒロイックな造形は完全に無くなっており、全編これ欲得尽くに振る舞うヤクザどもの無軌道な行状がこれでもかと展開する。まさしく“仁義なき戦い”そのもので、現実を正しく照射しているという意味では大いに存在感のあるシャシンだ。

 前作から引き続き描かれる、昭和38年の広島を舞台にした明石組と神和会という神戸の広域暴力団2つの代理戦争は激化の一途をたどっていた。カタギの市民にも被害が及ぶに至り、広島県警はついに本格的な暴力団撲滅に乗り出し、“頂上作戦”と銘打った幹部の一斉検挙を敢行する。その頃、呉市を根城にする広能昌三率いる広能組は明石組系の打本組に与していたが、神和会系の山守組傘下の槙原組と激しく対立していた。



 広能たちは中立を守る義西会の岡島会長を味方に引き入れようとするが、交渉が成立する前に広能組の若衆が勝手に事を起こす。それを切っ掛けに広能組と山守組との関係は一触即発になるが、広能は殺された組員の葬式を行なうという名目で、全国から大勢の助っ人を呼び寄せて一気に山守組を潰そうとする。昭和38年から40年まで続いた第二次広島抗争を題材にした実録物だ。

 一応は主人公で狂言回し的な役どころも担っていた広能は映画の中盤で表舞台から退き、あとは各組の構成員たちの勝手な狼藉ぶりが延々と繰り広げられる。前回まではその背景には金目の話以外に面子とかプライドとかいう心情的なものが介在していたようだが、今回はそれさえも無い。本作の狼藉行為の主役になっている若い連中は、組のためとか筋を通すためとか、そんな建前的なことは一切考えない。単に自分たちが気に入らないとか、ただ暴れたいとか、そういう動物並みの感情によりひたすら凶器を振り回す。

 すでに中年以後の年齢に達した幹部連中は得にならない争いは極力したくはないのだが、下の者たちが動き回っている関係上、事を穏便に収めることが出来なくなっている。中には岡島のように関与しないことを公言しているにも関わらず、いつの間にか消されてしまう例もあるほどだ。多数の犠牲者を出しながらも、最終的に誰の何の利益にもならなかった広島抗争の有様を通じて、映画は戦いの無常さを強く印象付ける。

 終盤、寒風に晒されながら暴力の応酬の虚しさを語り合う広能と山守組若衆頭の武田の姿が、作者が最も言いたかったことを象徴している。深作欣二の演出は相変わらずパワフルで、密度の濃さを見せつけながらも1時間40分の適度な尺に収めているあたりは名人芸。菅原文太に黒沢年雄、加藤武、小林稔侍、金子信雄、田中邦衛、小林旭、山城新伍、梅宮辰夫、夏八木勲、小池朝雄、松方弘樹など、キャストは強力。吉田貞次によるカメラワークと津島利章の音楽も手堅い。
コメント
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