元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「愛に翼を」

2016-07-22 06:21:35 | 映画の感想(あ行)

 (原題:PARADISE)91年製作。ジャン・ルー・ユベール監督の仏作品「フランスの思い出」(87年)の再映画化だと聞いて、さしたる期待もしないで観た。何しろ、ハリウッドが他国のネタをリメイクして上手くいったケースは(私の知る限り)無いのだ。

 同じフランス映画ではコリーヌ・セローの快作「赤ちゃんに乾杯!」(85年)が、アメリカで再映画化すると「スリーメン&ベビー」(87年)という凡作に終わってしまった例もある。しかも、あまり優秀とは思えない脚本家メリー・アグネス・ドナヒューの初監督作とあって、作品に対峙する前から腰が引けていた。しかし実際に観てみると、そこそこ良く出来ていたので取り敢えずはホッとした次第だ。

 内気で友人もいない少年ウィラードは、母親のお産の間に、田舎町パラダイスに住む母の友人リリーの家に預けられる。リリーの夫ベンは無愛想な男で、夫婦仲は良いとは言えない。実はベンとリリーは2年半前に3歳の子供を失っていて、その出来事がいまだに重くのし掛かっているのだ。ウィラードは一応2人と仲良くなり、ビリーというガールフレンドも出来るのだが、どこかしっくりいかない日々を過ごす。ある日、ベンは家を出てしまう。ウィラードは2人の仲を修復させようとするが、どうにもならない。一方、ビリーも家族に関しては大いなる屈託を抱えていた。

 当然のことながらオリジナルを超えてはいない。しかし、ドナヒュー監督は意外に健闘している。ドラマ運びは堅実で、これ見よがしのケレンもなく、かといって一本調子で観る者を退屈させることもない。そして何といってもベンとリリーに扮するドン・ジョンソンとメラニー・グリフィスの力演が光る。言うまでもなく、当時2人は本当の夫婦だった。本作では互いの阿吽の呼吸というか、心理描写のやりとりが絶妙だ。俳優が役を演じていることさえ忘れさせる。

 ウィラード役のイライジャ・ウッド、ソーラ・バーチ、シーラ・マッカーシーといった他の面子も実に良い味を出していると思う。デイヴィッド・ニューマンの音楽も要チェックだ。

 それにしても、舞台になるサウス・キャロライナの田舎は、「フランスの思い出」におけるプロヴァンスの田舎と比べると、何となくヤンキー臭くてちっともキレイではない。ひょっとしたらベンとリリーの内面を表現しているのかもしれないが、もうちょっと映像には気を遣ってほしかった。
コメント
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