元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「大阪物語」

2016-07-24 06:40:37 | 映画の感想(あ行)
 99年作品。当時十代だった池脇千鶴のデビュー作だが、彼女のプロモーション・フィルムに徹しているところがいい。監督の市川準はデビュー作の「BU・SU」(87年)においても、同じくその頃新人だった富田靖子のイメージビデオ的な体裁を取っていたが、この映画は内容の深さを兼ね備えていたあの作品ほど上質ではない。しかしながら、割り切って観る分には申し分ない出来だと思う。

 大阪の下町に住む中学2年の若菜の両親は“はる美&りゅう介”という売れない漫才師だ。家庭は裕福ではないが、それでも若菜は10歳の弟と共に幸せに暮らしてきたはずだった。ところが、父親の隆介が20歳も離れた若い女を妊娠させてしまったことから事態は急変。母親の春美は夫に三行半を突きつけ、追い出してしまう。やがて隆介の浮気相手は女の子を出産するが、彼はそのシビアに状況に耐えられず、姿をくらます。仕方なく若菜は腹違いの妹の面倒を見ながら、父親の行方を捜すのだった。

 主人公の両親を演じるのは実際に夫婦でもある沢田研二と田中裕子だが、2人の漫才はちっとも面白くない。心象風景的自己満足映像で綴られる大阪の町の風景は何となくウサン臭い。脚本は犬童一心が担当しているが、設定こそ面白いがストーリーには起伏が無い。

 普通ならば失敗作として片付けられるところだが、池脇演じるこの若いヒロインがスクリーン上を闊達に動き回ると、映画が弾んでくるのだ。ラストに流れるモノローグに至っては、こちらも心の中で“がんばれ!”とエールを送りたくなるほど(笑)。

 ミヤコ蝶々をはじめ夢路いとし&喜味こいし、浜村淳、今いくよ・くるよ、中田カウス・ボタン、坂田利夫、チャンバラトリオ等々、関西芸人が大挙して登場してくるのも楽しい。さすが製作総指揮に横澤彪が名を連ねているだけのことはある。尾崎豊や真心ブラザースによる挿入曲も良い。

 市川準監督はこの頃はロクでもないものばかり撮っていたが、本作に限っては悪くない仕事していると思う。やはり、基本的にインスピレーションを得られる若い女優を主役に据えると真価を発揮するタイプの演出家であったのだろう。
コメント
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