元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「しゃぼん玉」

2017-10-03 06:35:33 | 映画の感想(さ行)

 アジアフォーカス福岡国際映画祭2017出品作品。すでに封切公開はされているが、今回は映画祭バージョンで身体にハンデのある観客のために字幕と状況説明の音声ガイド等が用意された“バリアフリー上映”である(もちろん、一般の観客も違和感なく鑑賞できる)。テレビ「相棒」シリーズで監督を務めてきた東伸児の、劇場映画の初監督作品だ。

 都会で強盗傷害を繰り返し、荒んだ生活を送っていた若者・翔人が流れ着いた先は、宮崎県の山奥にある椎葉村だった。偶然に怪我をしている老婆スマを助けたことから、彼女の家に居候することになる。翔人は金を盗んで早々にオサラバするつもりだったが、スマはあれこれと世話を焼き、また彼をスマの孫だと勘違いした村人たちも親しげに接することから、逃げるに逃げられなくなってくる。

 やがて近所に住むシゲ爺から無理矢理に山仕事に誘われ、さらには祭りの準備を手伝わされるなど、人手の足りない村にとって翔人は大事な存在になってゆく。ある日彼は10年ぶりに村に帰ってきた若い女・美知と知り合い、憎からず思うようになる。だが、彼女が舞い戻る切っ掛けになった事件のことを聞いた翔人はショックを受け、あらためて自分が今まで犯した罪に向き合う。乃南アサによる同名小説の映画化だ。

 とにかく、映画の丁寧な語り口に感心する。最近の邦画によく見られる“状況や心情をセリフで説明する”というような恥ずかしいシーンは無い。かといって、観客を突き放したようなスノッブな雰囲気も見当たらない。良い意味で“中庸”を保っており、東監督のテレビドラマで積み重ねたスキルが上手い具合に発揮されていると言えよう。

 もちろん、ただのハートウォーミングな話を追っているわけではない。翔人の生い立ちは、思わず同情してしまうような悲惨なものだ。家族はもちろん、友人も知人もいない。そんな彼が村人と触れ合うことによって心を徐々に開いていく様子が平易に綴られる。

 また、スマの息子は都会に出たが事業に失敗して転落人生を歩んでいる。その壊れた親子関係を前にして、翔人は立ち竦むしかない。終盤、主人公が悩み抜いて自らの身の振り方を選び、決然として実行していく様子は感動的だ。

 主演の林遣都と市原悦子はさすがに上手い。若手とベテラン、それぞれの個性が絶妙に噛み合っている。美知に扮する藤井美菜も魅力的だ。宮本亘のカメラが捉えた椎葉村の美しい風景と、奈良悠樹による効果的な音楽。秦基博が歌うエンディング・テーマがまた良い。
コメント
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