元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「その人は 昔」

2022-06-17 06:22:47 | 映画の感想(さ行)
 1967年東宝映画。当時人気絶頂だった歌手の舟木一夫がデビュー3周年を記念して作った同名のコンセプト・アルバムを元にした作品で、監督は「人間の條件」シリーズ(1959年より)や 「名もなく貧しく美しく」(1961年)などの松山善三。音楽は同アルバムを担当した船村徹が受け持っている。

 北海道の日高地方の漁村に住む若者(舟木)と少女(内藤洋子←娘の喜多嶋舞よりカワイイ ^^;)は、過酷な労働に追いまくられる生活を嫌い家出同然に上京するが、都会のせち辛さは二人の淡い期待を裏切り続け、そして・・・・というストーリー。この悲しい結末は当時の映画の傾向を表しているのかもしれないが、それ以上に、一片の救いもないドン底の展開を見せられるにつけ、松山監督の過度の被害者意識を印象づけられる。だからダメな映画かというとそうじゃなくて、そういう激しい思い込みが異様な迫力で画面を横溢し、圧倒されてしまった。



 いちおう“歌謡映画”という体裁の作品で、最初から最後まで歌の連続であり、ほとんどミュージカルといっていい。楽曲の数なんて、一時期のハリウッド作品やインド映画などより多い。しかも、歌唱シーンはけっこう凝っている。ここまで力いっぱいやられると、ダサさを通り越して感心するしかない。内藤が歌う「白馬のルンナ」は元々この映画の挿入歌だったことを本作を鑑賞して初めて知った。山中康司に金子勝美、生方壮児、小沢憬子といった他の面子は正直言ってすでに現在では知られていないが、皆悪くはない演技をしている。

 余談だが、私はこの作品を某映画祭の特集上映で観た。しかしながら、すでにフィルムの劣化が激しく、全編赤く退色してしまっていたのには呆れてしまった。本作はビデオ化はされていたようなので、市販ソフト版はそのような有様ではないとは思う。しかしながら、たぶんフィルムの保存状態が悪くて半ば“埋もれてしまった”作品は他に少なからずあるのだろう。そういえば、大昔のプログラム・ピクチュアの中にはジャンクされてしまったシャシンが多数あると聞いたことがある。フィルム・アーカイブの重要性を改めて痛感した。
コメント
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