元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハケンアニメ!」

2022-06-19 06:50:20 | 映画の感想(は行)
 どこが面白いのかさっぱり分からないが、なぜか世評は高い。“傑作だ!”という声もあるほどだ。中身よりも取り上げられた題材で好意的に受け取られるケースもあるのかと、勝手に納得しようとしたが、やっぱり個人的にはダメなものはダメである。とにかく、作り方を完全に間違えているようなシャシンで、求心力は微塵も感じられない。

 主人公の斎藤瞳はアニメーション好きが高じて、地方公務員の職を辞してアニメ製作の現場に飛び込んだ。苦労の甲斐はあってそれなりに仕事ぶりが認められ、ディレクターとしての第一作として夕方時間帯の連続番組を任されることになる。ところが、そこに立ちはだかったのは天才監督と呼ばれる王子千晴だった。彼は瞳が担当する番組と同じタイムスケジュールで、別の局でプログラムを受け持つことになる。瞳は手強い相手と対峙するため、プロデューサーの行城理をはじめとするスタッフたちと共にアニメ界の頂点(ハケン)を目指して奮闘する。辻村深月による同名小説の映画化だ。

 物語の前提から、すでに不備が目立つ。そもそも、駆け出しの若手であるヒロインに、ゴールデンタイムの番組を演出デビュー作としてセッティングするのは、どう考えても無理がある。まずは、深夜帯などで腕試しさせるのが筋ではないか。百歩譲って、彼女にそれだけの才能があるという設定だとして、ならばその鬼才ぶりを遺憾なく発揮させるモチーフがあって然るべきだが、それはどこにも無い。

 それどころか、彼女が作るアニメ番組は、どこがどう面白いのか全然説明されていない。これは王子が担当する番組も同様で、面白さが掴めないプログラム同士が勝手に視聴率を競っているという、観ているこちらにとってはどうでもいい話が延々と続くのみ。だいたい、ある程度の評価が期待される(らしい)2つの番組を、どうして同じ時間帯にオンエアしなきゃならないのか。少なくともマーケティングとしては悪手だろう。

 また、ブラックな環境が取り沙汰されるこの業界を描く中で、まったくそのようなネタが出てこないのも違和感満載だ。よく見れば、この映画はアニメーション業界を新奇な題材として扱っているだけで、内実は従来のテレビドラマでよく取り上げられる“オフィスもの”と変わらない。吉野耕平の演出は平板で、盛り上がりは感じられない。

 主演の吉岡里帆は気が付けばスクリーン上でお目に掛かるのは初めてだが、演技にアクセントが無く小粒で存在感に欠ける。(少なくとも今のところは)テレビ画面向けのタレントでしかない。中村倫也に柄本佑、尾野真千子、古舘寛治、徳井優、六角精児、そして声優の花澤香菜など顔ぶれだけは多彩だが、上手く機能させていない。若手アニメ作家同士の鍔迫り合いよりも、工藤阿須加扮する自治体関係者と、小野花梨が演じる原画担当兼PR要員との関係を主に描いた方がもっと面白くなったと思う。
コメント
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