元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブルックリン」

2016-07-30 06:45:33 | 映画の感想(は行)

 (原題:BROOKLYN)つまらない。映画として描くべきパートを完全無視して、あえて面白くない個所ばかり延々と垂れ流しているだけだ。脚本担当のニック・ホーンビィは、過去に「17歳の肖像」(2009年)とかいうピント外れで毒にも薬にもならない作品を手掛けたが、今回もその轍を踏んでいると言っていいだろう。

 1950年代。アイルランドの小さな町に住むエイリシュは、彼女の将来を案じた姉の勧めでニューヨークへ行くことを決める。早速ブルックリンのデパートで働き始めるが、慣れない仕事に苦労し、さらには下宿先の同郷の女たちとは在米期間が違うせいで会話もままならない。それでもアイルランド出身の神父の助けもあり、ようやく落ち着きを取り戻す。

 ある日パーティーでイタリア系移民のトニーと知り合い、意気投合。結婚も決めてしまう。ところが故郷から突然の悲報が入り、帰郷せざるを得なくなる。結婚したことを言い出せないまま、故郷では幼馴染のジムと再会。何となく良い雰囲気になってきた2人に、周囲は勝手に婚約を決めたものだと合点するに及び、エイリシュの立場は危うくなる。

 本作のストーリーは、まったくもって少しも面白くない。田舎娘が異国の大都会に出て、それなりに強かになって、周りの迷惑を顧みずに我を通したという、芸のない話が漫然と提示されるだけだ。たとえば、トニーが実はシシリアン・マフィアの構成員で結婚を機に“足抜け”を決意していたとか、ジムのバックに地域のボスが控えていたとか、そういう場を盛り上げそうなモチーフは一切無い。

 そもそも、ドラマとして興味が持てそうなのは、ヒロインがニューヨークに発つまでのプロセスの方ではないのか。父親はおらず、健康に不安がありそうな姉に母親の世話を依頼しなければならない境遇の中で、どうして彼女は渡米を決意するのか。またニューヨークのアイルランド系のコミュニティにコネを付け、カタギの仕事をゲットし、住む場所までを確保するには相当な困難が伴ったはずで、そこにいくらでも映画的興趣が見出されたのではないか。それらをスルーして退屈な“よろめきドラマ”もどきに終始するとは、一体どういう了見か。

 さらに、主演女優の魅力の無さが鑑賞意欲を低下させる。演じるシアーシャ・ローナンは子役の頃から不細工だったが、二十歳を過ぎてより一層ブスに磨きがかかっている(笑)。とにかく顔がデカくてズン胴で、愛想もない。ならば演技力はあるのかというと、これまた表情に乏しくて身体のキレも悪く、全然パッとしない。こんなのに好漢のトニーやジムが惚れるなんて、観ていてバカバカしくなってきた。

 ジュリー・ウォルターズはじめドーナル・グリーソンやエモリー・コーエンといった脇の面子は悪くないだけに、実に残念だ。ジョン・クローリーの演出は平板でメリハリ皆無。イブ・ベランジェのカメラによる映像や、オディール・ディックス=ミローの衣装デザインは申し分ないが、それだけでは映画自体を評価するわけにはいかない。これでアカデミー賞候補になったというのだから、恐れ入るばかりだ。
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