元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「小さな泥棒」

2022-06-24 06:11:48 | 映画の感想(た行)
 (原題:LA PETITE VOLEUSE )88年作品。本作は「なまいきシャルロット」(85年)などで知られるクロード・ミレール監督が、この頃アイドルから大人の女優へ脱皮する時期を迎えていたシャルロット・ゲーンズブールを、前作に続いて起用した作品である。確かに、主人公像にはまったく共感できないものの、ゲーンズブールの存在感だけは際立っており、その意味では存在価値のある映画だ。

 1950年、フランス中部の小さな町で伯父夫婦と暮らす16歳のジャニーヌは、盗み等の非行に明け暮れる無軌道な日々を送っていた。父親はおらず、母親は5年前に彼女を残して家を出ている。ある日、彼女は教会でお布施を盗もうとしているところを捕まってしまい、伯父宅にいられなくなる。住み込みのメイドの職を見つけるが、彼女の素行の悪さは治らず、再び盗みを働いた挙句に泥棒仲間のラウールと逃亡の旅に出る。だが、道中でジャニーヌだけが逮捕され矯正院に送り込まれてしまう。



 この映画の原案を担当したのはフランソワ・トリュフォーだ。おそらくトリュフォーが監督していたら、悪事を重ねる主人公の中にある若者らしい苦悩や逡巡を掬い上げていたと思われるが、正攻法の作劇が身上のミレール監督では、ヒロインは単なる不良娘としか描かれない。金目の物を見つけると盗むことしか考えず、男関係もとことんだらしない。いくら生い立ちが不幸だろうと、言い訳できる余地はない。彼女を取り巻く人間関係も、妙に図式的だ。

 ところが、これをゲーンズブールが演じると何となくサマになってしまう。あの人生投げたような表情と捨て鉢な振る舞いだけで、何か深いものがあるのではないかと(実際は映画的にそんなことは描かれてはいないのだが ^^;)、納得したくなってくるのだ。ラストはジャニーヌの“成長”を表現しているようでいて、中身は従来通りである(笑)。

 ミレールの演出はストレートだがコクや艶は無い。しかし、結果的にその点はあまり瑕疵は表面化していないと言える。ディディエ・ブザスやシモン・ド・ラ・ブロス、ラウール・ビルレーといった脇の面子は悪くはないが、最も印象的だったのは劇中で主人公が矯正院で出会う親友モリセットを演じたナタリー・カルドーヌだ。ある意味、ゲーンズブールを上回るほどのフレッシュな魅力を感じる。ただ、彼女の本職は歌手なので今に至るも出演作は多くは無いのが残念だ。
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