元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「美しい夏キリシマ」

2011-03-14 06:39:32 | 映画の感想(あ行)
 2002年作品。宮崎県えびの市出身の黒木和雄監督が、終戦間近の当地を舞台に、主人公の少年の目を通して、戦時下の人間模様を描いた意欲作。もちろんロケはえびの市で行われている。

 「祭りの準備」や「竜馬暗殺」といった黒木和雄監督のそれまでの代表作は未見だが、少なくとも私が今まで観た彼の作品の中では1,2を争うほど出来が良い。何よりヘンなイデオロギーが入っておらず、香川照之扮する兵隊が満州での出来事を語る場面を除いては、全編にわたって論調がニュートラルであることに感心した。あくまで敗色濃い日本の状況における庶民の哀歓に焦点を当てていることが作者の冷静さを感じさせる。



 動員先で米軍の爆撃により親友を失い、しかも肺病により兵役に就くことも出来ない主人公の中学生のディレンマを中心に、無為に日々を送る彼を叱る祖父や、傷痍軍人と結婚する女中、小作農家の主婦と兵士との密通、爆死した親友の妹との出会い等の多くのエピソードを積み重ねる過程で、戦争と市井の人々との関係を美しい霧島の風景をバックに浮き彫りにする、その手法は鮮やかだ。

 決して声高なメッセージが流れるわけではなく、扇情的なシーンがあるわけでもない。今はまだ海の向こうで行われている戦争、しかし確実に人々の心に微妙な鬱屈を蓄積させていく有様を、住民の生活ベースを踏み外すことなく着実に描く。そのクレバーさが心地よい。原田芳雄をはじめ、石田えり、寺島進、牧瀬理穂、中島ひろ子など多彩なキャストの好演も嬉しい。主人公役の柄本佑はこの頃からなかなか達者なところを見せる。ヒロイン役の小田エリカの可憐さも印象的だ。
コメント
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