元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「エデンの東」

2022-06-12 06:49:15 | 映画の感想(あ行)
 (原題:EAST OF EDEN)1955年作品。有名なシャシンだが、私は観たことが無く、今回“午前十時の映画祭”のプログラムの一つとして初めてスクリーン上で接することが出来た。感想としては、かなり“微妙”というのが正直なところ。公開当時はかなりウケが良かったらしいが、それは主演のジェームズ・ディーンのカリスマ性によるところが大きいと思われる。

 1917年、カリフォルニア州サリナスで農場を営むトラスク家の当主アダムは、冷凍野菜の遠方への出荷という、当時としては斬新なマーケティングに挑んでいた。しかしその施策は失敗し、莫大な負債を抱える。彼には双子の息子がおり、高潔で頭が良いアーロンは父親のお気に入りだったが、無鉄砲で山師的なキャルは問題児扱いされていた。



 キャルは父親の借金を何とかしようと、亡くなったと聞かされていた母親ケートが近くの町で酒場を経営し繁盛させていることを知り、彼女からの出資金を元手に大豆相場で大儲けする。意気揚々と稼いだ金を父親に渡そうとするキャルだが、アダムは第一次大戦による特需で得た利益など手にするに値しないと、息子の申し出を拒否。絶望するキャルを、アーロンの恋人アブラが慰める。ジョン・スタインベックの同名小説の映画化だ。

 聖書の教えに忠実であろうとするアダムは、道徳的には立派かもしれないが、付き合うには“重い”キャラクターだ。ケートが出て行ったのも当然だと思わせる。アダムの資質を受け継いだアーロンも、如才ないが堅苦しい。そんな家族に囲まれて育ったキャルは小さい頃から苦労が絶えなかったと思わせるが、それでも父親に対する思慕の念を捨てきれない。

 そのアンビバレンスな状態に翻弄され、時として奇行に走るキャルには同情するしかないが、それを危ういタッチで演じるJ・ディーンのパフォーマンスには感心する。確かにルックスと実力を併せ持った俳優で、その早すぎた退場は惜しまれる。とはいえ、アダムとアーロンが持ち合わせる価値観を一時は肯定するようなドラマ仕立てには現時点では付いていけないのも事実。特に終盤の扱いには、観ているこちらの頭の中にクエスチョン・マークが乱立してしまった(苦笑)。



 エリア・カザンの演出は悪くはないのだが、「紳士協定」(1947年)や「波止場」(1954年)ほどの切れ味は感じられない。スタインベック作品の映画化でも「怒りの葡萄」(1940年)や「二十日鼠と人間」(92年)の方が優れている。なお、ジュリー・ハリスにレイモンド・マッセイ、ジョー・ヴァン・フリート、リチャード・ダヴァロス等の共演陣は万全。

 レナード・ローゼンマンによるテーマ曲は映画音楽史上に残る名スコアだが、今までヴィクター・ヤングの演奏によるカバーバージョンしか聴いたことがなかった。しかし、実際の映画のサウンドトラックは意外と速いテンポで、印象を新たにした。
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