元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「硫黄島からの手紙」

2007-01-08 08:06:45 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Letters From Iwo Jima )やはりアメリカ人が撮っただけに、本作よりも前の「父親たちの星条旗」の方がサマになっている。特に当事者意識の高さにおいて、しょせんは“ヨソの国の立場”を想像して撮った本作が後れを取るのは仕方がない。

 だが、それでもクリント・イーストウッドの健闘ぶりは評価されて然るべきだ。綿密な事前調査により、日本側の描写に関する違和感は納得できるレベルにまで抑え込まれている。少なくともハリウッド名物“えせ日本”みたいなのは存在しない。これは単に“日本の観客に配慮した”というマーケティング面だけでは為し得ない、真にあの戦いを客観的に描こうとする作者のスタンス故だろう。それだけ厳然とした歴史の前では真摯にならざるを得ないのだ。

 硫黄島における日本軍の戦い方は戦略面で面白いネタが数多く転がっているが、イーストウッドはこれを完全無視した。同時に米軍の攻め方に関する言及もない。ならば「フルメタル・ジャケット」でのS・キューブリック監督のような、戦争をまるで科学の実験のごとく非情緒的な事物として扱っているのかというと、それも違う。イーストウッドは戦争をどうしようもない“人間の業”として扱っている。

 日本側からすれば、硫黄島の戦いをはじめとする太平洋の島々での攻防戦は“あの時、ああすれば良かった”と思われることがたくさんある。たとえば、ナントカのひとつ覚えのような“玉砕”の連続ではなく、敵に囲まれた時点で降伏して全員捕虜になれば逆に米軍としては扱いに困り果てるはずだ(爆)。でも、そういう“後講釈”は別にして、ここでは目の前に戦争があるという事実に対して各人がどういう対応をするのか、それを正面から見据えていることに感心する。

 陸軍・海軍というセクトにこだわって墓穴を掘る者、合理的な戦略を提案する者、自決する者、厭戦気分から投降しようとする者、主人公のように“戦争なんて”と斜に構える者etc.それらを否定したり賞賛したりするでもなく、間違いなくその場にそういう者たちがいたであろうことをすべて肯定する。これらの人間群像こそが戦争のリアルさであることをイデオロギーを抜きにして描ききったことが本作の勝因であると思う。

 それにしても、この題材をアメリカ人に持って行かれて、日本の映画人は口惜しくはないのだろうか。時事ネタだけではなく、我が国の“歴史”たる大東亜戦争まで、まんまとハリウッドに首尾良く映画化されるとは、実に遺憾なことではないのか。日本は硫黄島での戦闘に負けただけではなく、今またこの戦いを通しての歴史に対する洞察度でもアメリカに負けてしまった。

 栗林中将役の渡辺謙、バロン西に扮した伊原剛志、あと加瀬亮や中村獅童といったキャストも万全の仕事ぶりである。もちろん主役(狂言回し)の二宮和也も良いのだが、妻役が裕木奈江というのは年齢差を考えると無理がある。ここは宮崎あおいか綾瀬はるかあたりがベターな配役だったのではないだろうか。
コメント (2)
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