元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ダンケルク」

2017-10-09 07:10:56 | 映画の感想(た行)
 (原題:DUNKIRK )失敗作である。監督クリストファー・ノーランの“作家性”が中途半端に前面に出ており、それが作品のカラーとまったく合っていない。

 まず、時系列をバラバラにして並べるという手法は、明らかに「フォロウィング」(98年)や「メメント」(2000年)といった初期のノーラン監督作品から継承されてきたものだ。しかし、小規模なサスペンス劇では有効であったこのメソッドを、多くのキャラクターが登場する戦争映画に何の工夫も無く応用しようとしても上手くいくわけがない。



 この撮り方では開巻から間もない時点では目新しさはあるが、映画が進むごとに面倒くさくなり、終盤近くになると鬱陶しさだけが残る。当然のことながら戦争というのは“個人プレイ”では遂行できるわけはなく、多くの人員が投入されるのだが、それらを漫然と“仕分け”して、無理矢理に各時制に振り分けていること自体がナンセンス。どうしてもやりたいのならば、それぞれの時制の“登場人物”を一人に設定してミクロ的に描き切るべきである。

 さらに、この監督独自の映像センスがドラマの足を引っ張る。すべてが小奇麗で、戦争の生々しさというものが、ほとんど表現できていない。少なくとも「プライベート・ライアン」等とは別物で、かといって「史上最大の作戦」(62年)のような史劇としてのイベント性も無い。何しろ、戦況の説明も満足にされていない有様なのだ。しかもCGを使わないだの何だのという末梢的な事柄に拘泥したおかげで、戦闘シーンは実にショボい。全体として、単に作者の趣味を満足させるだけのシャシンと言えるだろう。



 どう見ても骨太なテーマやハッキリとした主張が感じられない作品だが、それでも何とか主題らしきものを見出そうとすれば、それはたぶん“戦意高揚”であり“英国万歳”といったものではないか。イギリス兵や救出作戦に船を提供した一般市民の英雄的な働きだけがクローズアップされ、それに対する賞賛も存分に映し出される。

 反面、今回助け出された兵士たちの中には、その後のノルマンディ上陸作戦などで非業の最期を遂げる者も少なくなかったはずだが、そういう不穏な影はない。ひたすら能天気に讃えるのみだ。エクステリアだけは現代風だが、中身はまるで戦時中の大本営発表モード(?)である。

 フィオン・ホワイトヘッドやトム・グリン=カーニーといった出演者は印象に残らず。ただホイテ・バン・ホイテマのカメラによる映像はとても美しく、ハンス・ジマーの不穏な音楽は効果的だ。アカデミー賞有力と言われているが、撮影賞や音響効果賞の候補にはなるかもしれない。
コメント
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