元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ルディ・レイ・ムーア」

2020-05-04 06:26:47 | 映画の感想(ら行)

 (原題:DOLEMITE IS MY NAME )2019年10月よりNetflixで配信されたコメディ作品。何といっても主演のエディ・マーフィの“復活”が嬉しい。彼は「ドリームガールズ」(2006年)以降あまり目立った仕事は無かったが、久々に手応えのある役を引き寄せたようだ。映画の出来自体も満足すべきもので、鑑賞後の印象は上々である。

 70年代初頭のロスアンジェルス、コメディアンとして世に出ることを夢見ていたルディ・レイ・ムーアだが、現実はレコード屋の店員として糊口を凌ぐ毎日だ。ある日彼は、ホームレスのオッサンの戯言からインスピレーションを受け、下品なネタの速射砲で観衆を圧倒するメソッドを獲得。一躍スタンダップコメディの寵児になり、ライヴもレコードも好調なセールスを記録するようになる。

 ところが、仲間と一緒に映画館でビリー・ワイルダー監督の「フロント・ページ」(74年)を観て、ルディは少なからぬ衝撃を受ける。周りの白人たちは大爆笑しているのに、彼らにはその良さが全く分からないのだ。そこでルディは“黒人が楽しめる映画を作らなければならない”と決意。カネもコネもノウハウも無い彼らだが、多額の借金を背負いながら、果敢に映画製作に挑む。70年代に活躍した、ミュージシャンでコメディアンのルディ・レイ・ムーアを描いた実録映画だ。

 80年代に人気絶頂だった頃のエディ・マーフィは、とにかく“攻め”の姿勢が前面に出ていた。黒人の喜劇役者であることをモノともせず、幅広い観客層に対して“オレ様のジョークは絶対に面白いはずだっ。さあ笑え!”とばかりに、勢いでねじ伏せようとしていた。だが、そんな彼も60歳に手が届く年代になり、スピードもパワーも衰えてきた。本作での彼は、腹の出た冴えないオッサンである。

 しかし、エディは決して無理していないし、焦ってもいない。芽が出ないまま人生の後半戦を迎え、それでもオッサン芸人としての矜持を保ちつつ、年齢相応の夢と希望を持って仲間達と仕事に取り組む主人公像を無条件で受け入れている。このスタンスは素晴らしい。映画の中でルディが一歩ずつ成功への階段を上がるように、エディも「フロント・ページ」の主演のジャック・レモンのような喜劇人からのキャリアアップを見据えているようだ。

 ハッキリ言って、私はルディ・レイ・ムーアという人物は知らなかった。そして劇中で披露する彼のお笑いネタも、どこが面白いのか分からない。しかし、そこが欠点になっているとは思えない。映画はとことんポジティヴに、自分のできる限りのことをやったエンターテイナーの生き様を追うだけだ。それで十分に観客の支持を集められる。

 クレイグ・ブリュワーの演出はソツがなく、スムーズにドラマを進める。ギャグは下ネタ中心ながら、上手い具合に繰り出されており嫌味が無い。ウェズリー・スナイプスにキーガン=マイケル・キー、マイク・エップス、クレイグ・ロビンソン、そしてスヌープ・ドッグといった脇の面子も実に良い味を出している。既成曲(もちろん、当時のブラックミュージック)中心の音楽と、カラフルな衣装デザインも要チェックだ。
コメント
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