元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ディープ・カバー」

2011-03-26 06:57:40 | 映画の感想(た行)

 (原題:Deep Cover)92年作品。主人公・ラッセル・スティーヴンスJr.(ラリー・フィッシュバーン)は子供の頃、強盗事件を起こした麻薬中毒の父親を目の前で殺されたことから、警官になった。指令に従ってロスアンジェルスを本拠地とする国際麻薬シンジケートのトップに近づくため、ジョン・Q・ハルと名を変えて売人になりすます。悪徳弁護士ジェイソン(ジェフ・ゴールドブラム)と知り合って内部に入り込むうち、ハルはこの組織が政府高官と癒着し、南米諸国の政治家を巻き込んだ陰謀を進めていることを突きとめていく。

 「レイジ・イン・ハーレム」(91年)で知られるニュー・ブラックシネマのオーガナイザー、ビル・デュークの監督作。冒頭、チャールズ・マーティン・スミス扮する警察の上司が任務に適した警官を面接で選ぶシーンが興味深い。“黒人とニガーの違いは何か?”など、もろ人権侵害の質問が飛び出す。人種差別の溝は深いとの認識を新たにしたのもつかの間、映画はロスの街に横行する暴力の洪水を描きつつ、組織に潜行した主人公の内面を綴っていく。

 アクション映画らしいシーンがふんだんにあるが、それだけで終わらないところがこの作品のセールス・ポイントである。悪人を演じる主人公は、トップに近づくほど次第に自分の心の中にある闇の部分が多くなっていくのを感じ始める。

 任務の目的が実は政治的なゲームに過ぎないと知った時、彼の行動は最初の指令を無視したものになっていく。自身も麻薬に手を出し、組織の女とねんごろになり、上司と対立し警官を辞めるハメに。組織内部で対立する者を次々と葬り去り、シンジケートの顔役になった主人公を待つ運命は果たして・・・・・。

 暴力を嫌悪しながらそれに魅了されていく人間の心の弱さを描いたこの作品は、善良で実直な刑事(クラレンス・ウィリアムズ)を安易に登場させるなど、いくぶん図式的な部分もあるが、見応え十分といえる。ハードボイルドを絵に描いたような主人公のツラがまえもいいが、弁護士ゴールドブラムの怪演が光る。
コメント
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