元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ドライヴ」

2020-05-03 06:31:57 | 映画の感想(た行)

 (原題:DRIVE )2011年作品。スタイリッシュなエクステリアと魅力的な主人公の造型が特徴の、犯罪映画の佳編である。マーティン・スコセッシの「タクシードライバー」(76年)や、ウォルター・ヒルの「ザ・ドライバー」(78年)との類似性が指摘されるかもしれないが、本作独自の美点も存分にフィーチャーされている。

 ロスアンジェルスの裏町に住む主人公の“ドライバー”は、昼間は自動車整備工場に勤め、バイトとして映画のスタントマンを時折引き受けているが、実は犯罪者の逃走を手助けするプロである。ある日、彼は同じアパートに住む若い人妻アイリーンと知り合い、仲良くなる。服役中だった彼女の夫スタンダードはしばらくして出所するが、多額の借金を背負っていた彼はサラ金に押し入ることを債権者から強要されていた。“ドライバー”は彼の逃走をサポートするはずだったが、なぜかスタンダードは逃げる前に射殺されてしまう。どうやら背後で大きな陰謀が進行しているらしく、やがて“ドライバー”にも災厄が降りかかってくる。

 この“ドライバー”のキャラクター設定が絶妙だ。突っ張ったり凄んだりする気配が微塵も無く、淡々と仕事をこなしてゆく。ならば冷徹で愛嬌に欠けるのかというとそうではなく、表情に乏しいながらも感情を露わにするシーンでは内面が観る者に無理なく伝わってくる。実に自然体で好ましいのだ。

 そんなノンシャランな彼が窮地に陥っても、たぶんピンチを脱するだろうとは思うものの、どのようにして乗り切るのか予想出来ない。しかも彼は基本的に銃器類を使わず、金槌だの匕首だのといった“手近な道具”で間に合わせるという意外性を出してくるのだから堪らない。筋書きとしては、仲間だと思っていた奴らが悪党だったり大金の出所がヤバい筋だったりと、いろいろと凝っていて飽きさせない。さらには、アイリーンとの逢瀬もけっこう泣かせるのだ。

 ニコラス・ウィンディング・レフンの演出は相当カッコ付けているが、ケレン味が鼻につく寸前のところで踏み止まっており、これはこれで評価出来る。なお、本作で彼は第64回カンヌ国際映画祭で監督賞に輝いている。主演のライアン・ゴズリングは快調で、甘めのマスクが役柄とアンマッチと思わせて、ロマンティックな味を醸し出すことに成功している。

 アイリーンに扮するキャリー・マリガンは(前にも述べたけど)あまり好きな女優ではないが、ここでは場をわきまえた好演を見せている。ブライアン・クランストンやクリスティーナ・ヘンドリックス、ロン・パールマン、アルバート・ブルックスといった他の面子も良い。ニュートン・トーマス・サイジェルのカメラによる危なっかしいロスの町の風景と、クリフ・マルティネスの音楽も効果的だ。
コメント
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