元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ディパーテッド」

2007-01-28 07:42:52 | 映画の感想(た行)

 (原題:The Departed)香港映画「インファナル・アフェア」のハリウッド版リメイクだが、あの傑作と比べるのは無理があるとしても、本作単体としては随分と気勢の上がらない映画である。

 最大の難点は、警察とマフィアがそれぞれのスパイを相手方に送り込むという設定において、刑事がマフィアに潜入するくだりだけが不必要に長いことだ。これは逆ではないのか。潜入捜査なんて過去の映画でさんざん描かれている。対してマフィアが警察に潜り込むなんてのは過去にはあまりないネタであり、そもそも悪の権化であるマフィアの一員が、たとえボスの言いつけであっても“正義”を建前とする警察に籍を置くのは、本人の内面で相当な葛藤があることは想像に難くない。重点的に描くべきなのはこっちの方であり、だからこそオリジナル版では続編をまるまる一本使ってマフィアのスパイである刑事の“その後”まで描いたのだ。

 とはいえ、監督のマーティン・スコセッシが警察のスパイとマフィアのボスとの関係にこだわった理由もある程度は分かる。それは「ギャンク・オブ・ニューヨーク」と同じくイタリア移民とアイルランド系との確執を描きたかったからだろう。

 ただしそれはイタリア系である監督のアイデンティティを前面に出す効果はあっても、映画自体としては何ら興趣を生み出さない。要するに“どうでもいいこと”なのだ。その“どうでもいいこと”にかなりの上映時間を割いたことにより、作品の重要ポイントであるべき主人公二人による丁々発止の頭脳戦がだいぶんお座なりになってしまった。終盤のバタバタとした展開も愉快になれず、これはすでに凡庸なノワールものとしてのレベルに落ちていると言って良い。

 主演のレオナルド・ディカプリオとマット・デイモンは、まあいつも通りで特筆するほどでもなく、少なくとも「インファナル・アフェア」のトニー・レオン&アンディ・ラウとは月とスッポンだ。ヒロイン役のベラ・ファミーガに至っては“フツーのおねーさん”であり、いくらオリジナル版でのこの役が“お飾り程度”だったとはいえ、ケリー・チャンとは比較にならない。良かったのはサスガの貫禄を見せるボス役のジャック・ニコルソンと、毒舌刑事のマーク・ウォルバーグぐらいか。

 なお「インファナル・アフェア」では主役の二人がオーディオショップで出会う印象的なシーンがあるが、本作ではその場面はない。ただし、マット・デイモンの自宅ではちゃんと“それなりの機器”が置いてあるあたりはオリジナル版に対してのフォローのつもりだろうか。ちなみにアンプ類はマッキントッシュ社製、スピーカーはハッキリと映されていなかったが、ヘッドフォンはゼンハイザー社製のものだった。
コメント (2)
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