元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」

2017-10-28 06:27:05 | 映画の感想(あ行)
 面白そうな題材は扱っているが、アプローチを間違えている。アメリカ占領下にあった戦後の沖縄で、米軍の圧政と戦った瀬長亀次郎という人物を描いたドキュメンタリー作品。那覇市長や衆議院議員も務めたということだが、私は不勉強にも彼のことを知らなかった。だから、瀬長が実質的にどういう功績を残したのか興味津々だったのだが、劇中ではまるで紹介されていないのだ。

 もちろん、彼が米軍にマークされるほどの影響力のある運動家で、後に政治家になった人物だということは一応説明されている。ただそれは“事実の羅列”に過ぎない。私が知りたいのは、瀬長がどうして大勢の人々を動かし、アメリカにも日本政府にもタイマンを張れるようになったかだ。つまりは彼の“カリスマ性”である。



 沖縄県民等に向けた瀬長の講演回数は、かなり多いはずだ。しかし、映画ではその動画はまったく紹介されない。彼の肉声が聞けるのは、国会での佐藤栄作首相との論戦と、80年代に入ってからのテレビのインタビュー映像のみである(それも断片的に提示されるに過ぎない)。たとえ講演時の映像や音声が残っていなかったとしても、議事録ぐらいはあるはずだ。もしも、それさえ無いというのならば、瀬長が詳細な日記をつけていることは劇中で示されているので、その内容をじっくりと検証して彼の思想や人柄に迫ることも出来たはずだ。

 この映画は戦後の沖縄で重要な役割を果たしたとされる瀬長亀次郎を、その人物像に肉迫することなく、彼を知る人々を登場させて、ただ“凄い。立派だ”と誉め上げているだけのように思える。つまりテーマの“本丸”には触れず、その“外堀”だけを埋めて満足しているのだろう。



 そんな隔靴掻痒な印象が、ハッキリとした違和感へと変わるのは、現沖縄県知事の翁長雄志が登場してくる終盤近くの展開だ。たぶん米軍に蹂躙された沖縄県民の声を率直に代弁していたであろう瀬長の主張を、いつの間にやら左傾勢力のプロパガンダに利用しようとしている、その姿勢には愉快ならざるものを感じる。だいたい、本作には沖縄の地政的な重要性の有無さえ言及されていないのだ。

 監督が「筑紫哲也NEWS23」でキャスターを務めた佐古忠彦だというのも、何だか“それらしい”感じがする。とにかく、映画の面白さ云々よりもイデオロギー的主張が前に出てくるような作り方は、受け容れがたい。なお、坂本龍一による音楽は効果的だ(坂本自身の政治的スタンス等は、ここでは問わない)。
コメント
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