元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ココシリ」

2006-08-29 06:52:17 | 映画の感想(か行)

 (原題:Kekexili:Mountain Patrol)海抜4千メートルを超えるチベット高原の奥地に生息する希少動物・ヒマラヤカモシカを密猟者から守る山岳パトロール隊の苦闘を描いた実録映画。

 パトロール隊とは言っても当局側から雇われているわけではなく、住民の自発的な行動でしかないのだが、完全武装している密猟団とのバトルはほとんど戦争であり、犠牲者が絶えない。しかも、敵は密猟グループだけではない。厳しい自然が容赦なく立ちふさがる。

 まるで求道者にも似た見返りのない崇高な行動に彼らを駆り立てるものは何か。死んで行った仲間のためか? それだけではないだろう。犠牲者が出たのは結果論に過ぎない。セリフのほぼ半分が現地語であることが示すように、彼らはチベット人だ。そして、彼らを取材しに北京からやってくる若手ジャーナリストもチベット人の血を引いている。

 対する密猟団は、東方から来た欲得しか頭にない典型的な“中国人”だ。こう書けば分かるとおり、中共に侵略され今でも搾取され続けているチベット人のアイデンティティが、覇権主義の権化のような中華民族を無法な密猟団になぞらえ、必死の抵抗を試みているという構図が見えてくる。神聖な土地を荒らす者は、密猟団だろうと何だろうと、許すわけにはいかないのだ。

 その純粋な心意気が観る者を圧倒し、奥深い感動を呼び起こす。

 雄大なチベットの風景はそれだけで入場料のモトは取れてしまうし、筆舌に尽くしがたい撮影スタッフの苦労は画面全体に有無をも言わさぬ説得力を充満させる。監督は「ミッシング・ガン」のルー・チューアンだが、これだけ反・漢民族的なシャシンを作って良いのだろうかと心配になってくる。とにかく、本年度を代表するアジア映画の力作であることは間違いない。
コメント
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