元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「薄れゆく記憶のなかで」

2016-07-15 06:21:25 | 映画の感想(あ行)
 91年作品。大した才能も無いのになぜか仕事が次々と舞い込んでくる演出家もいれば、本作で監督を勤める篠田和幸のように、見所はあるのに一作だけで現場から退いてしまう人材もいる。世の中、理不尽なことが多いものだ。

 長良川の流れを見つめて回想に浸る鷲見和彦は、10年前の初恋を思い出していた。その頃彼はブラスバンド部に所属する高校3年生だった。クラスメートで分厚いメガネをかけた香織は“友人の一人”でしかなかったが、ある日和彦は香織のメガネを誤って壊してしまう。ところが偶然に見た彼女のその繊細な素顔に胸がときめくのを覚え、対する香織の方も実は以前から彼のことを憎からず思っていたのであった。夏休みの合宿で2人はようやく“両想い”になることが出来、デートを重ね、夢を語り合う。だが、彼女には秘密があり、それを和彦が知ったことが原因で取り返しのつかない事態に陥ってしまう。



 何より、初めての恋に胸を躍らせる主人公たちの描写が素晴らしい。2人の何気ない視線の動き、立ち振る舞い、ものの言い方、すべてが自然で違和感が無い。また、バックの長良川周辺の美しい自然が彼らの心象風景として機能しているのも見逃せない。撮影監督の高間賢治による瑞々しい映像がそれを盛り上げている。

 ただし、川原での星祭りの夜の豪雨をきっかけに二人の関係が修復不可能になってしまうという展開は、重すぎるのではないだろうか。おかげで後半部分が不必要に暗くなってしまった。もうちょっと違和感の少ないモチーフを挿入するべきだったと思う。しかしながら、上質な前半部分だけでも本作の存在価値はあると思う。

 香織に扮する菊地麻衣子はこれがデビュー作。演技は達者で、“一見冴えないけど、メガネを外したらカワイイ”というベタな造形もサマになっている(笑)。和彦を演じる堀真樹の演技力も確かなもので、ナイーヴな若者像を上手く表現していた。ただし、彼はこのあといくつかの実績を残したが、今は引退している。残念なことだ。なお、撮影は全て監督の出身地である岐阜市で行われ、岐阜県教育委員会などが主催した上映会も行われたという。いわゆる“ご当地映画”の一本でもある。
コメント
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